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多島斗志之の本棚

  1. 不思議島
  2. 黒百合
  3. クリスマス黙示録

不思議島 創元推理文庫
 多島さんの作品は“クリスマス黙示録”しか読んだことはないのですが(話題になった“症例A”は積ん読ままです。)、この作品はそれとは全く趣が異なる作品です。
 “不思議島”という題名からは孤島ものという印象を持つのですが、残念ながらそうではありません。。島の中の旧家、精神の病気を持つ母親、勘当された叔父、島に戻ってきた自堕落な同級生とくれば、どちらかというと、ちょっと古い探偵小説の雰囲気で、ドロドロした殺人事件が起きるかと思いきや、これまた期待はずれ。話は少女の頃誘拐された主人公が、誘拐事件の謎を追うことによって、思いもよらない真実が現れてくるという話です。戦国時代の文献に登場する不思議な現象ー鏡を通り抜けたように、海峡の前と後ろに同じ世界があらわれたーをうまくトリックに使って、物語は進んでいきます。
 女性の読者に怒られることを承知で言えば、この主人公の女性、簡単に男に惚れすぎです。男の手管にあれあれと思う間に参ってしまうのですから、どうしようもありません。この本にのめり込めなかったのは、この主人公のキャラクターのせいかもしれません。
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黒百合 東京創元社
 2009年版「このミス」で国内編第7位になった作品です。
 物語は、1952年の六甲山の避暑地での少年たちの淡い恋模様を描きながら、所々に過去の出来事を挿入して進んでいきます。
 少年の視点で描かれる1952年は、2人の少年たちと少女との出会い、少年たちが少女に抱くほのかな想いを中心にしたひと夏の青春物語です。その合間に挿入される過去の出来事には、少年たちの父親が戦前にドイツで出会った女性のこと、空襲のさなかに起きた殺人事件のことが語られます。この女性や事件が果たして少年たちが生きる1952年の生活の中のどこに登場しどう関わってくるのか、読者はそんなこととは何ら関係なく少年によって語られる1952年の淡い恋物語を読みながら考えを巡らせていくことになります。
 そんな読者に対して、多島さんは様々なトラップを仕掛けます。読者をミスリードするトラップがあちらこちらに仕掛けられていて、あらぬ方向へと誘います。トラップがあまりに多すぎという嫌いがないわけではありませんが。
とにかく見事に引っかかってしまいました。ラストで明かされる事実にはやられたなあと唸らされました。今更ながらですが、おすすめです。
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クリスマス黙示録 双葉文庫
 双葉文庫から再刊されたのをきっかけに再読です。
 ワシントンDCで少年が日本から留学していた女性・カオリの車に礫かれて死亡。事故は少年に非があるとして、カオリは無罪放免となるが、警官である少年の母親ザヴィエツキーは、復讐を誓い姿を消す。日系人のFBI特別捜査官タミ・スギムラはカオリの警護を命じられるが、警護状況がザヴィエツキーに漏れる事態が起きた上に、日本人が相次いで殺されるという事件が起きる。
 母親の子どもへの愛情というのは、計り知れないものがあると思いますが(ましてや、母一人、子一人ではなおさらです。)、この母親は凄すぎます。警官で射撃の腕もいいという設定がこの物語を成り立たせていますが、それにしてもここまでやるかというくらいです。
 タミは果たしてカオリを守ることができるのか、警官の中の内通者は誰なのか。緊迫感たっぶりのサスペンスでいっき読みです。おすすめ。
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