▲トップへ   ▲MY本棚へ

福田栄一の本棚

  1. 監禁
  2. エンドクレジットに最適な夏
  3. 春の駒 鷺澤家四季

監禁 講談社ノベルス
 初めて読んだ福田栄一さんの作品です。
 物語は、リサイクルショップに持ち込まれた机の引き出しの中に“助けてくれ、監禁されている、警察に連絡を”と書いてある紙切れを見つけた女性・美哉がその真相を探ろうとするところから始まります。「え!こんなことだけで真剣に自分で行動を起こそうとするの?せめて警察に通報するぐらいでしょう。出だしが、これではなぁ・・・」というのが正直なところの読み始めの感想でした。机があったスーパーを見に行った美哉が、そこで偶然行方不明事件を知っている老人に会ったのも、あまりにご都合主義です。途中で投げ出しそうになってしまいましたが、我慢して読んでいくと、これが意外におもしろくなっていきます。
 監禁されている人を探そうとする美哉。老女から身内に殺されてしまうと打ち明けられ、老女と一緒に住むことになった泰夫。結納に立ち会ってもらうために家出後初めて親に会いに行く棗とその恋人の義人。話はなんら関係ないと思われるこの登場人物たちを交互に描いていきます。ミステリ好きだと、こうした構成のミステリだと、作者がどういうトリックを仕掛けようとしているのか、だいたいわかってしまいます。あれですよ、あれ。
 ところが、それだけでなく、最初の1ページと、それ以後挿入される何者かによる独白が、またまた読者を騙します。これには僕自身も最後まで騙されてしまいました。てっきり、これは○○が話しているのだなあと思っていたのですけど。
 最後はあっけなかったですね。もう少しきっちりと謎解きをしてもらいたかった気がします。
リストへ
エンドクレジットに最適な夏 東京創元社
 東京創元社ミステリフロンティアシリーズの1冊です。先日初めて読んだ講談社ノベルスの「監禁」とはまた違ったテイストを持った作品です。
 今回の主人公は大学生の晴也。自分を付け回す不審者を捕まえてほしいという、友人の和臣から持ち込まれた女子大生の依頼を受けたことがすべての始まり。そこから晴也たちは様々な事件に巻き込まれていきます。
 一つの事件に関わることが、別の事件に関わることになり、いったいどれだけトラブルを抱え込めば気が済むのかと思うほどの大忙しの主人公です。こっちの事件に首を突っ込んでいるときに、あっちの事件の関係で携帯電話が入るのですから、いくつ体があっても足りません。それを見事に最後は解決してしまうのですから、これはスーパーマンです。普通の大学生である晴也がこんなに簡単に恐れることなく事件の渦中に飛び込んでいけるかなあと思うのですが、たぶん福田さんは、晴也が中学時代に荒れていた経験があったということを、その質問の回答としているのでしょうね。それにしてもこんなに事件に巻き込まれるわけないでしょうけど(笑)
 晴也とともに事件に関わる仲間として、ちょっと計算高い和臣と茫洋としながら正義感の強そうな俊喜がいるのですが、この二人のキャラクターが生かせるほどの活躍場面がなかったのは残念です。
 エンディングは、ハッピーエンドと思ったら、意外なひとひねり。ちょっとハードボイルドっぽいラストでした(こういうラストは割りと好きです。)。「監禁」と2冊を読みましたが、次も読んでみたいと思わせる作品でした。
リストへ
春の駒 鷺澤家四季 東京創元社
 祖母、市役所勤務の父、自動車機器メーカー勤務の母、大学生の兄・樹、主人公である高校生の葉太郎、そして中学生の弟・草佑の6人家族の鷺澤家に起こった、いわゆる“日常の謎”を描く4編が収録された連作短編集です。
 葉太郎は、部員が自分だけという将棋部の部長。物語はどれも、鷺澤家に起こった“日常の謎”について、葉太郎が将棋部の顧問の城崎真琴に話をし、真琴が謎解きを行ったり、ヒントをくれたりという形式になっており、いわば、“安楽椅子探偵もの”でもあります。
 部活動説明会で使うために葉太郎が作った将棋の被り物を台無しにした犯人を探す「春の駒」、具合が悪くて寝ていたはずの祖母の姿が部屋からある時間消えていた謎を解く「五月の神隠し」、母親がチーフメカニックを務めるレーシングチームの車がレース前日、練習中に起こした事故の謎を解く「ミートローフ・ア・ゴーゴー」、ペットの葬式に行った寺で葉太郎がトイレに閉じこめられた謎を解く「供養を終えて」の4つの謎を真琴と葉太郎が解き明かします。若い女性教師・真琴が名探偵というわけですが、この先生がいまひとつ印象が薄い、キャラ立ちしていないのが残念なところです。
 物語は、葉太郎が高校二年生になった4月から5月、6月、7月が舞台になっていますが、題名が「鷺澤家四季」なので、この後もシリーズ化されるのでしょう。今後の真琴先生の名推理に期待です。
リストへ