かちかち山の狸の気持ち 私はかちかち山の狸です。海で溺れそうになりましたが、運よく何とか助かりました。死の縁でいろいろ今までのことを考えてやっと自分の所業が分かった気がします。気が付くのが遅かった気もします。 何度か兎さんが親切にしてくれる度に、どうして火傷をして、薬を塗ってくれたのにヒリヒリ痛むのか不思議でした。最後に海に出てから船がだんだん水に溶けていくのを見て、やっと今までの出来事が分かりました。 どうやらぼくがおばあさんを殺して婆汁にしたこと。おじいさんに婆汁を食べさせたことはあまりにも残酷な仕打ちでした。兎さんを怒らせてしまっても不思議ではなかったと思います。つくづく悪いことをしたと思っています。今更後悔しても遅い気もしますが、どうしようもありません。 でも、兎さん。私にも言い分はあるんです。おじいさんだってぼくを狸汁にして食べようとしたのです。私は天井に吊されながら、「このまま食べられてしまうのか」と思ったときの切なさは何ともいいようがありません。ぼくだってこのまま食べられたくはありませんからいろいろ考えました。そこのところは分かってください。おばあさんに縄を解いて貰ったとき、すぐに逃げればよかったのですが、ついおばあさんを殴って殺してしまいました。殺すつもりなどまるでありませんでした。 しかし、元はと言えば私が一生懸命働いているおじいさんをからかった事が原因だから仕方がないか、と反省しています。過ぎ去ってしまったことはどうしょうもありませんなどと、私が言える立場ではありませんが、これからはおじいさんを励ましておじいさんを助け、償いをしていくつもりです。もし神様がいるとしたら、命が助かったのもその償いをするために生かされたのかもしれません。どうか、兎さんのお怒りが静まりますように。 心を入れ替えた狸より 心優しい兎さんへ
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