 
 
5 享有と享受(きょうゆうときょうじゅ)
トップページに戻る  目次ページに戻る
●享有(きょうゆう)と享受(きょうじゅ)
 日本国憲法の前文を読んだことがありますか。
 「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民が享受する」
という箇所があります。
 ひとことで言えば「主権在民」、国民の信託によって権力が行使されるということです。「享受」という言葉がでています。
 そして、憲法第11条に「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」と「享有」がでてきます。
 わたしは享有を「共有」、享受を「共受」を勘違いしていました。
 そこで調べ直すと。享有は「権利や能力などを生まれながらにもっていること」でした。
 また、享受は「ものごとを受け入れて、生活や心を豊かにする」とあります。
 憲法はともかく、民法の条文を読むと、元が明治の美文体ですから今ではなじみない言葉が飛び出します。
 民法第3条は「私権の享有は出生に始まる」と「外国人は、法令または条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する」となっています。
 民法では権利能力を「私権の享有」というのに驚かないでください。
 国によって与えられるのでなく、頭の良し悪しや器用・不器用あるいは五体満足にかかわらず、国民が生まれながらに持つ権利です。
 権利義務というのは権利や義務を持つことができる資格で、売主や買主になることができます。
 資格はあっても判断や意思決定ができない、胎児(たいじ)・未成年者・成年被後見人・被補佐人・被補助人などには保護・補佐・補助を行う人がつきます。
 取引の制限や相手方の保護は「制限行為能力者」でふれます。
 民法第3条は権利能力の「始点」、つまりスタート位置を示すにすぎません。
 【補足】 民法上の能力の種類
 これからいろいろな「能力」が出てきますのであらかじめ整理しておきます。
 詳しいことは自由国民社発行の『図解による法律用語辞典』補訂4版の220頁を読んでください。
 能力は責任と呼ばれることもあわせてご承知おきください。不法行為能力は「不法行為責任」と言われています。
    
  
    
      
        | 種類/内容 | 意味 | ある場合の事例 | ない場合の効果 | 
      
        | 権利能力 | 権利や義務を持つことができる資格 | 売買契約で、売主や買主になれる | 権利を持つことも、義務を負うこともない | 
      
        | 意思能力 | ものごとを判断し、それに基づいて意思決定できる能力 | 相手から贈与を受けられる ※贈与は契約です
 | 行為は成立しないので無効 | 
      
        | 行為能力 | 財産法上の権利や義務を果たすことが一人で完全にできる能力 | 財産に関わる取引を行える ※制限行為能力者がいる
 ※法人は目的の範囲内に限る
 | 行為を取り消すとはじめから無効 
 | 
      
        | 身分行為 能力
 | 身分にかかわる権利や義務を一人で行える能力 | 子の認知、養子縁組、離縁、遺言が行える ※年齢制限がある
 | 無効 | 
      
        | 不法行為 能力
 | 行なったことから生ずる賠償等を認識できる能力 | 本人が損害賠償などの責任を負う | 本人は責任なし。監督義務を懈怠した法定監督義務者が損害賠償等の責任を追う | 
    
  
 
文頭に戻る