もくじ
1 時効制度の存在理由
2 時効の中断と停止
3 取得時効と消滅時効
時効は細々した規定が多く、民法の改正事項にも含まれているので要点だけ整理します。
時効の全般にわたるわかりやすい解説書は長戸路正行さんの『時効 あなたは得する人か? 損する人か?』(自由国民社)というわかりやすい本がありますので参考にしてください。
時効の意義を説明する考えは3つあります。@社会の法的安定のため、A権利の上に眠るものは保護しない、B証明の困難さの救済です。わたしはAの説を高校の教科書(丸山真男『日本の思想』に含まれる「であることとあること」)で知りましたが、短期の時効と長期の時効が混在するのでいずれかに統一する学説はないようです。
ちなみに、法的安定性というのは違法無法を問わず形成された法律関係をむし返しで混乱させないことです。江戸時代の古文書を持ち出して権利を主張されても社会は混乱するだけです。権利の上に眠るものというのもわかりやすいけれど権利があるから安住できるわけです。自分の権利は自分で守れというだけでしょう。実務上の問題は時の経過に伴う資料の散逸や記憶の薄れで証拠収集や証明が困難になります。ある種の割り切りがなければ社会は回っていかないという現実的解決も必要です。ただし、犯罪の被害者や家族には心情的なトラウマが残るので受け入れにくい考えかもしれません。
民法の総則編第7章は、第1節・総則144〜161条、第2節・取得時効162〜164条、第3節・消滅時効166〜174条の2に区分されます。総則編の中でも法律行為に次いで条文の多い章で、消滅時効の条文がやたらと多いのが特徴です。
総則は、効力が起算日にさかのぼり、時効を主張するには当事者が援用することが必要で、利益をあらかじめ放棄できないとしてから、時効の中断事由や停止事由に触れます。除斥期間の条文がないことも民法の特徴です。
取得時効は3つの条文しかありません。それに対して消滅時効はうんざりするほど細かい条文が並びます。法の抜け穴の話題にことかかない条文ですが、わたしにはわずらわしいだけです。
※中断や停止の条文は長いので省略しています。必ず条文を読み直してください。
(総 則)
144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる
145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判することができない
144条 時効の利益はあらかじめ放棄することができない
(中断事由)
147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する
@請求 A差押え、仮差押え又は仮処分 B承認
148条 時効の中断は、その中断の生じた当事者及び承継人においてのみ、効力を生じる
149条 裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力は生じない
150条 支払督促は、債権者が期間内に仮執行の申し立てをしなければ時効の中断の効力は生じない
151条 和解及び調停の申立てが整わないとき、一箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力は生じない
152条 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力は生じない
153条 催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、民事調停若しくは調停の申立て、破産手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない
154条 差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない
155条 差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない
156条 時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
157条 @中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。A裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定したした時から、新たにその進行を始める
(停止期間)
158条 未成年者又は成年被後見人と時効の停止
@時効期間の満了日前6箇月以内に法定代理人がいないときは、行為能力者となった時、又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間
Aその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、行為能力者となった時、又は後任の法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間
159条 夫婦の一方が他の一方に有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間
160条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始決定があった時から6箇月経過するまでの間
161条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間
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3 取得時効と消滅時効
174条の2 @確定判決によって確定した債権については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は10年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
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種 類 |
内 容 |
条 文 |
取 得 時 効 |
所有権 |
@20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者 |
162@ |
A10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者で、その占有開始の時に善意・無過失の者 |
162A |
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所有権以外の財産権 |
@20年間、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者 |
163 |
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A10年間、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者で、その占有開始の時に善意・無過失の者 |
|||
消 滅 時 効 |
債権又は所有権以外の財産権 |
20年間行使しないとき |
167A |
債権 |
10年行使しないとき |
167@ |
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定期金債権 |
第1回の弁済期から20年間行使しないとき |
168@ |
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最後の弁済期から10年間行使しないとき |
|||
年又はこれより短い時期によって定めた定期給付債権 |
5年間行使しないとき |
169 |
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診療、助産、調剤の債権 |
3年間行使しないとき ※医師、助産婦、薬剤師 |
170@(1) |
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工事に関する債権 |
工事終了から3年間行使しないとき ※工事の設計、施工又は監理を業とする者 |
170@(2) |
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弁護士・公証人の書類保管 |
弁護士(含む法人)は事件が終了した時から、公証人は職務を執行した時から3年経過後 |
171 |
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弁護士・公証人の職務債権 |
事件が終了した時から2年間行使しない |
172@ |
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売買代金ほか |
2年間行使しない |
173 |
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給料、報酬、運送費、飲食料、宿泊料など |
1年間行使しない |
174 |