第153夜 モノクロ広告から来た至高のB級AVG!「タイムシークレット」
参考リンク:タイムシークレットの世界
(ストーリー)
時は西暦2552年、既に地球連邦が成立されて300年、大きな戦争は起こっていない。それだけに、宇宙開発の成果は目覚ましく、銀河系の中に幾つかの植民地惑星を持つに至っている。
あなたは地球連邦軍のタイムマシン研究所の研究員で、このほどタイムマシンの試作1号機『メタフォトン』号を完成させた。
そんなある日、地球連邦の植民地惑星の一つであるファラス星からS.O.S.信号が地球連邦軍に届いた。銀河系の外からやって来た『ダナーク』というエイリアンが、ファラスに攻撃を仕掛けているというのである。『ダナーク』の軍隊は大変強く、戦いに慣れていない地球人にはまるで歯が立たない。地球からも援軍が飛び立ったが、『ダナーク』人に勝てる見込みはほとんどない。
そこであなたは出来たばかりのタイムマシンを操って、地球の歴史の中から『ダナーク』人の弱点を探り出し、惑星ファラスの人々を助けに行かなくてはならない。
上記のような設定で、主人公がタイムマシンを操って、さまざまな時代を行き来して謎を解いていくというこのゲーム、当時のマイコンゲームのHG(ハード・ゲーマー)だった僕にとっては、あるゲームのことを思い出さずにはいられませんでした。そのゲームの名は、そう、あの伝説の超大河アドベンチャー『TIME ZONE』。「ジャングル大帝」と「ライオンキング」くらいの類似度でしたので、今こんなことが起これば、けっこう叩かれたりする可能性も大ですが、当時のゲーム業界はそのへんはけっこうおおらかなものだったのか、少なくとも訴訟になったりはしなかったようです。いやむしろ、多くのHGたちは、「自分のパソコンで、あの『タイムゾーン』みたいなアドベンチャーゲームができる!」と大喜びしていたくらいです。だって、当時のゲーマーたちにとって、値段が高く、都会でしか買えず、しかもオール英語、フロッピーディスク10枚組、日本円では2万5千円なんていう「タイムゾーン」というゲームは、同タイトルの男闘呼組のレコードに比べると、はるかに縁遠いものでした(ま、男闘呼組も、別の意味で縁遠かったかも)。というか、「そんなのできる環境持ってるやつ、この日本にいったい何人いるんだよ!」という感じ。後には「タイムゾーン」の日本語版も出たのですが、これも、当然フロッピーディスク専用+高価格で、やや時代を失してしまった観もあり、あまり普及はしなかったようです。
まあ、「タイムゾーン」へのコンプレックスはさておき、この「タイムシークレット」をはじめて雑誌の広告ページで見たときのことは、今でもなんとなく覚えています。昔はネットどころか、市販ゲーム専門誌すらありませんでしたから、僕たちの最新ゲーム情報は、「I/O」とか「LOGIN」とかの広告ページに頼るしかありませんでした。僕にとって、これらの雑誌の広告ページで、「シャープX1版発売!」というのを見るのが、人生の最大の喜び、という時期が、けっこう長かったのです。そして、当時の一般的な常識としては、「面白いゲームは、カラーページで大々的に広告を打たれている」というのがありました。やはり、それなりに立派な広告を出せるというのは、会社の規模とか実績を反映してもいたわけです。なかには、昔のハドソンソフトのように、「広告だけは立派なんだが…」というようなメーカーも散見されましたが。
ところが、この「タイムシークレット」を発売していた「ボンドソフト」という会社は、ずっと、雑誌の後ろのほうにある白黒ページに広告を出し続けていました。一般的にこの白黒広告ゾーンは、マイコン本体を安売りする会社とか、ちょっとアダルト系のソフトの宣伝が多いエリアで、僕たちも、ここに載っているゲームには、ほとんど期待などしていませんでした。しかし、この「タイムシークレット」は、確かに、なんとなく気になるゲームではあったのです。まあ正直、「面白そうな感じもするけれど、たぶんクソゲーだよなあ…」というレベルだったんですが。作者のネコジャラ氏というネーミングも、あまりにベタな駄洒落っぽくて、なんとなく不安だったし。
実際は、この「タイムシークレット」、本当に良質のアドベンチャーゲームで、「マイコンBASICマガジン」の「チャレンジ!AVG&RPG」で山下章さんが紹介したのをきっかけに大ブレイクしたのです。たぶんそれまでは、みんな、気になるけど、広告は白黒ページだし…というところだったのでしょう。
「タイムシークレット」は、MZ700という、当時としてもけっしてハイスペックとは言えないマシンで発売されたのですが、100枚くらいのあのころとしては十分に多く(「総画面数○○枚!」というのがウリになる時代だったので)、それなりに美しいグラフィックが話題になりました。というか、MZ700というマイコンには、いわゆるグラフィック機能がほとんど無かったのですが、ネコジャラ氏は、それを逆手にとって(というか、そうするしかなかったんだけど)、キャラクターコードをフルに利用して、これだけの「絵」を描いてみせたのです。いわば、あの「2ちゃんねる」でおなじみのAA(アスキー・アート)のはしりとでも言うべき作品。いやまあ、X1という当時はハイスペックの部類だったマシンを使っていた僕からすれば、「ほんと、あのMZ700で、ようやるなあ…」という感じではあったんですけどね。
この「タイムシークレット」は、スマッシュヒット作品となり、のちに、続編の「タイムトンネル」も出ました。これも良質のアドベンチャーゲームだったのですが、やっぱり広告は白黒ページで、「ボンドソフトは、儲かっていないのか…?」と感じたことを思い出します。グラフィックもけっこう綺麗だったから、カラーで宣伝していれば、もっと売れたかもしれないのにさ。
しかし、あの白黒ページでの宣伝といい、MZ700というマシンからの出発といい、「タイムゾーン」を彷彿とさせまくる設定といい、「タイムシークレット」は、まさに「至高のB級アドベンチャーゲーム」と呼ぶにふさわしい傑作でした。ゲーム中にも登場していた「ネコジャラ氏」さんは、今、いったいどうしているんでしょうか。どこかで、幸せにやってくれているといいなあ、と思います。