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マニック・ストリート・プリーチャーズの新たなる挑戦

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復活のマニックス

マニック・ストリート・プリーチャーズが戻ってきた。しかもデビュー当時のようなパンク精神を復活させて。マニックスの新作『ノウ・ユア・エネミー』はかなり過激な内容になっている。
リッチーの失踪という危機を乗り越えて作られた『エブリシング・マスト・ゴー』では、歌を聴かせることで、みごと全英1位を獲得。前作ではさらにストリングスなどの導入によって、メロウさをより前面に押し出すことに成功し、すっかり英国内における国民的バンドとしての地位を確立してしまった。
「デビュー・アルバムを世界中で1位にして解散してやる!」そう発言することでマスコミからの注目を集め、リッチーの4リアル事件、デビュー・アルバム『ジェネレーション・テロリスト』で彼らのパンク精神を感じていた僕にとって、いい歌を聴かせるマニックスは少々物足りない存在になっていった。「もう初期の頃のような曲は作らない」といった発言をしていたこともあり、このままマニックスは枯れていくのかと思っていた。

驚愕のキューバ公演

しかし、彼らはそんな僕の予想をしっかりと裏切り、肉体的にも精神的にも初期衝動を取り戻したかのように見事にカムバックを果たしたのだ。前作・前々作の延長のような美しいメロディの曲と、ギターが炸裂する初期の頃を彷彿させる曲がバランス良く配置されたこのアルバムは、成長し円熟味を増したにもかかわらず、燃えたぎる気持ちを失っていないメンバーの魂の揺さぶりを感じさせるアルバムになっている。
歌詞のほうも相変わらず辛辣だ。キューバのエリアン君の問題を取り上げた「ベイビー・エリアン」や、このホーム・ページでも取り上げている、チベットの支援をするビースティ・ボーイズはおろか、ノーベル平和賞受賞者であるダライ・ラマ法王までもこき下ろす始末。
そして、そのパワーを一気に放出するために、彼らが選んだ復活ギグの場所はなんとキューバだった。西側のロック・バンド未踏のこの地で、マニックスはライヴを敢行してしまったのだ。(ソロ・アーティストとしては、79年にビリー・ジョエルがコンサートを開いている)
ライブは2月17日にカール・マルクス・シアターに約5,000人を集めて行われた。しかも、その会場にはなんと、あのカストロ議長までもが姿を現すというとんでもないライヴになってしまったようだ。すごい、あまりにもすごすぎる。
バックドロップにはキューバの国旗が、アンプにはキューバとウェールズの国旗が飾られ「ファウンド・ザット・ソウル」でライヴはスタート。途中、キューバのエリアン君の問題を扱った「ベイビー・エリアン」ではカストロ議長じきじきに拍手を促すなどといった場面も見られた。通常アンコールには応えないマニックスだが、この日は2曲をアンコールで披露。キューバでのライブは大成功に終わった。
最後にマニックスの楽屋に訪れたカストロ議長とニッキーとの会話の一部を紹介しよう。
ニッキー:今夜は騒がしくなりますよ
カストロ:戦争ほどじゃないだろう

マニックスの挑戦状

マニックスは、なぜキューバという非常に特異な場所を選んでライヴをしたのだろうか。キューバは今ではもうほとんど崩壊してしまった社会主義を堅持する数少ない国である。しかも資本主義の象徴であるアメリカとは目と鼻の先の位置にある。そのため、ことある毎にキューバとアメリカは揉め事を起こし、経済力で勝るアメリカは得意の経済制裁を発動している。今でもキューバの人々は、経済制裁のために苦しい生活を余儀なくされているのである。
ジェイムスの発言を見てみると、彼は社会主義的な考えを持っているようだ。彼らのように社会主義を理想とするミュージシャンは少なくない。レイジのトム・モレロなども社会主義的な考えの元、色々な活動をしている。
また、彼らの現地での記者会見におけるニッキー(キューバでライヴを行おうと決めた張本人)の発言は、彼らの行動の核心をついているだろう。インタヴュアーの「キューバでのライヴがアメリカでの活動に支障を来たすのでは?」という問いかけに対し、ニッキーは「そうなることを願うね」とまさにこの質問を待ってましたといわんばかりに答えている。
つまり、パンク精神を見事に復活させてキューバでライヴを敢行するその行為は、アメリカに対する挑戦状のようなものなのである。そう、『ノウ・ユア・エネミー』は西側資本主義社会に対する、またアメリカを中心とする覇権主義に対する挑戦状にほかならないのだ。

今夏苗場に

これが、マニックスの新たなる戦いなのである。何が彼らに再び世界を敵に回すほどのエネルギーを与えたのだろうか。この2年半の間にメンバーの間に何が起こったのか。
現時点では僕にもまったく見当がつかない。しかし、これだけは確信できる。今のマニックスは本当に何をしでかすかまったくわからない状態になっている。この事だけは間違いないだろう。そして、彼らは今夏苗場に姿を現すのである。これほど予測不可能なライヴはそうめったにはお目にかかれないだろう。しばらくは彼らの言動からは目が離せない。


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