歌を歌えば
小学校一ねんせいになってまもないメグミちゃんは、学校へいくのがこわくてしかたありません。
ようちえんやほいくえんへいったことのないメグミちゃんにとって、小学校ははじめてのしゅうだんせいかつのはじまりでした。ともだちのなまえもすこししかしりません。
まいあさ、三才うえのおねえさんが、ぐずぐずしがちなメグミちゃんの手をとって、学校へつれていきます。
「メグミ、だいじょうぶよ。あたしだって学校になれたんだからね。げんきだして」
おねえさんがメグミちゃんをはげまします。
(けど、なんだかしんぱいだなあ……)
メグミちゃんにはふたりのおにいさんと三才うえのおねえさん、そしておばあさんがいました。おばあさんはメグミちゃんたちきょうだいのめんどうをよくみてくれました。だから、おとうさんもおかあさんも、お金をかけてようちえんに行かせるひつようがないとおもっていました。
入学式から一しゅうかんがすぎました。メグミちゃんは、ひとりでつくえにすわっているときはいいのですが、たいいくやおんがくのじかんがいやでした。
春のあたたかな日ざしが、一ねん一くみのきょうしつのまどいっぱいにさすころ。
四じかんめのおんがくのじゅぎょうがはじまりました。
「きょうは、みんなもよくしってる『チューリップ』を歌いますよ。はい、一、二の三」
たんにんのケイコせんせいが、げんきなかけごえでオルガンをひきはじめました。
メグミちゃんは、みんながどうしてこの歌をしっているのかふしぎでした
(なんでだろう……、なんでなんだろう……)
じぶんだけ、とりのこされたきもちになってきました。はじめてきく歌でした。むかしの歌をたくさんしっているおばあさんからも、きいたことはありません。
「そういえば、わたし、いままでともだちといっしょに歌を歌ったことがなかった……」
みんなが『チューリップ』を歌っているあいだ、メグミちゃんはまわりのともだちにあわせて、口をパクパクさせていました。そうして、なんとかおぼえようとしたのです。けれど、やっぱりおぼえきれません。
(あーあ、やぁーめた……)
と、おもってしまいました。
そのときから二かいめのおんがくのじかんのことです。右となりにすわっていたケンちゃんが、
「メグミちゃん、歌いかたへんだよ」
と、わらいながらいいます。ケンちゃんはいつもメグミちゃんにいじわるをするいやな子でした。
「どこがへんだっていうの?
メグミちゃんはかおをまっかにしました。
「だってさあ、みんなと歌があってないもの」
「わたし、おかしくないよ」
「だけど、おかしいものはおかしいよ。メロディからはずれてるもん。やあーい、メグミのへたくそ」
ケンちゃんは大ごえをだしました。
「よくもいったわね。へたくそなんかじゃないよ」
めぐみちゃんはいいかえして、うでをあげかけました。
そのやりとりが、オルガンのまえにすわっていたケイコせんせいにもきこえました。
「ふたりとも、なにをごちゃごちゃいっているの?」
だってさあ、メグミちゃんの歌がへんだから、メグミちゃんが歌うと、ぼくまでつられて、へんになっちゃうんです」
ケンちゃんがおおきなこえで、ケイコせんせいにいいわけをしました。
「せんせい、わたしの歌いかた、へんなんかじゃありません。つられるほうがわるいんだとおもいます」
メグミちゃんもむきになりました。
「えっ、ぼくがわるいんだって!それならメグミちゃんに歌ってもらえばわかるとおもいまーす」
おこったケンちゃんは、口をとがらせました。やりとりをみていたケイコせんせいは、こまってしまいました。
「メグミちゃん、歌える?」
「わたし、この歌、しらないからひとりじゃうまく歌えません」
「そうね。メグミちゃんは、学校ではじめて歌ったのよね」
ケイコせんせいはしばらくかんがえていました。
「ようちえんやほいくえんにいっていない子は、手をあげてください
ケイコせんせいがきょうしつをみまわしました。三人が手をあげました。手をあげたふたりのともだちをみて、メグミちゃんはにっこりとしました。
「わたしだけじゃなかったんだ」
メグミちゃんはちょっとあんしんしました。手をあげたうちのタケシくんが、「せんせい、ぼく、『チューリップ』の歌なんてぜんぜんしりません。だから、歌っていませんでした。ただ、口をあけてただけです。ぼく、おんがくなんかきらいです」
と、今まで、がまんしていたのをいっきにうったえました。
「ごめん、ごめん。せんせいがわるかったわ。この歌、みんながしっているとおもったけど、そうではなかったのよね。メグミちゃんやタケシくんには、はじめての歌だったから、ちょっとあわなかっただけなのよね。なんかいかれんしゅうすれば、じょうずに歌えるわよ。ケンちゃん、わかった?」
「うーん、そうかなあ……」
ケンちゃんは、まだ、なっとくできないようです。
「では、はじめから、ゆっくり歌っていきますよ」
メグミちゃんはみんなのまえで歌わなくてすんでほっとしました。そのとき、うしろのサヤカちゃんが、「メグミちゃん、すぐにおぼえられるよ。だいじょうぶよ」
と、いってくれました。
「うん、ありがとう」
メグミちゃんはにっこりわらいました。
「わたしもみんなといっしょにはやくじょうずに歌えるようになりたいな」
メグミちゃんはちょぴり、学校ってたのしいな、とおもえてきました。
(了)
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