August.30<Els>


明け方。ふっと目が覚めた。

……夢?

白い寝台の上で身じろぎをする。


懐かしい方に、お会いする夢。
……でも、私が黒猫になって、あの方に助けて頂くなんて…

なんて、身勝手な…


クスリ、と小さく笑う。
とても怒っていらっしゃったあの方の瞳が。
少し怖くて…でも、とても嬉しかった。

私のことを、心配して下さっていたから……。


そういえば、この間も、あの方の夢を見た。
会いたいとばかり思っているから、
夢がまるで現実のような実感を持って…
いっそ、あのまま夢の中で生きられれば、と
思ってしまう。

夢でもいい、もっと抱き締めて欲しかったな、と
そんなことを考えている自分が、少しおかしい。


ふと、視線を巡らすと、机の上に置いておいた筈の、
木の小箱が……ない。


………?


夢の中で…確か、あの方にお渡しした…

……夢…じゃない……?


凍りついた私の身体に、確かに甘い薔薇の香りが、
微かに……








August.31<Zaki>


今日はお店が暇だったので。
ウサギたちのために野菜を買いに行った。

八百屋でニンジンを買おうとすると、そこの八百屋は鮮度が
悪いから、あっちの畑で取れたてを買え、とか言う。

「お前はグルメすぎるよ、タナ」

黒ウサギのタナトスは、拙い飯を食わせるからだ、と言う。
白ウサギのヒュプノスは、眠そうに欠伸をしながら、
早く帰りたいな、とか呟いている。


……結局、今夜も僕が作ったスープとパンの夕食。
大した味でもないな、大天使が作った料理は。と言いつつ、
タナはスープをお代わりしている。

「もしかして、生野菜が嫌いなんじゃないのかい?」

鎌を掛けてみた。


……グッ。


…図星か。

当分、夕食は3人分作らなければいけないらしい。









August.31<Schia>


今日は、いつもの病院に行きました。

……定期健診と言って、血を少し取られました。
一体、何にするのかしら? お兄様はあんなことしなかったわ。


もう夏も終わりなのね。
まだまだ暑いけれど。
空の色が、少し違って見えます。やはり、秋の空。
木々の緑が空の青に映えて、とても綺麗。


帰りに、神殿に寄って祈りを奉げました。

皆さん、どうしているかしら。
元気で幸せに暮らしていらっしゃればいいけれど…。


神様。
天にまします、我が主よ。
貴方はすべてご存知です。

少しでも皆さんが幸せになれるように、
私の身をお使い下さい。








September.1<Els>


エルスは、縫い物をしていた手を止めて、
ぼんやりと窓を見つめていた。


ふと、手に触れる者があり、視線を下に落とすと、
膝の上に登っていた小さな人物が、首を傾げていた。

「…なんでもありません。少し考え事を…」

エルスは、にっこり笑って優しくその頬に触れる。
彼の方にそっくりなその人は、照れたような笑顔を浮べる。

可愛い、と呟いて頭を撫でながら、
エルスはこっそりと溜息を吐いた。
少し、熱があるせいだろうか。体がだるく感じる。
ベットから起きない方がいいのかもしれない、とは思うが…。


「あの方は、風邪など召されなかったでしょうか…」

小さく呟いた言葉に、答える者はいなかった。








September.2<No name>



その部屋には、誰もいなかった。

ずっとベットで寝たきりだった主は、どこかに出かけ…
小さな黒い人影は、散歩にでも行ったのか…


その部屋には誰もいなかった。


ただ、月の光が優しく落ちているだけ。








(空白)







September.6<Schia>


今日、初めて。
あの神殿に行きました。
…本当は初めてではないのだけれど。

この姿になってからは初めてだから。


神殿にはイスト様という方がいらっしゃって。
とても優しい方みたい。何かと気遣って下さいました。

後から雨宿りにいらっしゃった、シュバーブ様は。
エルスお姉様を知っていらっしゃるって。
やはり、私は良く似ているみたいです。

…この瞳以外は。

巫女のシェラレオーネ様もいらっしゃって。
私は早々に失礼しましたが、皆様いい方ばかり。


……姿を無くされたお姉様は。
どうして、最後まであんなに幸せそうだったのかしら。

『ごめんなさいね』とは仰っていたけれど、全然後悔はなさっていないみたい。

『私は、もうすでに死んだ人間ですから』と
よく言っていらっしゃいましたね。
ただ、一つの楔が、この世界に留めていてくれること…
そして、その方にご迷惑を掛けてしまっていることを、
いつも心配していた。

いつか、私にも解るのでしょうか。
恋をすれば、解るのでしょうか。








September.10<No name>


後悔はしていません。
私は、我侭ですから。(微笑)
こんなに幸せなことを、後悔なんてできません。


ああ、それから。
カドケウス様、申し訳ありませんでした。
結局私は…(苦笑)
でも、約束を破ったのはそちらが先ですからね?


イム様、カエイ様。
約束を守れなくて、ごめんなさい。
図書館で、イム様が再会を喜んで下さった時。
私はとてもとても嬉しかった…
それなのに、竪琴を聞かせて差し上げられませんでした。
カエイ様。
プリン、作れなくて、ごめんなさいね?
小さいお姿、本当に可愛らしかったですよ。


ユエ様。
私の終わりも、貴方は先見なさっていたのでしょうか…
いつも、辛いお役目ですね。
あの方に宜しくと…いえ、今度こそ自分で伝えましょう。


プリシナ様。
もう一度、お会いしたかった…。
ツァドが言ってたんですよ。天使の少女が泣いているみたいだった、って。
きっと、プリシナ様のことでしょう。
哀しいことばかりで…本当にごめんなさい。


オリバー様。
大好きですよ? ふふふ、本当に。
いつか、貴方の傷を、癒して下さる方が現われるといいのに…。
貴方は強い方ですけれど、偶には休みたくなるでしょう?


ベリアル様。
誰よりも大切な方…私の全てでした。
ずっと、甘えてしまってごめんなさい。
湖に飛び込んで下さったこと。私のために泣いて下さったこと。
指輪を嵌めて仰った言葉。ルシファー様に口篭もりながら仰ったこと。
きっと忘れないでしょう。身体が消えた、今になっても。
貴方は私を騙していたと仰いましたが、良かったんです。
そんなことは関係なく、貴方が好きだから。

お休みなさい。








September.10<Schia>


…何か、大切なことを忘れている気がする。
何か、とても大切なことを…。

「君は数ヶ月前この国に来た。姉が一人いたが、最近亡くなっている」

…そう、エルスお姉様。ううん、ただの姉妹ではなかった筈。
どうして? 思い出せない…。

「君は神官だったが、姉が亡くなったのをきっかけに神殿を飛び出している。
自分の進むべき本当の道を探して」

ええ、確かに…でも、理由はそれだけではなかった筈。

……私には何か使命があって。
それで迷っていた…この世界を……のか。
だから、私は……。

「今は忘れた方がいい。これ以上…と…に見付かってしまう。
一応手は打っておいたけど。いつまでも…が誤魔化せるとは……」


………。


朝起きると、髪が随分軽くなったな、と思う。
確か、足首あたりまであったような…。
神殿を出る時に、邪魔で切ったんだろう。

「おはようございます、エンジェル」

私は、自分を守ってくれる自動人形(オートマター)に挨拶をし、
ゆっくりと伸びをした。
今日も、いい天気になりそうだ。








September.15<Zaki>


今日は、久々にあの国を訪れた。
あんな立派なダンスホールがあったんだね。今まで知らなかったよ。

ホールで可憐さんとシュバーブ君に会った。
最初はデートかと思ったんだが…僕の早とちりだったらしい(笑)
タナに馬鹿にされてしまったよ(苦笑)

可憐さんは相変らず綺麗だったな。
そう、コスモス色のドレス。
今度こそ、ちゃんと渡さないと。仕立て屋失格だ(汗)
シュバーブ君は、すぐに帰ってしまった。
今度はゆっくり話ができるといいな。

その後、カエイ君と三人で少し話した。
この国は…色々大変みたいだが。
また会えるといい。

カエイ君は中々面白い男だよ(微笑)

……会話の内容など、色々書きたいんだが…
ヒューの眠気が僕にも移ってしまったらしい。
今日はもう寝よう。

お休み、カミサマ。








September.16<Zaki>


今日も散歩に出かけ、広場に寄った。
…夜遅いせいか、街は静まり返っている。

……退屈だね。

ウサギたちの頭を撫でていると、一人の女性が現われた。
リファーナ・アルベント。僕も名前ぐらいなら聞いたことがある。

彼女と話すのは面白いね。なんだか昨日のカエイ君を思い出したよ。
血縁でもあるのかな?

彼女は自分が美人だってことを、信じていないらしい。

不思議なこともあるもんだね。


……ちょっと、彼女が気を悪くしてないといいんだが(笑)


帰ってから、リファーナさんに似合う服を考えた。
ブルーグレーの薄絹を重ねた、ドレスなんかどうだろう?
いくつかアイディアを出してみたが、中々決まらなかったよ。
今度会った時に、彼女に聞いてみた方がいいな。

さて、今日はそろそろ寝ることにするか。
お休み、カミサマ。








?.?<No name>


ふわふわと 優しい星が
大切な人たちに 挨拶を送る
声が聞こえなくても 姿が見えなくても
ずっと傍にいるから

嬉しい時や 楽しい時は
忘れていて 構わない
世界中で 自分だけが
独りに思える夜
貴方の強さを 少しだけ
隠してしまって
そっと その体を抱き締める













●最後の方で付けていた日記です。
ほぼ、そのまま。
三日目にエルスが消えて、危うく三日坊主に(苦笑)