カプグラ症候群・二人組精神病・コタール症候群

カプグラ症候群の特徴と解説
二人組精神病の特徴と解説
コタール症候群の特徴と解説

カプグラ症候群の特徴と解説

カプグラ症候群は、発症頻度の低い妄想性人物誤認症候群(Delusional Misidentification Syndrome)の一つであり、1923年にフランスの精神科医ジョセフ・カプグラ(J.Capgras)ルブール・ラショ(J.Reboul-Lachaux)によって発見された自己・他者のアイデンティティ誤認を特徴とする精神疾患です。J.カプグラはこの妄想的なアイデンティティ誤認を特徴とする精神疾患を『瓜二つの錯覚』と呼びましたが、カプグラとルブール・ラショが初めて診察したカプグラ症候群の女性患者(50代)は死んだ赤ちゃんや自分の夫のことを『偽者・替え玉』と信じ込んでおり、その間違った信念を修正することが出来ませんでした。カプグラ症候群の最大の特徴は、自分の親しい相手のアイデンティティを特定(確定)することができず、『この人は本物と瓜二つの偽者(替え玉)である』と無根拠に信じ込んでしまうことであり、一般的には精神病圏に近接した妄想的な認知障害の一種であると考えられています。

自分と親密な関係にある家族(配偶者)・恋人・親友を『偽者(替え玉)』だと思い込んでしまうだけではなく、カプグラ症候群では『建築物・道路・専門家・著名人・都市・国家・世界』などありとあらゆるもののアイデンティティ(真実と認定する同一性)が拡散してしまうことがあります。自分が『本当の人生・本当の人間関係』を生きていないと考えたり、巨大な国家組織や秘密結社が自分を壮大な陰謀に陥れようとしていると妄想的に信じ込んだりしてしまうので、『周囲の人たち(家族・恋人・友人・医師)』などが真剣に間違いを訂正しようとしてもなかなか聴く耳を持ってくれません。『あなたも私を騙そうとしている瓜二つの偽者(替え玉)に違いない』という頑強な信念が見られますが、心因性健忘(記憶喪失)を発症したかのように『あなたは私の夫(子ども・友人)ではない』と断言してその人と関わりを持てなくなることもあります。カプグラ症候群のような人物誤認の妄想症状は、統合失調症・認知症・心因性健忘・脳の器質的損傷(頭部外傷・脳梗塞)・急性錯乱状態などでも見られることがあります。

カプグラ症候群に『変装妄想・被害妄想』の傾向が加わったものとして、1927年にP.クールボン(P.Courbon)G.フェイル(G.Fail)が発見したフレゴリ症候群(フレゴリの錯覚)があります。フレゴリというのは実在したイタリアの俳優で、演技(演劇)だけではなく歌手・手品・ダンス・物真似などを得意としており、多くの変装道具を常にトランクに入れて持ち歩いていました。カプグラ症候群が、『知っている人物』を『知らない人物(替え玉)』だと思い込んでしまう病気だとすると、フレゴリ症候群(フレゴリの錯覚)は、『知らない人物』を『知っている人物』が変装している(変装して自分を騙そうとしている)と信じ込んでしまう病気だと言えます。カプグラ症候群・フレゴリ症候群・相互変身症候群・自己分身症候群の4つを合わせて『妄想性人物誤認症候群(Delusional Misidentification Syndrome)』と呼びます。

二人組精神病の特徴と解説

二人組精神病は、二人以上の人物に『同一の妄想的観念・妄想的信念』が共有される病的状態であり、家族伝染性のある感応精神病の一種として分類されることもあります。二人組精神病の妄想症状の共有は、『親密な関係(家族関係・同居関係・同棲関係)』にある二人以上の人で見られるのですが、特にどちらか一方が精神病(統合失調症)に罹患している『女性の家族間』で発症するリスクが高いとされています。二人組精神病は、社会環境から物理的・心理的に孤立している家族・恋人の間で発症しやすい精神病的状態ですが、明確な精神病を発症しているのはどちらか一方だけあることが多くなっています。

二人組精神病が発生しやすい条件としては、『精神病の罹患者がいること・外部社会から孤立していること・外部の人間とのコミュニケーションが断絶していること・異文化圏や外国語圏で不安感(疎外感)を感じていること』などを考えることができ、周辺環境に適応できずに不安感や攻撃欲求(被害妄想)が高まることで発症すると考えられます。帰属するコミュニティや社会環境に上手く溶け込めない精神病患者が家族にいて、その精神病を抱えた人物の『家族に対する精神的影響力』が強い場合に二人組精神病は発生しやすくなります。病的な家族成員が他の家族に妄想的な影響を与えるという意味では、二人組精神病は『閉鎖的環境(閉鎖的関係)における洗脳』の側面を持っています。言語や文化、習慣、価値観の異なる外国のコミュニティで生活していて、『異文化への適応能力』が低い場合にこの病気のリスクが高くなります。

二人組精神病の引き金(発端者)となる精神病者は一般的に知的水準と言語能力が高く、『リアリティのある妄想的内容』を閉鎖的環境で繰り返し話すことによって、他の家族成員や同居人(恋人など)を二人組精神病の妄想体系に引きずり込んでいくという性質を持っています。他人に対して受動的で従順な人や他人のもっともらしい話を信じ込みやすい素直な人は、精神病者がリアルな言葉遣いで展開する妄想体系に引き込まれやすいので注意が必要です。閉鎖的な人間関係を前提として発症する二人組精神病のカウンセリングでは、家族システム論を前提として家族関係と外部世界の現実をつなげていく家族療法を行っていきます。家族療法的アプローチ以外にも、『外部世界との接触頻度を高める・精神病者以外の第三者とコミュニケーションをとる・現実と妄想の区別をしっかりとつけられる生活習慣をつくる』といった認知行動療法的(CBT)な対応が取られます。

コタール症候群の特徴と解説

コタール症候群(Cotard's Syndrome)とは『虚無主義的(ニヒリスティック)な妄想』を主体とした症候群であり、フランスの精神科医コタール(Cotard)が1880年に発見したものです。コタールはキリスト教カトリック的な原罪に根ざした妄想を報告していますが、その妄想内容は『自分には脳・内臓・神経が存在しない(それらが腐敗して朽ち果てていく』『私は既に死んでいる・私は永遠に死ぬことができず苦しみ続ける』などと言った悲観的で抑うつ的なものです。特徴的な妄想としては、身体の器官が存在しないとか腐敗しているといった『身体性の否定』の妄想があり、これは『死の恐怖』と密接に結びついていると考えられます。『永遠に生きる不死』の妄想は、憂鬱で苦痛な人生を延々と終わらせることができないという恐怖と相関しており、うつ病患者などでこの種類の妄想が見られることがあります。

自分が死ねば世界が滅亡するという『最後の審判』を擬制した誇大妄想などもあるようですが、基本的には虚無感・抑うつ感をベースとした自己否定的な妄想が中心となっており、現在では大うつ病性障害の診断基準を満たす気分障害(感情障害)でコタール症候群の症状が見られやすくなると考えられています。統合失調症の発病によって、死の恐怖に関する妄想や宗教的不安(悪魔・悪霊・呪いなどの不安)が見られることもあるので、二大内因性精神病とコタール症候群とには何らかの関係があるとも言えます。抑うつ的な自己否定感と虚無的な気分が強く見られるコタール症候群には、うつ病と同等の抗うつ薬による治療が行われ、自殺企図のリスクがある重症例ではECT(電気けいれん療法)が実施されることもあります。現代ではうつ病関連性障害の一種と解釈されることが多く、古典的なコタール症候群が単独で医学的に診断される症例はほとんど無くなっています。

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