責任と義務
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責任と義務
民法の解説書を読んで、アレッと思うときがあります。
たとえば「責任」と条文に記載されているとき、たいていは厳しい「義務」です。そして条文の見出しも責任と義務がでてきます。
法律は「権利」と「義務」で組み立てられていますが、「責任」を使うのはなぜでしょう。
気になって有斐閣発行の『法律学小辞典』を開けば、法律的責任は、法律上の「不利益」や「制裁」を負わされることを意味しているそうです。
民法で使われる用法も多様で、次の三つの区分がされています。
@違法な行為を行なった者が損害賠償を課されること。刑罰が課される刑事責任と別の、いわゆる「民事責任」です。
A義務を負うこと一般を指す。民法117条(無権代理人の責任)や民法446条(保証人の責任等)は義務を指すようです。
B債務の履行の最後の砦としての債務者の財産、つまり担保財産を意味する。この使い方は特殊なのでわかりにくいでしょう。
そこで、@について調べると、、民法415条(債務不履行による損害賠償)や民法543条(履行不能による解除権)には「債務者の責め」とあり、民法709条(不法行為による責任賠償)や民法704条(悪意の受益者の返還義務等)には「賠償責任」が使われています。
せっかくなので調べると、民法債権編の「不法行為」には、監督義務者の責任(714条)、使用者責任(715条)、注文者責任(716条)、工作物責任(717条)、動物占有者の責任(718条)、共同不法行為者の責任(719条)があります。ペットを飼ってる人にも損害賠償責任があることを忘れないでください。
また、損害賠償とは別に債権編の契約には「担保責任」という責任がけっこう定められています。これは、売買・請負・利息付消費貸借などの有償契約には瑕疵(かし)について無過失責任を定めたそうです。
ちなみに、「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」は民法債権編の売買契約の570条「売主の瑕疵担保責任」だけでなく、請負契約にも634条(請負人の担保責任)から640条まで瑕疵の担保責任が詳細に定められています。
それでは、刑法の責任はといえば、広義は「刑罰を受けなければならない法的地位」で、狭義は「構成要件」・「違法性」と並ぶ「犯罪の成立要件」とあります。
民法の目的は私人間の紛争解決や調整にありますが、刑法は国家や社会と個人の関係ですから責任は処罰と変わりません。
こちらの責任は単なる義務でなく罰を伴い、損害賠償ですまされない国家的・社会的な制裁です。
ついでに、「行政責任」にも触れておきます。クルマを利用している方は十分わかっているでしょうが、自転車で他人を傷つけても問われます。
相手を傷つけたり物を壊せば損害賠償の「民事責任」、事故を起こして死傷させれば刑罰としての「刑事責任」、そして車両を運転することに伴う違反行為は「行政責任」が問われます。
クルマの運転は行政罰の「反則金」や減点で済むけど、自転車は反則制度がないから刑法204条(傷害罪)・205条(傷害致死)あるいは209条(過失傷害)や210条(過失致死)になってしまいます。
むろん、クルマの運転は免許証を持つ限り、たとえペーパードライバーでも刑法280条の2(危険運転致死傷)や211条(業務上過失致死傷等)が問われます。
業務というのは営業の利益を得ることでなく、クルマを利用することです。
それでは義務とは何でしょうか。権利に対応する概念ですが、二つの側面があります。
ひとつは、「何々をしなければならない」という意思や行為を求められることです。これは権利を持つ人が、義務を負う人に行いを求める面です。
もう一つは「何々をしてはならない」という行為をしないこと(不作為)を求められることです。こちらは相手の行動に縛りや歯止めをかける面です。
いずれにしろ、義務には二つの側面がつきまといます。
そして、権利と義務は行為の内容によって入れ替わります。
売買契約であれば、売主には「代金を受け取る権利」と「物やサービスを引き渡す義務」があり、買主は「代金支払いの義務」と「物やサービスを受け取る権利」があります。
これは民法533条の「同時履行の抗弁」に似ています。相手方が債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒めるという条文です。
債務は債権にたいする概念ですが、ここでは権利=債権、義務=債務と考えてください。
相手が物やサービスを引き渡さなければ代金を払わないし、相手が代金を払わなければ物やサービスを渡さないという規定です。
これ以上立ち入るとキリがありませんので義務はこの程度にします。
義務は権利と裏腹のものであり特に加重されるものではありませんが、責任には制裁や不利益が加重される側面があると考えておきます。
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