CQおじさん
トップページに戻る 目次ページに戻る 前頁へ 次頁へ
第3章 ふれあい
クルマ談義
とんだ勘違い
元気なCUP
異性は面倒
触れたくないこと
元気な中学生
言葉の怖さ
「久しぶりだね、DSL。デートは上手く行ってるか?」
「からかわないでくださいよ、CBAさん」
「この間、ワッチしていたけどBELの家に若者が集まったようだね」
「DHXも一緒に行きましたよ。BELの家はクラブの集会所みたいになっていますよ」
「それじゃ、この前はバーベキューに出かけたんだ」
「楽しかったですよ。CBAも来ればよかったのに・・・」
「BELに誘われたけど、人見知りが激しい奴が一人いるから止めたよ」
「CEOも、CFXも来たんですよ」
「あいつらは俺と同い年の独り者だよ。気の良い奴らだけど・・・」
「CBAだって結婚は遅かったって聞いていますよ」
「山歩きだ、旅行だ、クルマだと寄り道してきたから身を固める気がなくてね、DSL」
「今もクルマが好きじゃないですか」
「走らせるのは楽しいからね。でも、平らな道は退屈さ。カーブを走るのが好きなんだ」
「そういえば、CBAは知っていますか。このごろ、産業道路でゼロヨンレースが流行っているんですよ」
「公道でやって欲しくないな。迷惑だもの」
「興味はあるんでしょ」
「今でも、交差点の発進の時は思わずやってしまうね。ちょっと前までマニュアル車で我慢していたけど、もう年だからオートマ車に換えておとなしく走るように努めているよ」
「元気じゃないですか。ゼロヨン見物にDHXやDBRも一緒に出向きましたよ」
「あんまり派手にやると取締りが厳しくなるから、ほどほどにしておけよ、DSL」
文頭へ戻る
●クルマ談義
「ブレーク。DHXいいですか」
「DHX、どうぞ」
「CBAさん、今晩わ。DSL、ここにいたのか。今夜も見物に行くか?」
「DHX、その話をCBAさんにしていたところなんだ。見物して捕まるなと言われたばかりだよ。CBAさんどうぞ」
「レース場とか人のいないところでやればいいのに公道でやるから腹が立つんだ。DHXどうぞ」
「あそこは夜はクルマが絶えるから大丈夫ですよ。でも、目立つのはやばいな。DSLどうぞ」
「DHX、今日は妹を迎えに行かなきゃならないので止めときますよ。CBAどうぞ」
「ゼロヨンだけでなく、サーキットマニアも困ったものだ。大垂水峠とか箱根新道でやられるのも迷惑だ。群れれば何をしても良いと考えること自体が許せないよ。やりたきゃ無人島とかコロシアムで、救助はいらない証文を出してやればいいんだ。事故の後始末だって大変だからね、DHXどうぞ」
「CBAさんは、けっこううるさいんだね。でも、ラリーだってスピードマニアが多いじゃないですか、DSLどうぞ」
「そうだよ。パリ・ダカールラリーなんて、猛スピードで走り回っているよ。CBAさんどうぞ」
「俺はナビゲーターが専門なの。無茶をしないんだ。ルールを守るよ」
「嘘をついて! お父さんは今もスピード狂なのにね、太郎」
「ちょっと手が離せない用が入ったんでCBAは閉局します。DSL、後はよろしく」
「あんた、けっこうキレイゴトを並べているんじゃないの。車線変更はしょっちゅうするし、スピードだって出しているくせに」
「そうよ。お兄さんたちに説教するほどマトモな運転をしてないのにね、お母さん」
「俺の運転に文句を付けてくれるんじゃないか。昔に比べればおとなしく走っているんだぞ。人を乗せる運転に徹しているのに」
「山道になると急に元気になるのも困ったものよ。真っ直ぐじゃないからスピードを落としたらどうなの」
「でも、村山のおじちゃんはもっとスピードを出すよ。お父さんはマシの方ね、太郎」
「ビュンビュン飛ばすから怖いね」
「坂田のおじちゃんだって、もっと元気がいいじゃない。お父さんでも追いつけないくらいだもの」
「でも、君津のおじちゃんはゆっくり走るから、後ろのクルマがくっついて怖いよ。おねえちゃん」
「お母さん、お父さんの運転はおとなしい方なんだよ」
「まったく、クルマに乗ると我が家の親戚はムキになる男ばかりだわ」
「富士スピードウエーで日本選手権が行われたり、鈴鹿サーキットで競技も行われた時代に育ったからだろうな。日産プリンスのR三八〇とか、ホンダのS八〇〇、トヨタの二〇〇〇GT、マツダのコスモにあこがれたものさ」
文頭へ戻る
●とんだ勘違い
「お父さんは、我が家の《人柱》だね、おねえちゃん」
「《大黒柱》だよ。あんた何を言い出すの」
「おまえだろ、太郎に俺が《人柱》だなんて言わせるのは。どうりで、このごろ寝苦しいと思っていたんだ」
「そんなことはないわ。《大黒柱》って教えているのに、この子と来たら・・・」
「太郎、あんたのせいで夫婦喧嘩が始まったじゃない、わたし寝るわよ」
「だって、《人柱》は大切な人のことだろ」
「それは、《大黒柱》というのよ。人柱は、橋や建物の下に生きたまま埋められた人のことよ。あんた、分かっているの。いくらお父さんがお母さんの尻に敷かれていても、人柱はひどすぎるわよ」
「知らなかったな。俺も寝よう」
「確かにあんたはクルマのことになると若い人と似たように夢中になるわ」
「おまえは外観を気にするけれど、俺はエンジンや足回りの方が気になるね。今さら性能がどうこうと試す気はないが、家族の安全と走行性で選ぶよ」
「ターボだ、DOHCだとこだわるのも変よ。ちゃんと走れば充分じゃない。呆れてしまうわ」
「そこが、俺とおまえの違いだろう」
「クルマを買う度に整備書を別に注文する人なんているの」
「あれはけっこう参考になるんだ。綺麗事を並べているカタログと違って、そのクルマの限界が分かるだけ安心だよ」
「けっこう高い出費なんだから・・・」
「限界を知って走らせるのも大切なんだよ。俺は元々臆病なんだぜ。無茶して死ぬ気はないぞ」
「小心者がクルマに乗ると豹変するわけね。あんたもその一人なんだわ」
「そうだよ。ムキになってロクなことがないのは、クルマや山歩きでたっぷり身に付けたよ。粋がって走る気はないぞ」
「若い人を相手に、クルマの話は止めてよ。暴走族と間違えられてしまうわ」
「今さらスピードなど出せるものか。何もしないとムキになるから、無線をして抑えているんだ。アンテナが付いているからスピードを出しようがないんだ」
文頭へ戻る
●元気なCUP
「こちらはJ×1CUP。お聞きの方はいらっしゃいますか」
「J×1BUZ、よろしく」
「BUZ局了解しました。こちらはJ×1CUP、△区です。名前は清水です。カードはJARL経由でお送りします。ありがとうございました」
「ほかにどちらかいらしゃいましたか、こちらはJ×1CUP」
「J×1ECC、よろしく」
「ECC局了解しました。カードはJARL経由でお送りします。ありがとうございました。また次回よろしく」
「ほかお待ちの局はいらっしゃいますか」
「お父さん、この間のおばさんがCQで頑張ってるよ」
「このところ、毎晩CQを出しているわ。元気なおばさんね」
「声が若いから反応が良いな。お母さんだって、CQを出せばもてるぞ」
「やらないのを知っていて、お父さんが言い出したぞ、おねえちゃん」
「もてたら慌てるのにね、太郎」
「何よ! 無線をする男は鼻の下が長いだけよ。顔も見えない相手に群がって、みっともないわ」
「手際良くさばいているんじゃないか。俺だってあんなに上手く切り盛りできないよ」
「わたしがいなけりゃ、あんただって応答したいんでしょ」
「俺はCQを出しても、女性は相手にしないことにしているんだ。一人で懲りているからな」
「ひょっとしたら、それはわたしじゃない」
「そのとおり。声と顔で騙されたダボハゼが俺だからね」
「お父さん、止めとけよ。後で俺たちにとばっちりが来るんだから・・・」
「お母さんに失礼よ。この前はフグなんて言っていたじゃない」
「でも、あのおばさん元気だね。家の人は知っているのかな」
「それは知っているでしょう。あれだけ続けているんだから」
「お母さんがやり始めたら、食事の支度をしてくれないだろうね、おねえちゃん」
「熱中するタイプだから、そうかもしれないわ。子供会の役員のときは手を抜かなかったもの」
「お父さんは手抜きをするけど、お母さんは生真面目だからね・・・」
「それをお父さんは忘れているのよ。あのおばさんだって、家のことを忘れているかもしれないよ、太郎」
「困るのは自分だと分かっていないんだ、お父さんは」
文頭へ戻る
●異性は面倒
「お父さん、CQは誰が出ても良いんだね」
「そうだよ、太郎。それがどうした」
「男の人でも女の人でも良いわけだね」
「おじいさんでも子供でも良いのよ、太郎」
「それじゃ、おばさんでもおねえさんでも良いんだ」
「でも、お父さんの場合は女性と交信しないことにしてるよ」
「お母さんがいつも側にいるからだね」
「それだけじゃないぞ。話題を合わせるのが面倒なんだ。男同士のほうが気楽だよ」
「鼻の下が伸びるから止めているだけよ」
「また、お母さんたら・・・」
「カードの交換だけなら、おねえさんとも交信しているよ。もちろん、おばさんでもね」
「面倒ってどういうこと? 」
「言葉づかいに気を使うし、差しさわりのない話題を選ぶしかないからさ」
「男同士ならエッチな話ができるからなの」
「そうではなく、肩が張るからさ」
「不埒なことを考えるから肩が張るのよ」
「また、お母さんは突っかかって・・・」
「お父さんは、回りくどい言い回しが苦手なんだよ」
「ズケズケ言って嫌われるからよ! 」
「お母さん、止めときなよ・・・」
「男同士でも肩の張る話題や言い回しは苦手なんだ。特に、人生相談とか論争はしたくないね」
「本当は理屈屋なのに、物分りが良い人間を装っているからでしょ、あんた」
「遊びの世界でギスギスしたって面白くないだろ」
「好きなタイプが出てきたらどうするの」
「鼻の下が長くなるわよ。やけに親切になるところがある人だから」
「それじゃ、お母さんにもそうしたの」
「ちょっと、親切にしすぎたかな」
「その言い方は聞き捨てならないわ! 」
「体調を崩して弱気だったからなあ」
「でも、『妻が側にいるから』って断っているよ、お父さんは」
「一人でいるときは分からないわよ。男なんてそういうものだから! 」
「女だってそうだろう。特におまえは相手にしてくれるひまじんがいなかったからな」
「お父さんは、おばちゃんやおばあちゃんに頭が上がらないから大丈夫だよ、お母さん」
「太郎、あんたは何で女の人を持ち出すの。お父さんが困っているんじゃない」
「BOOのおばちゃんやCUPのおばちゃんと楽しく話しているのに、若いおねえさんが出ると断っているのが不思議なんだ」
「交信の相手にも相性があってね。肩が張る人と打ち解けられる人がいるんだよ。別に男とか女とかで区別していないんだ。コンテストのときは老人だって中学生だって、おばさんでもおねえさんでも交信しているぞ」
「時と場合で相手を選ぶわけか? 」
「その日の気分で選んでいるのよ、このひとは! 」
「お母さんがやきもちを焼くからでしょ」
「交信の後で、ああだこうだと言われるのが面倒なんだよ。テレビを観ているくせに、亭主の顔色を監視する奴がいるとやりにくいんだ・・・」
文頭へ戻る
●触れたくないこと
「話は変わるけど、顔が見えない人と無線をして楽しいの、お父さん」
「見えないから話せることもあるよ。BIGのおじさんはもてて困る話をよくするけれど、面と向かって話したらシラケてしまうだろうな」
「見せたくないものもあるよね、おねえちゃん」
「あんたの散らかし放題のおもちゃは特にそうだね」
「おねえちゃんのテストの結果もね」
「見せたくないものだけでなく、見たくもないし聞きたくもないものは誰にもあるよ」
「そういうこともあるよね、お父さん」
「言葉だけで、互いがイメージを作りあうのが無線かな。でも、無線に限らず、言葉で表現できないもどかしさはあるんだよ」
「愛していると口にしても空々しいかもしれないね、お母さん」
「黙っていては分からないけれど、口にしたばかりに誤解されることも多いよ」
「お父さんは一言多くて失敗し、お母さんは一言少なくて失敗したのかな」
「おまえたちだって似たようなものさ。言わなくてもいいとき口にして怒られ、言うべきことを忘れて大目玉を食っているんじゃないかな」
「言葉は便利なようで怖いこともあるのね」
「丸子は特に気をつけたほうがいいぞ。お母さんはその日には黙っていても、別の日に蒸し返すからな・・・」
「それは、お父さんだって同じことよ。いつも後で叱られてばかりいるくせに!」
「言い表せる限界や誤解を生むにせよ、言葉で繋がりを持つしかない世界なんだ、無線は。でも、それもスリリングで楽しいものだよ」
文頭へ戻る
●元気な中学生
「CBAさんの家族は何人ですか」
「妻と子供二人がいます」
「お住まいはどちらですか」
「●●●です、ESP局」
「職業は何ですか」
「勤め人ですよ」
「もっと詳しく教えてください」
「これ以上は勘弁してください。電波は誰でも聞けますからね」
「何でですか」
「ESP局、アマチュア無線はコールサインを告げれば良いんでしょ。名前も町名も既にお話していますよ。ご不審でしたら、JARL発行のコールブックに記載していますから存分にお調べください。電話も記載していますからかけて結構ですよ。ただし、電波の上で言うのは止めてください」
「初めての交信は自己紹介から始めるんでしょ、CBAさん」
「貴局は誤解されているようですね。自己紹介はコールサインと名前で充分なはずでしょう。家族構成とか生年月日、あるいは職業とか電話番号まで質問するのはマナー違反ですよ」
「別に隠さなくてもいいでしょ」
「あなたは、初対面の人に学校とかクラス名、あるいは保護者の勤め先や電話番号を聞かれて気軽に答えますか、ESP局」
「少しためらいますね」
「そんな質問をするのは警察か役所で確認されるときや金を借りたり、何かを申し込むときぐらいですよ。普通は、初対面の人にべらべら話したり聞くものじゃありませんね」
「分かりました、考えてもみませんでした」
「多分、あなたの読んだ本とかクラブのマニュアルの話し方の手順に含まれていたんでしょ、ESP局」
「そうなんです。それだから、当然のことと思っていました、CBAさん」
「せっかくですから、詳しく話したいのですが時間はありますか」
「時間はあります、CBAさんよろしく」
「まず、無線局として相手に告げるべきことはコールサインと運用場所ですね。それ以外は必要事項ではないでしょ。詳しいことは交信証を交換すれば済みます。もちろん、わたしはカードを送りますよ。次に移って良いですか」
「CBAさん、どうぞ」
「自己紹介の話をしますと、自分が話せないことを相手に求めたり、自分以外の者、たとえば親とか家族のことを話題にしないことです。無線は誰でも聞けるから、そういう気配りが特に大切なんですよ。こちらはJ×1CBA△区、ESP局どうぞ」
「そういえば、友達だって親しくなければ家族のこととか電話番号まで話しませんね」
「顔も見えない相手に、いくら無線局同士であろうと、初対面で聞くのは失礼なんですよ、ESP局」
「分かりました。その他に参考になることがありましたら教えていただきますか、CBAさん」
「初対面の人と話す若干のヒントをあげれば、次のようなものがありますよ。第一は、自分の趣味とか興味を具体的に話すことです。わたしの場合なら、クルマの利用方法、旅行に出向いた印象、キャンプの仕方、最近読んだ本、半田付けなどを相手に不快感を与えない程度に話します。自慢話にならないように抑えることが大切ですね。第二は、自分の住んでる地域の紹介でしょう。どこに何があって、いつごろ作られ、自分がどういう体験をしたかを加えて話します。相手が興味がないようでしたら話題を変えます。退屈ですか、ESP局」
「いいえ、続けてください。言われてみれば話題はけっこうありますね。そういうことを誰も教えてくれませんでした。参考になります」
「第三は、相手に応じた話題と話し方でしょうか。年上とか目上の人にはそれ相応の話し方がありますよ。学校で習ったと思いますが、敬語には尊敬語、謙譲語、丁寧語の三つがあるでしょ。無線は本来は平等ですが、話し方にはマナーがありますよ。また、話題にしても男と女、同世代と他の世代では取り上げて良いものとか悪いものがありますよ。ESPさん硬くてつまらないですか」
「CBAさんは先生みたいですね」
「残念でした。わたしは事務系の勤め人ですよ。社会に出ると話し方ってけっこう気を使いますね。ESP局のように中学生の頃はこんなことを気にしませんでした。それはともかく、互いが打ち解けたとき仕事とか家族の話が出てくるんですよ。第四は、状況に応じた話題でしょう。先ほどは相手に応じた話題でしたが、互いが打ち解けたときには、その日とかその月に起きた事件とかエピソードの手持ち量で幅に広がりが出ます。ワンパターンな話題では相手が飽きてしまいますね。今日はこれくらいにしておきますか、ESPさん」
「CBAさん、失礼な質問をして済みませんでした。とても参考になりました」
「ちょっと厳しいことを並べてしまいましたね。無線だからできることもあるし、やってはいけないことがあることを知って欲しいのでくどくなりました。カードは連盟に送ります。おやすみなさい」
文頭へ戻る
●言葉の怖さ
「お父さん、ずいぶん長く話していたね」
「中学生のお兄ちゃんも、お父さんに食いついていたけど、やり込められてしまった」
「人聞き悪いことを言うなよ。お父さんは無線で説教する気はないんだ。でも、あんな失礼な話し方をしていると相手にされなくなるから教えてあげたんだよ」
「話し方って難しいよね、おねえちゃん」
「聞き方だって気を使うわね、お父さん」
「黙っているのが利口だけど、無線は話さなければ理解してもらえない面があるんだ。言葉の怖さを知っておいたほうが良いんだよ。丸子、おまえは特に気をつけろよ」
「そうだよ、お母さんに反抗したり、俺に命令するのは止めてよ」
「あんた、うるさいわよ。弟のくせに」
「中学生を相手に三〇分もよく話せるわね、あんた。第一にとか、第二にとか並べて説明するのも、あんたらしいわよ。理屈を言い出したらキリがないんだから」
「お父さんは先生になったほうが良かったんじゃない」
「なったら、父母から文句が出るでしょ。厳しすぎて嫌われたり、くだけすぎて品位が欠けるとね・・・」
文頭へ戻る