沼津あれこれ

雲見と岩地



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 田村隆一の自撰詩集『腐敗性物質』(講談社学芸文庫、1997年)を買ってきた。ちなみに、同じ文庫には『詩人のノート』(2004年)もある。1923(大正12)年の生まれだから父母と同世代だ。

 荒地の中でも文学に固執した詩人である。サービス精神旺盛で、キザを装い、たくさんのエッセイで楽しませてくれた。そこらへんは作家の五木寛之に通じる。整った顔立ちでいやみを感じさせない人だった。

 伊豆の西海岸は出向くたびに変わっている。入り江をへつるように曲がりくねっていた道路はトンネルでつながるようになった。そのわりに季節はずれになるとものさびしい。昨年3月に訪れたときも同じだった。

 そのたびに、田村隆一の詩集『緑の思想』(1967年刊行)にある「雲見(くもみ)」と「岩地(いわち)」を思い出す。いずれも、松崎温泉と波勝崎の間にある温泉場である。35年前から何度も通過してきたが、気の抜けない山道だ。彫刻が道の端に並んでいるが見るどころではない。


                            雲 見  

                             田村隆一

                    どんなに長い夢でも
                    見るのは一瞬のうちだとしたら
                    伊豆西海岸岩地から
                    雲見までの
                    あの曲りくねった道は

                    青の光り
                    波に砕ける波
                    おお 沖の小島の
                    西風に歯をむき出せ
                    白い頭韻

                    光りは屈折する
                    透明な夢のなかを
                    だれもいない曲りくねった道を

                    突然 ぼくの光りは切断される
                    するどい円錐形の
                    富士

       
                     (詩集『緑の思想』所収)

 もうひとつの「岩地」は景色の描写から小難しい理屈を並べるから省く。どちらも岩地から雲見へ向かうのは変わりない。松崎温泉の手前にある黄金崎や恋人岬まで訪れてもここまで足をのばすクルマは今も少ない。

 大瀬(おせ)、戸田(へだ)、土肥(とい)、宇久須(うぐす)、安良里(あらり)、田子(たご)に加えて岩地や雲見から眺める富士山は海の上に突き出ている。クルマを止めてゆっくり眺めたいものだ。

【補記】
1 私のホームページの「30男のつぶやき」で田村隆一の詩に触れています。興味のある方はぜひ読んでください。
2 昨年の西海岸ドライブもホームページの「出向いた場所」に写真付きで掲載しています。でも、岩地と雲見はいつもムキになって走るので写真は撮ったことがありません。

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