目次
1定年をきっかけに
2飯のタネにしても
3調べる楽しみ
4そのままにしておけないもの
5まとめる方法
6法律に含まれること
7できそこないにしても
●定年をきっかけに
民法を読み直すきっかけは、定年退職前に自分がかかわってきた仕事を整理するためでした。
かかわってきた仕事の基になる法律や法令と実際に行われる仕事には多少のずれがあります。
法律や法令にはそれをどのように解釈するかという問題がともない、そこに判例や通達があるわけです。
学説というのも法律や法令をいかに整合性を保って解釈するかに尽きます。
ちょっと脱線しますが、法律の解釈の方法は多数あります。文字解釈・文理解釈・論理解釈・目的解釈・趣旨解釈・反対解釈・類推解釈・補正解釈などきりがありません。
そして、判例や学説にも通説・多数説・小数説がつきまといます。
ひとつの条文にしてもとらえかたの組み合わせで多数の解釈が派生します。
●飯のタネにしても
組織で仕事をしていると自分と異なる見解や通達に従わざるをえません。
自分の見解に固執して、判例や通達を無視したり批判することもできますがそれは組織の内部でのことにすぎません。
それに、判例や通達は時の流れとともに変化し、解釈も変化します。
そして、めまぐるしく変わる社会生活に対応して法律や法令は訂正されたり追加されます。
わたしのかかわった仕事は毎年改正され、それを身に付けるのに追われてきました。
消化しきれないままで仕事を行なったことも多々あります。
その反省とともに、仕事や生活と直接かかわらないばかりに横に置いてきた法律や法令もあります。
それなら「調べ直そう」と始めたのが民法でした。
●調べる楽しみ
「学び直そう」ではなく、「調べ直そう」というのはわたしの習性(くせ)です。
学ぶという言葉は何となく煙たいからです。艱難辛苦に耐えて身に付けたり、会得するイメージがつきまといます。
そういう辛さをともない持続を要する営みをわたしは続けることができません。
でも、他人の言い分に理解できないことを確かめ、自分で行なって感じた疑問を調べ直すことは苦ではありません。
それは山歩きやクルマの運転で身に付けたものです。
わからないことを確かめて先に進んだり、戻ることをわたしはいといません。
そこからいくつかの楽しさを見つけて寄り道してきました。
調べることは身を守り、多様に展開できる柔軟で幅広い思考だとわたしは思います。
義務的に渋々身につけることではないからです。
●そのままにしておけないもの
退職を機会に始めたのは民法の復習だけではありません。
山歩きや無線交信をきっかけにした自然や宇宙の基となる物理学の考え方。
パソコンやギターをきっかけに数や比率とその組み合わせで始めた数学の考え方。
学生時代に関わったばかりに尾を引いている哲学・論理学・経済学の考え方。
いずれも楽しくてそのままにしておけないものです。
そして、面白くはないけれどそのまま放置しておくのがくやしいのが法律の考え方です。
嫌いなものをあえて先にしたのは、今までの仕事を振り返り、見直す気になったからです。
●まとめる方法
基礎用語を無視して法律を取り上げても門外漢(シロウト)の遠吠えにすぎません。
そのためには、条文を読み直して通説を整理する作業が必要でした。
学者の書いた専門書をさけ、弁護士のかみくだいた解説を読み、受験勉強のための参考書を眺め、用語辞典を並べて比較したものです。
レベルが低いと言われればそのとおりです。
判例や学説に立ち入らず通説にしたのは、そういうレベルの法律解釈が条文に一番近いからです。
こじつけとしか思えない判例や学説に振り回されるのはコリゴリですし、たたき台にしても不毛です。
とはいえ、作った用語集は厳密な法律用語を使っていません。
わかりやすく、なじみやすい表現を優先しました。
法律用語は法律家のための暗語や略語ではありません。
●法律に含まれること
あれこれ脱線しましたが、わたしは仕事のかかわりで法律に接してきました。
それを身に付けて仕事をし、家族を養い、自分の趣味を楽しんできました。
そこには好きや嫌いを超えて法律がありました。
社会や国家を持ち出すのではなく、あなたとわたしと家族が「円満に暮らす」ために法律があります。
自分だけの権利を主張するためでなく「互いの権利を調整」するために法律があります。
社会生活を営むために「妥協しなければならない義務」も法律にあります。
そして、従わないことによる制裁である「罰」や意図の有無にかかわらず負わなければならない「責任」も法律にはあります。
●できそこないにしても
民法用語集はそれを整理したものにすぎません。
受験勉強に使うには説明が簡単すぎたり、余計なことが多過ぎる。
用語集にしては言葉の説明ばかりで具体例を示していない。
文字だらけで表や図解がなくて味気ない。
そういう欠点はキリがなくあります。
民法の範囲を全体的につかむことを優先しましたので、不足分は自分で調べてください。
用語集を作るために『学習六法 第7版』(日本評論社)の民法と憲法だけは全条文を読み流しました。
ふりがな付きで文字も大きいのでなじみやすい六法です。
自分で調べて確かめてから先に進むのはあなたの自由です。