44 闇や炎が唄われた時代もあった

ギターに挑戦

 ギターの練習に昔の曲を選んでいる。唄いこんだ安心感に加えてコード進行が簡単だからにすぎない。新しい曲だって移調すれば済むけれど、子どもに迎合する気はない。親父になりきって道楽を楽しむだけだ。そこで岡林信康の『友よ』を久しぶりに口ずさんだ。まったく照れ臭い歌詞である。

 この唄はいわゆるメッセージソングである。友人に呼びかけるスタイルで政治的なプロテストを含んだ唄とされる。今からみれば教条的で粗削りなフレーズである。そういう呼びかけが流行った時代を反映する唄だ。「
夜明け前の闇の中」や「戦いの炎を燃やせ」などというのは扇動的な文句だ。でも、そんなことなどなかったと思うばかりに、「夜明けは近い/夜明けは近い ♪」というフレーズがやけに虚ろに響く。

 だからといって、この唄を無意味だと無視する気はない。幻想にせよ60年代後半には「友よ」と呼びかける雰囲気がわたしの周りにただよっていたことを否定する気にならない。そういう面で岡林の『友よ』の呼びかけを素直に受け入れられた面がある。その後にロックとかパンクという社会に反抗するスタイルの音楽も流行ったにせよ、連帯意識を共有するものではなかった。

 岡林信康は「日本のフォークの神様」と呼ばれたけれどインテリ臭がただよう唄い手であった。仙人的な容貌や行動もあって一目置かれた面もある。そこが吉田拓郎にあった陽気さとの違いだろう。でも、そのインテリ臭さがなじみにくさを生んだのだろう。カレッジフォークやグループサウンズになじんでいたわたしはその煙たさでなじめなかった。

 ともあれ、この唄を口ずさんで懐かしさを感じた。無気力・無関心の学生のはしりであるわたしが社会とのかかわりを意識したきっかけであり、ともだちと口ずさんだ唄である。「
この闇の向うには/輝く明日がある」というフレーズが期待に終ったのももどかしい。(2007/03/05)