引き算・割り算アンシャープマスク処理
写真によるアンシャープマスクはネガとポジの重ねあわせなので数学的には割り算(掛け算でもよい)になりますが、画像処理(電子処理)ではほとんどのソフトウェアで引き算処理を用いています。 両者でどのように違うのでしょうか? 調べてみました。
割り算用マスクの作り方は光学的引き伸ばし機に真似て、平均ぼかしにします。 このままだとゼロの値をもつピクセルもありうるのでバイアスを乗せます。今回のケースでは100だけ乗せました。
引き算用のマスクはバイアスを乗せない通常のマスクにします。
マスクのぼかし量は直径5ピクセルです。
早速は両者比較してみましょう。
左:割り算式アンシャープマスク処理、右:引き算式アンシャープマスク処理
一体この違いはどこから来るのでしょうか?
そもそもアンシャープマスクは部分的な強度の差を維持したまま広いDレンジの情報を狭いDレンジの中に押し込む手法です。 このとき、低輝度部分では差が小さく高輝度部分では差が大きいので、引き算アンシャープマスク処理をかけても低輝度部分の小さな差はそのまま変わず、見えにくくなります。
一方、割り算アンシャープマスク処理だと細部の強度の比を維持したまま、情報をすべて狭いDレンジに押し込みます。したがって、低輝度部分の描写も良くなります。
引き算アンシャープマスク処理でもその後でトーンカーブをいじれば、割り算アンシャープに似た結果が出てくると思いますが、全く同じ物にはなりません。 数学的に違いますので。
処理の手間を考えると割り算式アンシャープのほうが良いかもしれません。
他例
アンシャープマスク処理が彗星に有効なのはよく知られている。 割り算処理のほうがより眼視に近い印象を与える。 リニアS4彗星の例でも割り算処理のほうが適していることがわかる。 彗星核近傍だけでなく彗星全体の様子も描写する。 引き算処理では核近傍に合わすと尾の方が見えなくなる。
リニア彗星の通常処理はこちら。
2000年7月21日のリニアS4彗星、核は丸くまだ崩壊していない
2000年7月26日のリニアS4彗星、核が細長くなり崩壊している様子がわかる
注意)RGB合成画像をJPGで保存すると色の劣化が激しいため、上記画像2つは色褪せてる。 細部にわたってカラフルな画像ほどJPGは厳禁である。下の画像は拡大しているために色の劣化が少ない。赤色の映え具合が違う。
2000年7月21日のリニアS4彗星ズームアップ
引き算アンシャープマスクは、アンシャープマスクではない!!
割り算アンシャープが光学的なアンシャープマスク処理であることは自明です。 ではなぜ引き算式も存在するのでしょうか? そこはデジタル処理の利点というもので、いろんな処理方法が可能であることの恩恵の1つです。 ところがよくよく考えてみました。 原画からぼかしを引く処理は負のPSFをつかってコンボリューションしたのと同じです。 原画は1点のPSFでコンボリューションしたものです。 ということは2つのコンボリューションの足し算であることがわかります。 コンボリューションではPSFを足し算引き算しても、画像をたし引きても同じ結果が得られます。 つまり次のようなPSFをつかったコンボリューションということになります。
コンボリューションの足し算はPSFの足し算と等価
左:原画用PSF 、 中:負のガウスPSF 、 右:2つの重ね合わせPSF
では一番右のPSFを使ってコンボリューションした画像と比べてみましょう。
左:コンボリューション画像 、右:引き算アンシャープマスク処理
ちなみにエッジ強調用のPSFと引き算アンシャープマスクPSFを比べてみましょう。
左:引き算アンシャープマスクPSF 、 右:典型的なエッジ強調用PSF
とうことでこのコンボリューションは一種のハイパスフィルタではありますが、アンシャープマスクとは言いがたいでしょう。 もちろんオリジナルのアンシャープマスクもハイパスフィルタの一種です(ややこしいですね)。 ちなみにこれに気付いたのは私ではなく、フランス人の知人が読んだ本( IP Handbook by Russ )の中に書いてあったそうです。
12,2,2000
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