おもちゃのピエロ
「やだ、こんなの!」
ケンタは涙を流しながら、お父さんにむかってさけびました。ケンタのお父さんが、誕生日のおいわいに、ピエロのおもちゃを買ってきてくれたのです。お父さんはたくさんのおもちゃの中から、考えて買ってきたものでした。けれど、ケンタはピエロが気に入りません。カッコイイおもちゃをきたいしていました。
その夜、ケンタは夢を見ました。
「僕の仲良しの友だちたちは、みんな楽しそうに店を出ていくんだ。だって、人間に遊んでもらえるんだもの。ぼくだってそうさ」
とてもへんな夢でした。お父さんが買ってきたピエロが、ケンタのうちのおもちゃに話し掛けているのです。それがとてもさびしそうでした。
次の朝、ケンタは起きると、おもちゃ箱にほうりこんだピエロを見ました。ピエロの目の回りが少し黒くよごれていました。
「使わないのに、もうよごれている。こんなおもちゃ、大きらいだ!」
ケンタはわざとお父さんに聞こえるように、大声で言いました。その夜、ケンタはふとんに入りましたが、なかなかねむることができません。ふとんをかぶっていると、だれかの泣く声が聞こえてきました。
「ぼく悲しいよ。やっぱり遊んでもらえない……」
「気にするな。おいらだって、もう遊んでもらってないんだから」
話し声はおもちゃ箱の方から聞こえてきます。ケンタははっとして目をあけ、ふとんからそっと顔を出しました。
「しぃ−、しずかに!」
話し声はそれっきり聞こえません。きのうみた夢は夢ではなくて、本当にピエロがしゃべっていたのではないか、とケンタは思いました
ケンタは飛び起きて、おもちゃ箱の中をのぞきました。けれど、おもちゃ箱の中は、何も変わっていません。ピエロの顔を見ると、今朝みたときよりも、目の回りがまた黒くよごれています。
次の夜、ケンタは眠ったふりをして、ふとんの中で起きていました。
しばらくすると、おもちゃ箱の方から、また話し声が聞こえてきました。
「もう、泣くのはやめなよ」
「でも、きみたちは遊んでもらったからいいよ。ぼくなんて、1回も遊んでもらってないよ」
「わからずやのケンタなんかに遊んでもらわなくても、おいらたちがいるじゃないか。鬼ごっこをして遊ぼうよ」
ケンタはふとんの中で、外のようすをうかがっていました。おもちゃたちはきゃっきゃっと楽しそうな声を上げ、ケンタの部屋の中を、かけずり回っているようです。ふとんの中のケンタは信じられませんでした。
ケンタはガバッと、ふとんから顔を出すと、そのしゅんかんに音は消え、静まり返ってしまいます。
「おかしいな。おもちゃたちが遊んでいたようだけど」
ケンタはふとんから出て、おもちゃの位置を確かめましたが、今朝のままです。でも、よくみると、ピエロの目が少しぬれているではありませんか。ピエロが泣いていたのはまちがいありません。目の回りのよごれは、泣いたピエロが手でこすったので、インクがにじんだのでしょう。ケンタはお父さんとピエロに悪いことをしたと思いました。
次の朝。台所でしんぶんをよんでいるお父さんのそばによって行きました。
「ピエロのおもちゃありがとう。大切にするよ」
ケンタは、てれくさそうに言いました。そして、ケンタはおもちゃ箱の中のピエロと、仲間たちを1個ずつ手に取りました。今はあきてしまったけど、どのおもちゃもなつかしく、すてれられずにとっておいたおもちゃたちです。
「さぁ、ぼくも入るから、鬼ごっこしようか?」
ケンタがいうと、いっしゅん、おもちゃたちのざわめきが聞こえたようでした。
(了)
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