よくばりな犬(イソップ童話から)

 

 よくばり犬の口には、大きな骨付きの肉がくわえられていました。ついさっきまでの自分の勇猛果敢な振る舞いを思い出し、ニヤニヤしながら川へ向かって歩いていました。

 沢山の犬が街にいましたが、彼の腕力にかなう犬はいませんでした。その口にくわえられていました肉も、ついさっき、よそ者の犬から力づくで奪い取ったご馳走でした。

 よそ者の犬は、若くて立派な体格をしていましたが、よくばり犬が従えた沢山の子分に囲まれて震えていました。

「これは友だちへの大事な土産なんだ。あんたにはあげられないよ」

 よそ者の犬がそう言おうとする隙も与えず、よくばり犬はよそもの犬に飛びかかると、いっきに喉笛へ噛みつきました。よそ者の犬は、大事な肉をくわえていましたので、噛みつき返すこともできず、あっけなく負けてしまいました。

 肉を奪ったよくばり犬は、無残に倒れたよそ者犬の亡骸を思い出しては、にたにた笑っていました。そして、おいしい肉をだれにも取られない所で食べようと、子分を従え、街はずれの川へ向かって歩いていました。

 川まで来ると、流れはいつになく静かでした。いつもは気にせず通り過ぎてしまう丸太でできた一本橋でした。流れが静かだったので、橋下の水面に、その橋の影が映っていました。それを見たよくばり犬は、得意げに子分に向かって言いました。

「立派な俺様には、上の橋がふさわしい」

 橋の中ほどにさしかかると、下の橋にうまそうな肉をくわえたよそ者の犬が歩いている事に気が付きました。体格は良く鋭い目つきをした怖そうな犬でしたが、よく見ると、小刻みに足が震えているではありませんか。

「しめしめ、臆病な奴だぞ。あいつの肉も脅かして取り上げてやろう」

 よくばり犬は、更に鋭い目つきをして力の限りに吠えました。ワン、その途端、ポチャン、くわえていた肉が、川へ落ちていきました。

(了)

 

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