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上田早夕里の本棚

  1. ショコラティエの勲章

ショコラティエの勲章 東京創元社
 昨今、居酒屋の主人や女将さん、レストランのシェフといった食べるものを扱う人たちを探偵役にした日常の謎ミステリが多いですが、これもその1冊です。
 神戸に支店を構える和菓子屋・福桜堂に勤める絢部あかりとその2軒隣のショコラトリー・「ショコラ・ド・ルイ」のシェフ・長峰が、彼らの周囲で起きる“日常の謎”を解き明かしていく連作短編集です。
 東京創元社のミステリ・フロンティアの1冊ですが、ミステリとしての要素はそれほどではありません。それよりは、帯にも書いてあるようにお菓子を巡る人間模様を描いた作品といった方が適切な気がします。そのことは、特に“月人壮士”や“約束”、そして表題作の“ショコラティエの勲章”に強く出ています。菓子をモチーフとしたミステリらしさが出ていたのが、最初に収録された“鏡の声”でしょう。この作品では、万引き犯とそれを指摘した目撃者の婦人の心理が鮮やかに描写されており、ミステリとしてもおもしろい作品となっています。それにしても、なんといけ好かない万引犯なのでしょうか。
 収録されている6話には、菓子のいろいろな描写が出てくるのですが、菓子のことにはとんと知識のない身としては、その味も形も想像することすらできず、その点、作品のおもしろさが半減したかもしれません。 
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