第144夜 野球ゲーム革命前夜の物語「生中継68」


参考リンク:生中継68


 コナミの参入は、当時のX68000ユーザーにとっては、とても大きなニュースだったのです。もともと「本物そっくりの『グラディウス』が遊べる」ということで話題になった機種でもありましたし。第一弾の「パロディウスだ!」がすばらしい出来だったこともあり、「次は、どんなアーケードゲームが移植されるんだろう?」と、いうのが、ユーザーたちの話題になっていたものです。しかしながら、コナミのX68000ゲームの第二弾は、予想外のオリジナル野球ゲームである、この「生中継68」だったのです。

 この「生中継68」の広告をはじめて雑誌で見たとき、そのリアルなグラフィックには驚かされたのですが、その一方で、「でも、なんで野球ゲームなの?」と疑問になったのも事実です。

当時の野球ゲームは、ナムコの「ファミスタ」が主流で、亜流ファミスタである「究極ハリキリスタジアム」(タイトー)とか、ちょっとイロモノ系の「燃えろ!プロ野球」もそこそこ売れてはいたものの、ファミスタの牙城はゆるぎないものだったのです。野球ゲーム=ファミスタであった時代に、コナミがX68000オリジナルの野球ゲームを出してきたのは、ものすごく意外だったんですよね。

「生中継68」は、参考リンクにもあるように、当時としてはものすごく詳細なグラフィックに、「ファウルボールにご注意ください」なんて音声が入っていたり(もちろん「実況」はなかったのですけど)、ピッチャーは投球の際に、まずコースを指定して、それから変化球の種類を指定して投げ、バッターは、その球に「ヒッティングスコープ」と言われる「バットを振るポイント」を合わせて打つのです。このシステムによって、今までのファミスタでは「振れば空振り、振らなければボール」という、野球盤の延長のような存在だったフォークボールが、「打つことが可能な球」になり、「縦の変化」の重要性とリアリティが格段にアップしたのです。これはまさに「革命的」なことでした。

まあ、「生中継68」は、他機種に移植されなかったこともあり、局所的な盛り上がりに終わってしまったのですが、僕は当時、このゲームが大好きで、130試合のペナントレースを何ヶ月もかけて戦っていました。「68でしかできない!」っていう優越感もありましたし。

でも、しばらくして、野球ゲーム界を驚かせる新機軸のゲームが、コナミから発売されました。その名は「実況パワフルプロ野球」略して「パワプロ」。僕がこのゲームをやって、あらためて感じたのは、「ああ、コナミにとって、『生中継68』は、このゲームを作るための『実験作』的な側面もあったのだなあ」ということでした。パワプロの画面はデフォルメされていますが、テレビ中継を意識した画面構成やバッテリー間のシステムは、まさに「生中継68」の進化形だったのです。ユーザーとしては、その「実験」に参加できた喜びと、「所詮、68は、『お試し』だったのかよ…」という寂しさの両方があったんですけどね……

「パワプロ」は、野球ゲームの革命児だったのですが、本当の「革命」を起こしたのは、「生中継68」だと、僕は今でも考えています。まあ、「自分の機種でしか出ていないゲーム」っていうのには、過剰に思い入れができやすいものだとしても。