リサイクル

 

 リサイクルは地球に優しい。もっともっとリサイクルが普及することを心から望む。

  *

「ミヤコ、僕の鞄知らないかい?」

 山下勉が探しているところへ妻のミヤコがやってきた。

「あら、ここにあるじゃないですか」

 ミヤコが鞄を勉のところに差し出す。

「新しいのが昨日、マルナンから届いたんですよ。こちらを使ってくださいと昨日お伝えしていましたでしょ」

「あ、そうだった。 うっかりしていた」

「もう、しっかりしてくださいよ」

 勉は頭を掻きながら、ばつが悪そうに新品の鞄を受け取った。出てきたマルナンが何か気になったが会社に行く時間なのでそのまま家を出た。

(マルナンか? 何か聞いたことがあるなあ)

 そんな独り言をつぶやきながら勉は家を出た。勉は病気をして東北の病院へ半年ほど治療のため療養していたが、1週間ほど前、元気で退院してきた。

 バス停に到着し、バスを待つ人の列に並ぶ。前に並ぶ女子学生が楽しそうに話していた。聞くではなし、話が聞こえてきた。

「ねえ、すっごいでしょ。これ、マルナンでゲットしたの」

「うっそー、マジ? すごいじゃん」

 何やら懸賞にでも当たったのであろう、そう思って聞いていた。

「マルナンって最高ね」

 バスが到着し、その話は先が聞けなかった。また出てきたマルナンという名前。何やらプレゼントも貰えるところらしい。

 勉は職場について机に座った。

「山下さん、僕ね、マルナンですごいのゲットしたんですよ」

 いきなり隣の席に座る同僚、鈴木が声を掛けて来た。

「マルナンですか? それ、何ですか?」

「ええっ、知らないんですか。こりゃ、驚いたなあ。まあ、山下さんは長いこと病院に入っていたからなあ。無理もないか」

 そこまで話していたところで、課長が鈴木を呼び出した。先を聞きたくて課長席の前に立つ鈴木を見ていた。何やら課長にぺこぺこ頭を下げている。そして、血相を変え、自席に戻ると、行き先を告げず出て行ってしまった。

「また、マルナンかあ。マルナンて、何だろう?」

 前に座るOLの白石が目に留まった。見つめると、目が合った。

「白石さん、マルナンって、聞いたことありますか?」

 白石は辺りを見回してから声を抑えて話す。

「もちろんです」

「それって、誰でも入れるの?」

「えっ、山下さん、テレビ見てないのですか? あんなに宣伝してましたよ」

「そうなの? ちょこっと病気してから浮世に疎くて。ほんと、それって、何なの?」

「まるまる何でもリサイクルの略で、マルナン。一口で言うと、リサイクル推進の政府政策です。誰でも不用品とほしい物を登録しておくの。政府が壊れた物は回収し再生してまた使えるようにして届けてくれる。欲しい人がいれば、その人の所にプレゼントされるの。一定期間使われなければ、そのまま、廃棄処分されることもあるそうよ。再生のことを今ではプレゼントってみんなは呼んでるわ」

「へえ、プレゼントねえ。何でもかあ」

「そうよ、私は彼氏プレゼントしてほしいな」

「まさか、人間は無理でしょう」

「ふふふ、そうよね」

 白石の話によれば、日本国民皆リサイクルで資源を大切にということで5か月前に施行されたのが「丸まる何でもリサイクル法」である。

 そんな会話をしていると、4人の男性が事務室に入って来た。隣の係の机と椅子を片付けている。

「あそこの部署、もう必要ないんですって」

 白石がひそひそ声で話す。

「係の人たちは?」

「上の階の営業に回されたわ。あたしたちも無駄話していると、この係も片づけられるわよ」

「くわばら、くわばら」

  *

 日曜日、勉は家のリビングでくつろいでいた。チャイムの音が聞こえた。玄関のドアを開けると、4人の男が立っていた。

「山下勉さんですね」

「はあ、そうですが」

 いきなり勉は二人の男に両脇を抱えられた。

「マルナンリサイクル法により、あなたはリサイクルされることになりました。ご同行願います」

「ええ、何なんだあ。わしは人間だぞ」

 妻のミヤコがキッチンから出てきた。

「あら、大丈夫よ。後のことは心配しないでね、すぐ、新しい夫が来るから、あなた」

 

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