星空に願い

 

健次郎と権じいさんは、夜空を眺めるのが好きでした。きょうも芝生の上に、二人並んで座っています。夏の夜空は、天の川がとてもすてきな季節でした。東の空には、明るいアルタイルの星が輝いていました。

「権じいちゃん、流れ星を見つけたら、願い事をするとかなうって、本当かな? 」

ずっと空を見上げていた健次郎が、権じいさんを見ながら聞きました。

「そうだよ。たとえば、あれが宝石になって落ちてこないかな、なんてね」

権じいさんは頭上を見上げて笑いながら言いました。

「でも、これだけの星だ。落ちてきたらひとりじゃ集めるのに骨が折れるかもな」

「そしたら、僕の願いで、僕の持っているおもちゃを大きくして、かたっぱしから集めさせるさ」

「おお、それはいい考えだ。健次郎も賢く成長したな」

二人はかなうはずのない願いを言いあって、クスクスと笑っていました。そのとき、

「あっ、流れ星だ! 」

健次郎が青白い尾を引きながら流れ落ちる星を見つけました。

「それ、願い事をするのだ! 」

権じいさんが大きな声を出しました。しばらくすると、二人の目の前に、どすんと光ったものが落ちてきました。きらきら輝いて、宝石のようです。ドスン、ドスン。星空に浮かんでいたたくさんの星が、後から後から、落ちてきます。健次郎たちの目の前に、いつのまにか健次郎のおもちゃのロボットが現れ、せっせと星を集めています。縫いぐるみだった熊が、木に引っ掛かった超特大の三日月をとろうとしていました。

「わあ、大きな三日月だあ! 」

健次郎が目を細めて喜んでいます。それを見た権じいさんは、残念そうな顔をしていました。

「権じいちゃんは、願いがかなったのにうれしくないの? 」

「最初はうれしかったけど、空を見てみなさい。真っ暗だよ。冗談で願いを掛けたら本当になってしまうなんて…… 」

 涙を流す権じいさんのところへ、熊くんが三日月を運んできました。権じいさんは三日月を手にして、おいおい泣き出しました。権じいさんの流す涙が、ほおを伝って三日月に一滴たれました。シュー、と涙が音を立てました。三日月は蒸気になって空に舞い上がっていきました。芝生の上に落ちていた星がいっせいにシューという音を立てて、煙になって空へ上がっていきました。煙だらけになった空は、だんだんと元の星になりました。

 権じいさんは笑いながら言いました。

「やっぱり星は空にあるからいいのだな」

 健次郎もこっくりうなずきました。

 

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