子ダヌキ町へ行く
町からはなれた山の中に、タヌキのかぞくがすんでいました。お父さんタヌキが二匹の子ダヌキにいいました。
「父さんはなあ、子どものころ、みんながこわがる町へ行って、こわい火をつかう大きなにんげんを見てきたんだぞ。まっくろなけむりをもくもくはきだす、そりゃ、おそろしいにんげんじゃった。だから、おまえたち、町にけっしていっちゃいけないぞ」
お父さんタヌキは、じまんの大きなおなかをさすりながら、二匹の子ダヌキにいいきかせました。やんちゃな子どもたちが町へいかないようにかんがえていったのですが、子ダヌキはお父さんタヌキをとてもそんけいしていましたので、お父さんのすることをまねしたくなりました。
ある日、子ダヌキのきょうだいは、お父さんにないしょで、町までちょっとぼうけんにでかけることにしました。
あせをかきかき、やっと森をぬけると、町にはけむりを出す大きなえんとつのあるたてものが見えてきました。
「ほそい高い木からけむりをだしている」
おにいさんのポンスケが目を丸くしながらいいました。
「ずいぶんと大きいけど? あの高い枝のない木みたいなやつが、父さんのいっていたにんげんってやつか?」
おとうとのポンポコも大きなえんとつをみあげていいました。
子ダヌキは、音をたてないように、足をしのばせ、もくもくけむりを出すえんとつのあるたてもののそばまでやって来ました。そこはおもちゃこうじょうでした。たくさんのおもちゃの中に、タヌキのぬいぐるみもあります。
「うわあ、なんて、おそろしいとこだあ。にんげんのおなかで、おいらのなかまたちが、バラバラにされてるぞ」
子ダヌキたちはくみたてまえのバラバラになったタヌキをみてびっくりぎょうてん、大あわてで家にかえりました。そして、お父さんタヌキにききました。
「にんげんって、タヌキをたべるのかしら?」
「そりゃそうよ。にんげんとはおそろしいいきものだ。なんでもたべてしまう。おめぇたちなんか、あっというまに、ペロッと食われちまうんだからな。だから、けっして、町にいっちゃなんねえぞ」
お父さんタヌキが、子ダヌキたちに、もっともらしくいいました。
子ダヌキはぬいぐるみを、ほんとうのなかまだとおもっていましたので、たすけにいこうときめました。
次の日、子ダヌキたちは、こうじょうにやって来て、窓をあけてかんせいしていたおもちゃのぬいぐるみにむかってさけびました。
「さぁ、みんなにげよう!」
けれど、おもちゃはぜんぜん動きません。子ダヌキにはそれがおもちゃだとわかりませんでした。こうじょうはにちようびでおやすみでしたので、すべてのきかいがとまっていました。
「にんげんに動けなくされたんだ」
ポンポコがおそるおそるまどぎわのタヌキのぬいぐるみにからだをのばしてさわってみました。ぬいぐるみは布でできていたので、とてもやわらかです。でも、うごきません。子ダヌキは家に帰って、また、お父さんにききました。
「にんげんにたべられると、どうなんだろう?」
「にんげんのおなかの中にはいると、やわらかくなって、やがてうんこにされてしまうんだ。だから、おまえたちもそうならないように、けっして、町へいっちゃなんねえぞ」
お父さんタヌキは、なんで、子ダヌキたちがそんなことをきくのかふしぎでした。
次の日、子ダヌキはにんげんのおなかに入ったなかまをたすけようと、こうじょうにやってきました。げつようび、こうじょうはおもちゃをつくるためきかいをうごかしていました。
こうじょうの中をのぞいた子ダヌキは、バラバラのぶひんがつなぎあわさって、ぬいぐるみができあがるのを見てふしぎに思いました。手や足には、白いふかふかのかたまりがつまっています。これはワタというものですが、子ダヌキにはそんなことはわかりません。じぶんたちとはちがうたぬきのかたちをしたものをつくっていることはわかりました。かんせいひんが1こずつとうめいなはこにしまわれています。
子ダヌキは家にかえって、お父さんタヌキにききました。
「お父さん、にんげんはタヌキを食べるんではなくてつくるのではないのですか?」
「そんなことはない。たべられたらうんこになるんだ」
くびをかしげて、お父さんタヌキは、なんでそんなことを聞くのかとふしぎにおもいました。
子ダヌキたちは、あのこうじょうからうんこではなくタヌキとなって出ていくぬいぐるみが、どこへ行くのかしらべようと、また、こうじょうへやって来ました。
子ダヌキはこうじょうからトラックに乗せられたぬいぐるみといっしょにトラックのにだいにかくれました。トラックは町のにぎやかなしょうてんがいにあるおもちゃ屋につきました。子ダヌキはピクリとも動かずに、タヌキのぬいぐるみのふりをしていました。おもちゃやのしゅじんがぬいぐるみをおもちゃ屋のショーウインドウにきれいに並べています。
「おや、このタヌキ、ハコに入ってないぞ。しょうがない、あとではこだけ、おくってもらわないとな」
おもちゃ屋のしゅじんは子ダヌキもいっしょにうりばに並べました。
しばらくすると、にんげんの子どもがやってきて、子ダヌキのまわりのぬいぐるみを、うれしそうにさわっています。子ダヌキも子どもたちにさわられて、とてもくすぐったくて、たまらずに、わらってしまいました。にんげんのこどもたちは、びっくり、大きな声を出してみせからにげていきました。
それを見たおもちゃ屋のおじさんが、子ダヌキたちの首根っこを手でつかまえていいました。
「こら、おめぇたち、こんないたづらしてけしからん」
みせのしゅじんは子ダヌキの首ねっこをつかむと、足首をつかんでさかさまにつるしました。さかさにされた子ダヌキは店のしゅじんにききました。
「おじさんってだれ?」
「だれ?って、おもちゃ屋だ。こんど、こんなわるさしたらゆでてたべてやるぞ。わかったらもうくるな」
「はーい、ごめんなさい」
子ダヌキはおじさんにむかってぺこりと頭を下げると、走っていえにかえっていきました。家に帰るなりお父さんにたずねました。
「まちにはにんげんよりこわいおもちゃやってかいぶつがいたよ」
「なんだってえ、おまえたち、まちにはあれほどいっちゃいけないといったろ。ゆうことをきかないでわるいやつらだ、このわんぱくこぞう、ゆるさないぞ」
子ダヌキはおもちゃやのおじさんにおこられ、お父さんにしこたまおこられ、もう、たいへんなぼうけんでした。
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