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直原冬明の本棚

  1. 十二月八日の幻影
  2. 幻影たちの哀哭

十二月八日の幻影  光文社 
  第18回目本ミステリー文学大賞新人賞受賞作です。
 太平洋戦争開戦前夜の東京を舞台に、日本の機密事項を手に入れようとする外国スパイとそれを防ぎスパイを逮捕しようとする海軍軍令部特別班と陸軍参謀本部第二部暗号解読班との戦いを描いていきます。
 情報戦の大切さを説き、防諜のための特別班を設置した海軍少佐の渡海少佐は、頭脳明晰、感情を表に出さず常に沈着冷静なキャラからして、同じ時代を舞台にしたスパイ小説である柳広司さんの“ジョーカー・ゲーム”シリーズの結城中佐を思い起こさせますが、残念ながら結城中佐ほどの強烈なインパクトはありません。ある意味、二番煎じかなという感じもします。一方、海軍兵学校を卒業し、軍艦の艦長になることを夢見ていた渡海少佐の部下の潮田は、一度見たものを映像として記憶する特別な能力の持ち主ですが、これがいつまでも特別班を抜けて艦長になりたいと思うちょっと女々しい男。そんな二人が、スパイを追っていきます。
 真珠湾攻撃が行われたことは歴史としてあるため(ただし、成功か失敗かいえば、肝心の空母が停泊していなかったため撃沈できなかったので攻撃は失敗だという説もあるようです。)、真珠湾攻撃の情報の漏洩は阻止できたとわかっているので、読みどころはスパイは誰なのかという点とスパイ同士の知恵比べとなります。スパイの暗躍も単なる日米開戦がどうなるかだけではなく、日本で行われているスパイゲームの行方がヨーロッパ戦線にも影響を及ぼすという摩討不思議な当時の世界情勢を反映したものになっているところにこの作品のひねりがあります。
 残念だったのは、軍に入り込んでいたスパイの、スパイとなった理由に共鳴がまったくできなかったこと、そして、ある重要な人物のキャラが最後まで明らかとならなかったことです。ネタバレになるので詳細は書けませんが、もう少し、渡海との関わり(戦い)があったらおもしろかっただろうにと思うのですが。
 陸軍が暗号解読に使用した“電子ソロバン”というものが登場しますが、これは今でいうコンピューターのことでしょうか。そういえば、今年見た「イミテーション・ゲーム」でもドイツの暗号エニグマ解読に使われたものが、後のコンピューターの原型となったもののようです。
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幻影たちの哀哭  光文社 
 2014年に日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した「十二月の幻影」に続く第2次世界大戦中のスパイの活躍を描くシリーズ第2弾です。
 前作では太平洋戦争開戦前夜を舞台に真珠湾攻撃を巡るスパイの暗躍が描かれましたが、今回スパイの暗躍の舞台となるのはミッドウェー海戦前夜です。
 空襲で負傷し、入院していた亀島海軍一等兵曹は、復帰に当たって、軍令部特別班への転属を命令される。そこでディーゼル機関の整備の腕だけが自慢の亀島を待っていたのは諜報活動だった。特別班は日本に潜入している腕利きの女スパイ・エゴイストの行方を追うが・・・。
 前作にも登場した、見たものを一瞬で映像として記憶できる能力を持つ潮田、旅芸人の一座で女形をしていた変装の名人の浜中、そして海外出張中で姿を現さない班長の渡海というメンバーが米英のスパイだちと騙し騙され合いのスパイ合戦を繰り広げます。
 日本がミッドウェー作戦を前に、情報をうまく操作してアメリカを騙し、作戦を成功裏に終えることができるのかがメインのストーリーになっていますが、歴史のとおり、ミッドウェー海戦で日本海軍は空母を4隻失うという壊滅的な敗北を喫しており、結論は見えています。あとは、いったい誰がスパイであるのか、エゴイストと特別班との攻防はどんなかたちで終結を見るのかという点が読みどころです。 
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