日常にひそむ推論の落とし穴
2006年10月22日
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へ理屈を鍛えるためにたまに哲学や論理の本を眺める。笑いながら読み進めている『北極の北には何がある?
』(スティーブン・ロー著、中山元訳、ランダムハウス講談社、2006年)の第4章はわたしも陥りがちな推論の誤りが要領よく整理されている。本の副題は「「考える脳」をつくる哲学トレーニング19」である。楽しい話題やこむずかしい内容が散りばめられた文庫本で読みやすい。ひとの弱味につけこむだけでなく、もっともらしいデータを並べる理詰めの詐欺もあるから紹介したい。なお、誤診の「謬」は旧字体が使われているが当用漢字の{診」でとおします。
◎8つの落とし穴
取り上げた本には8つの「推論の落とし穴」が掲載されているから概要をあげておこう。*の部分はわたしの解釈である。
(1)ポスト・ホック誤診(迷信の誤診)
根拠のない結論をもとに自分に都合よい因果関係づけを押しつける
(2)権威による論拠
有名人や権威者を持ち出して専門外のことまで権威づける
(3)滑りやすい坂
もっともらしい事実を持ち出し、その論拠や因果関係を示さず次々と飛躍させる
(4)偽りのジレンマ
多くの中から勝手に2つを取り上げて二者択一を強いり、自分の都合の良いものを押しつける
(5)正しさの確認
人間には疑うことより正しいものとして受け入れたがる心理があるのを利用した仮説の押しつけ
(6)ギャンブラーの誤診
確率論を持ち出して自分に都合よく解釈する心理
(7)循環論
ある主張の正しさを証明するのに、その主張が正しいことを前提にしている堂々めぐり
(8)後件肯定の誤診
前提の正しさから結論(後見)づけるのでなく、結論の正しさを仮定して結論に至るトリック
◎詐欺で使われる誤診
先に並べた誤診でいえば(1)、(2)、(4)、(5)、(6)である。
(1)は霊感商法といわれるもので、タタリやケガレを持ち出して脅したり、御利益をちらつかせる商法である。何でも神に帰着させることもある。
(2)は毎日見ているテレビや新聞の広告にあふれている。世間知らずの学者が宣伝に担ぎ出されて有頂天になるのも醜い。
(4)はセールスマンが他社製品と比較して売り込む方法だ。どちらも役に立たないシロモノだったりする。
(5)は政治家が国民感情や世界の常識を持ち出して愛国心を取り上げるときに見受ける。
(6)はわたしがハマる錯覚で、確率は過ぎ去った回数をマイナスして使うものではない。浮気をするよりじっと我慢も欠かせない。
◎理屈屋が陥りやすい誤診
理屈がもっともらしく映るのが(3)、(7)、(8)である。これからは取り上げた本とは異なる例示なので注意してほしい。
(3)は「風が吹けば桶屋がもうかる」という論法に似ている。出発点と結論にはこじつけが介在する。経済学でいえば乗数効果というやつで、数学上の楽しさはあっても効果が不明なものだ。
(7)はもっともらしい仮説につきまとう。「論点先取りの誤診」というけれど、自分の説が正しいと決め込んでいるから訂正しようがない。信じるものは救われるのたぐいの論法でもけっこう通用している。
(8)はけっこうトリックにつかわれて、ウッカリ欺かれる論法である。この論理は、三段論法の変形で下の×の例だが、早口でまくしたてられるともっともらしく聞こえるときがある。
◯
AであればBである。ところでAである。だからBである。
×
AであればBである。ところでBである。だからAである。
◎結論
長々と解説を続けてきたがこれは論理の誤りや落とし穴ですませられない。興味のある方は自分で確かめていただきたい。面白くてためになる内容で笑える本である。