ごっこ遊び
子どもたちが両手を広げ空へ飛び立った。そこかしこで子どもたちが空中を飛んでいる。身体に羽が付いているという訳ではない。 真一と雅子はその様子を手を繋いで公園のベンチに座って見ていた。 「頼もしいわね、子どもたち。彼らがこれからの未来を担うのね。鳥のように羽ばたいている」 雅子が空を見上げながら感慨深く真一に言った。 「そうだね。僕もそうだった。もう、僕は大人になってしまったからね。ああはいかない」 真一はまっすぐ遠くを見つめる。 「あら、真一さんも飛べばいいのよ」 何気に投げやり気味の真一に対し、雅子は不満そうな顔をして尋ねた。 「飛べるなんて幻想なんだよ。あれは飛んでいるように見えるだけさ」 「そんな、彼らは今飛んでいるわ、目に見えるのよ、真一さんらしくないわ」 雅子にそう言われた真一は意外そうな顔をした。 「君も知ってることだろ? これは政府が作った仮装映像で、人心を惑わすため、ときどき空に立体映像を投影している。空に浮かんだ雲をスクリーンにしている映像さ。ちょっと考えればこんなトリック子どもだましさ」 「そう? トリック? 真一さんにはあれがトリックに見えてしまうのね」 真一は悲しそうな顔をする雅子の手を改めて強く握った。 「君はいつだって、何だって信じてしまう。疑うと言うことを知らない。だから、君の純真なところに僕は惹かれてしまう」 真一は雅子の肩を抱き寄せて顔を見た。雅子も真一の顔を見た。 「そうさ、この世は不確かなものだらけさ、こうやって君の手をつかんでいないと現実を認識できない。君を実感できなくなってしまう」 真一は雅子の手を更に強く握りしめた。まるで雅子の存在の確かめるように。見つめる雅子の顔が薄くなったり、ぶれたりしている。雅子の姿が現れたり消えたり現れたりしている。そして、薄くなりついに雅子は消えてしまった。 「また、故障か?」 真一は手にしていたステッキを目の前に上げて左右に2度ほど振ってみた。 「やっぱり駄目か? 恋人ごっこステッキ? 故障が多すぎるよ」 そのうち、真一の身体も大きくなったり小さくなったり小刻みに振動しているような動きになってきた。そして、小さい身体になって動きが止まった。真一は小学生くらいの少年になっていた。 真一と名乗る少年はベンチの上に置いたランドセルの蓋を開けた。大人ごっこセットと書かれたボックスに付いたスイッチの電源をオフにした。 「ああ、大人ごっこも飽きたな」 少年は大きくため息を吐くと、ランドセルを背負い公園から去っていった。 |