ブラックフォール…

 



   
ブラックフォール…

 

 

 

 1950年代、ウルトラゾーンと言う怪獣が出てくる摩訶不思議なゾーンが発生したが、円谷という日本人により収束した。

 それから20年後、やはり、アメリカで不思議な現象であるトワイライトゾーン、ミステリーゾーンなるものが立て続けに発生した。それはスピルバーグら映画監督により沈静化した。

 そして、19世紀初めの日本に、地獄界と人間界を繋ぐ時空間のゆがみが生まれようとしていた。そのゆがみは、赤ん坊から大人になるように、200年間と言う歳月を掛け、人間界に解き放たれようとしていた。地獄界の鬼数億匹が武器を手にし、その空間の解き放たれるのを入り口で手ぐすね引いて待っていた。

  *

 田所平八郎は内閣総理大臣室のソファーに座った。軽くバウンドし、ソファーの座り心地を確かめる。手のひらで革張りの感触を確かめる。

「まあ、まあかな」

 テーブルに置かれたシガレットケースから葉巻を1本取り出す。鼻先で臭いをかぐ。

「これも、まあまあ…かな」

 葉巻の先をかみ切ると、がぶりとくわえ、ライターで火を付ける。大きく吸い込んだ。

「ゲホ、ゲホ、なんじゃ、これ? ちっともうまかないぞ。大臣って言う人間もたいしたもの吸ってないなあ俺のハイライトのほうがましだよ」

 平八郎は持っていた葉巻を灰皿でもみ消し、火種がなくなったことを確認すると、上着の胸ポケットにしまった。

「ああ、こんなところを見つかったらまた班長にどやされてしまうよ」

 平八郎は床に転がっている掃除機のパイプをつかんだ。ブオーンと言う轟音をあげて掃除機のモーターが回る。モーターが異様な音をあげた。ガリガリガリガリ、スイッチをオフにするが、音は止まらない。平八郎は電気プラグをコンセントから引き抜いてみた。

「どうなってんだあ。まだ、回ってるぞ」

 そのうち、掃除機が一瞬のうちに消えた。まるで空間に吸い込まれていくようだった。

「まいったなあ。掃除機なくなっちゃたよ。班長に怒られるよ、って、そんな馬鹿な」

 平八郎は掃除機があった場所を見つめた。何か、空間がぼやけているような気がする。目をしばたたかせた。

「変だな。なんかあるぞ」

 平八郎は胸ポケットにしまっていた葉巻を取り出す。その空間のゆがみに、葉巻を近づけていく。像が歪んでいるところで、葉巻の先が消えた。驚いたと同時に、葉巻が勢いよく吸い込まれた。

「やばいな。こりゃ、ブラックフォールって、奴だな。こんなところにできて、総理大臣も大変だ。早速、教えてやらねばな。取りあえず、誰かが吸い込まれたら大変だから、このソファーでふさいでおくか」

 平八郎はソファーを両手で押して、ブラックフォールの所へ持ってきた。しかし、あっという間に大きなソファーが吸い込まれて消えた。

「ありゃ、ソファーじゃ駄目かいな」

 平八郎は総理官邸にあったあらゆる備品を運び入れたが、全て跡形もなく吸い込んでいく。

「たいした穴ではないがなあ。どうしたものかのう」

 平八郎はがらんとしてしまった総理官邸の中を見回した。あるのはゴミ取りバサミ、ゴミ捨ての缶とちり取りだけだった。

「うまい手があったがなあ。このゴミ取りバサミであの穴をつかんでちり取りに乗せ、ゴミ箱に捨てればいいがな」

 平八郎はゴミ取りバサミとちり取りを手に、ブラックフォールに近づいていく。床から30センチくらいの高さに直径20センチほどの歪みがゆっくり渦を巻いている。それは生き物のようでもある。平八郎は恐る恐るゴミ取りバサミを渦の端に持っていってつまんだ。いとも簡単につまめた。ペロンとしたビニールシートのようでもある。

「ありゃまあ、ゴミバサミは吸えんようじゃのう。一体これをどうしたらええもんじゃろう」

 そこへ騒ぎを駆けつけた班長がやってきた。

「おみゃー、官邸の備品をどうした。何処へ運んだんだ? 」

「みんな、こいつが吸い込んだべ」

 平八郎は班長に事の全てを話した。

  *

 鬼数億匹のリーダーである鬼御思慕人総帥はきょうも対策に追われていた。

「大変です。テレビ、冷蔵庫などの産業廃棄物ばかりではございません。昨日は核廃棄物が投入されて参りました。恐るべし、人間界。こちらが攻撃を仕掛ける前に、このような攻撃をしてくるとは予想もいたしませんでした」

 数億匹の鬼たちは人間界から投入されてくるゴミを食って処分していた。何万匹単位で腹下しをして、鬼病院は満員状態になっていた。攻撃は止むことはなかった。人間がゴミを出し続けている限り。

  *

「なあ、平八郎、こいつは便利でいいもんだなあ。どんなゴミも処分してくれるわい」

 平八郎と班長は2人で廃棄物処理会社を設立し、地球レベルでゴミの一斉処分を請け負っていた。

「こんなに儲かっていいんだろか」

 平八郎はハイライトをくわえながら言った。吸い終わると吸い殻をゴミ箱と書いてある缶に放り込んだ。

  *

「今度は火の点いた吸い殻攻撃でございます」

 1匹、火傷を負って入院でございます。このままでは鬼はいつか全滅させられてしまいます」

「あの穴をふさぐことはできないのか? 」

「穴が消滅するのは、200年後くらいのようでございます」

「もう、人間を食らうのはよそう」

 かくして、地獄界の目論見は平八郎により阻止されたのだった。

  

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