バブル崩壊

 渡辺進一郎はタラップを軽快に降り立った。10年間の海外逃亡を終え、成田空港に今着いたのである。

「戻ってきた」

 彼の持つボストンバックには大金が入っていた。10年前、彼は大手F銀行に勤めていたが、1億円の横領が発覚し、国外へと逃げたのだった。

「はは、やはり生まれた国はいいものだよ」

 鼻歌を口ずさみながら進んでいく。ゲートの前に入国管理官がいた。

「パスポート、手荷物を拝見します」

 係員がボストンバックを開けた。中身を見ていぶかしそうに進一郎の顔を見た。

「これだけですか? 」

「ええ」

「どうぞ」

 係員は顔をゆがめながらも入国を許可した。ボストンバックの中には、F銀行のキャッシュカードが50枚ほど入っていた。横領の一億円は、このキャッシュカードに分散していたのだった。

「ふふふ、やっと自由に使えるぞ」

 進一郎は空港内のATMに向かった。機械の中にカードを通す。

 しかし、どうしたことかカードは受け付けられなかった。

「なんだ? 機械の故障か? 」

 機械の脇にある呼び出し電話を取った。

「どうされました? 」

「F銀行のカードが入らんぞ」

「F銀行? ちょっとお待ちください」

 2分ほど時間が経った。進一郎はいらいらしながら、呼び出し電話に耳を当てていた。

(なにやってるんだ! )

 進一郎はいらいらした。すると、

「お待たせしました。F銀行はすでに9年前に倒産しておりますが」

 進一郎はカードの束を手から落とした。

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