フランス人はなぜキスが好きか
    2008年02月26日


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 経済学の復習だけでは気が重くなる。だから、ナンセンスな本もあわせて読む。永田守弘さんの『官能小説の奥義』(集英社新書、2007年)という堅苦しい夕イ卜ルにひかれ、よからぬことを期待して読み始めたらポルノ小説やエロ小説の表現技法の分析で放り出した。これならD・H・ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』(伊藤整訳)のほうがよかったと悔やむ始末である。それなら鹿島茂さんの『乳房とサルトル』(光文社知恵の森文庫、2007年)の夕イトルのほうがナンセンスでおもしろい。片パイ丸出しの母子像のカバー挿入画もおかしい。そしてウソかマコ卜かわからない説明が笑える。

 そこで前掲書の40〜48ぺ−ジにある「フランス人はなぜキスが好きか」に移ろう。いつものとおり鹿島先生はとんでもないことから説き始める。フランス人はセックスが世界で一番好きな民族である。だから濃厚なキスも好きだという説を先生は排除する。フランス人はセックスは古くから好きだったが、イギリス人やアメリカ人が人前でキスをするのに最近まで呆れていたようだ。それがいつの間にか処女性を守る手段として使われるようになったというのが鹿島説なのである。好きであってもセックスに至らぬ防壁としてキスがあるという。

 そこは文学者である。煙に巻くことも上手だ。恋を示す《アムール》はすべて不倫の恋を意味するそうだ。『赤と黒』『谷間の百合』『ボヴァリー夫人』といったフランスの恋の文学は未婚の男と既婚の女との不倫だそうである。どうしてこんなことになったかといえば、「フランスでは、結婚は、完全な商行為、家と家、財産と財産の結びつきにすぎず、当事者同士の愛情というものはまったく考慮の埒外(らちがい)にあったからだ。大切な商行為の「商品」である娘は、間違ってもキズモノにしてはならないが、かといって、若者の性欲は抑圧することが困難なので、そのガス抜きの役割を人妻が引き受けていた」そうだ。



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