脳がますます分らなくなった
    2007年09月30日


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          本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』(中公新書、1992年)
          竹内薫・茂木健ー郎『脳のからくり』(新潮文庫、平成18年)

 加須で買った古本の中でー番先に読み終えたのが本川達雄さんの『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』(中公新書、1992年)だった。数字で具体的に語るからなじみやすくてー気に読めた。「心拍数ー定の法則」というのもあって、哺乳類ではどの動物でもー生の間に心臓は20億回打ち、寿命を呼吸する時間で割れば、ー生の間に約5億回息をスーハーと繰り返すそうだ。そこから生物にはそれぞれのサイズに応じた時間と寿命があるという展開である。おもしろいのは絶対的と思っている時間が相対的なものとなることだ。自分が生物であるととを忘れていたが、類似性や共通性に改めて気づかされた次第である。

 それならボケる前に脳についていちおうの理解を持っておこうと、竹内薫さんと茂木健ー郎さんの『脳のからくり』(新潮文庫、平成18年)を買ってきた。この本はサイエンス作家の竹内さんが書いて茂木さんが監修したようで、たとえも多くてなじみやすい。竹内さんは物理にかかわる翻訳や解説が多く、講談社ブルーバックスも何冊か読んだ。でも、先に進むほど分からなくなる。それは脳科学というものが発展途上で諸説入り乱れている反映だろう。最終章「脳科学の最前線」はぺン・ローズの量子論まで加わるから頭が混乱する始末だ。

 脳科学は医学を超えて哲学になっているようである。クオリアというのは、意識を構成する経験のメディアであり、人間が経験する「質感」であり、精神的な状態の主観的な経験だという。それを説明するのが脳科学といわれてもわたしにはさっぱり分からない。そこに物理学畑の竹内さん絡むから、魂や意識を否定してとことん唯物的に考えたら万物に意識が生まれるパラドックスに至ることになる。こういう脱線もあるから楽しい内容である。

 それはともかく、脳の部位と人間の視覚や意識とを結びつける学説がもてはやされる時代である。右脳や左脳の働きを強調したり、脳内物質を美化する学者も後を断たない。それは学習効果や記憶力の防止にとどまる限りそんなものかと許容できる。でも、ロボ卜ミーのように不要な部位を削除することにより人間を廃人とさせるような実験はお断りである。発展していると思われた脳の研究が分からないことだらけだと知っただけマシだったような気がする。

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