最強のプログラム
田中稔はけちな泥棒だった。盗みのテクニックは超一流で、ハイテクを駆使し、この世界では一目置かれる存在であった。しかしながら、いかんせん、高学歴を鼻にかけ、けちな仕事しかしない奴なので人望は皆無であった。
最愛の娘からは尊敬されるどころか、あらゆる面で軽蔑されていた。
ある朝、娘と向かい合って食卓に座る。
「ねえ、お父さん、また、あたしのおかずを食べる! 止めてよ、人の物を取るの! 」
「おまえ、誰のおかげで大きくなったと思ってる」
「…それは…、」
「お父さんは人の物を取って、なんぼなんだよ」
「もーう、あげるわよ! 」
稔は娘のおかずを取ることができた日は、仕事もうまくいく、という験を担いでいた。この日もうまくいくと踏んでいた。
稔はいつものように、下見した羽振りの良さそうな屋敷をねらう。最近の屋敷はセキュリティー会社と契約している家が増えた。そういううちは警備会社と契約した印のシールが貼ってある。しかし、稔はセキュリティー装置を遠隔で解除する装置を開発していた。この日もその装置を使って玄関から堂々と入るつもりだ。
「これがあれば怖い物知らずさ」
稔は手にしていた装置の作動スイッチを押す。しばらくしてリモコンの液晶モニターに「セキュリティーが解除されました」と表示された。にんまりした稔は、玄関のノブを回す。ドアは引き寄せると軽く開いた。居室に入ると、手際よく金目の物を袋にしまい込む。持ってきた袋はお宝で一杯になっている。満面に笑みを浮かべた稔は、玄関の扉をそっと開け、外の様子をうかがった。はっとして、稔は思わず扉を閉じた。大勢の警官が周りを取り囲んでいたのである。
「どうしたと言うんだ、こりゃ? 」
稔は警察署の取調室に、白髪の刑事と対峙していた。
「おめえも焼きが回ったな。こんな機械で仕事をしようなんてな」
「これは完璧な俺の発明品だ」
「世の中に完璧なんてないんだよ」
「しかし、どうして、分かったんだ? 」
「コンピュータプログラムはいたちごっこなんだよ」
「?」
「破られれば、破られないように開発する」
「だから、俺は破られないセキュリティー解除装置をプログラムしたんだ」
「ふふ、おまえさんもほんと焼きが回ったな。破られないプログラムを、おまえさんより頭のいいやつが開発したんだよ」
「え… どういうプログラムなんだ? 」
「簡単さ。破られるプログラムを作られたら、更にその上のプログラムを自動で作るプログラムさ」
「そ、そんな、いったいどこのどいつが作ったんだよ」
「おまえの娘さ。積年の恨みとか、つぶやいていたぞ。食べ物の恨みとか、確か言ってたな」
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