図解編
人的担保の問題点
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★この文章は「担保と保証の基礎知識」とあわせてお読みください。
お金を借りるときに相手から質問されるのは、その人の収入、財産、信用です。収入は職業や勤務先と年齢、財産は預金や持ち物のほかに住居、信用は資格や技能のほかに勤務年数や生活状況で判断されます。それに、身なりや態度も判断に加わります。
それとあわせて保証人が求められます。最近は保証を専門にする会社も増えて、親類や知人に頭を下げてお願いする精神的な負い目も減りました。わたしはそういうことが歯止めになって借金を増やさずに済みました。安易に借りられるがために、金銭感覚を麻痺させ、有為な人生を狂わせるような気がします。
ともあれ、土地や建物は所有しているだけでは収入も利益も生みません。むしろ、固定資産税やローンの返済で出費が増します。マンションは売っても、建物の減価償却や機能の劣化も加わり、購入価額をかなり下回ります。売ったり再利用をするための評価額で担保の価値が評価されるので、購入した価額とずいぶんかけ離れています。
ところで、担保は借りる人の財産とは限りません。他人の土地や建物だけでなく、国債や権利でもかまわないわけで他人の信用も担保になります。担保は物でも信用でも良いわけです。そこで、質権や抵当権のような典型担保や譲渡担保や仮登記担保のような非典型担保などの「物的担保」のほかに、保証契約や連帯債務のような契約に基づく「人的担保」も利用されます。
保証契約は、債務者が返済不能となった場合に、それと同じ債務額を保証人から回収するものです。ですから、保証人になることはリスクを自ら受け入れることです。人情に惑わされて他人の巻き添えとなるリスクを負ってはなりません。
保証契約の問題点は、保証人が債務者や債権者の都合に振り回されることです。
第1は債務者に収入が無く、返済意思が欠け、物欲や見栄で借りる事情があります。担保となる財産や収入のあてもないのに借金を増やすのは考えものです。借入目的や購入目的とともに債務者の暮らしぶりを確かめる必要があります。
第2は債権者が、売り上げを伸ばすために判断力が欠ける未成年や高齢者に高価な商品を売りつけ、採用ミスを棚上げにして雇われ人の縁故者に責任を転化することです。保証契約は、債権者と保証人が当事者となり、債務者がかかわらない契約です。債権者は債務者と売買などの契約を交わすだけでなく、保証人とも同じ金額の契約を交わし、債権をどちらからも回収できるように図ります。
債権回収やリスク回避から見れば保証契約ほど美味しいものはありません。売上を増やしても、代金が回収できなければ資金繰りが行き詰まります。こういう方法があるから債務者に多少の不安があっても取引ができるわけです。
物的担保の処分は、わずらわしい手続と期間に加え、訴訟申し立てに伴う弁護士費用のほか多くの費用がかかります。そういうコストと比べて保証契約は割安な面があります。
民法の解説にはこういうことは出てきませんが、債権回収実務の本には詳しい説明が出ています。わたしはこういう正直な本を読むのが好きです。
そして、連帯保証をさせて、催告の抗弁や検索の抗弁を封じ、債務者より先に債権回収を図ります。保証人の要件は、@行為能力者であり、A弁済する資力がある(450)ですから、金のない債務者より取立てしやすいわけです。
連帯債務は、複数の債務者にそれぞれが債務総額の返済義務を負う契約です。それは「不可分債務」が、債務者の各人が債務総額の返済義務を負担うのと同じです。債務者の一人が無資力でも債権の回収もれがない債権者に有利な契約です。これは、多数の債務者が平均の割合で債務を負う「可分債務」とは異なります。
人数に応じて債務総額が割り振りされると思い込んでいる債務者にすれば不意打ちのような契約ですが、連帯保証と同様に「連帯」が債務総額の負担だということを知らないからでしょう。リゾート施設や高額商品を販売するとき単独所有では売りにくくても、「共有」にすれば安上がりなイメージで売りつけるようなものです。共有だから持分に応じた負担だと思っていたら、契約書は連帯債務になっていたということもあるようです。売主には、販売時に重要事項の説明をしたという反論も出るはずですが、共有という言葉からは「持分」のイメージしか浮かばないはずです。
連帯債務には「不真正連帯債務」もあります。これは判例から出てきたものですが、共同不法行為の被害者が有する損害賠償請求権のように、被害者は加害者のいずれかに賠償請求しますが、加害者間に負担割合が生じないため支払った者は他の加害者に求償権がないものです。
通常の連帯債務には債務者の間に求償権があるだけマシかもしれませんが、連帯保証契約と同様に「連帯」の重みをズッシリ感じされる不意打ちでしょう。