HONG KONG PUBLIC TRANSPORT TOURISM ASSOCIATION

旅のエッセイ

トラムのできごと　　[002]

　後ろ乗り、前降りはトラムの大原則。と思っていたら、こんなひとこまを見た。
　いつもながらに込んでるトラム、停車場にさしかかると、待っている男の人が見えてきた。足が弱いらしく杖にすがって立っている。どうやって後ろの入口バーをくぐるんだろ…と思ったら、トラムはその男性のまん前に前部ドアが来るように停車した。前ドアなら回転バーがなく、少しは楽だからだ。
　男性が乗り込むと、今まで最前部でけっこう幅取って座っていたおばちゃん3人がすかさず立ち上がる。3人は知り合い同士ではないようなのだが、全員いっせいに兄ちゃんを取り囲み、こっちだこっちだ、ここ座んなさいの大合唱。男性がよろよろ座り、おばちゃんたちはそこら辺にばらばらに立ち、男性の着座を確認した運転手はなにごともなかったように発車した。バリアフリーとほど遠いと思っていたトラムでも、工夫はあるんだなあと感心したできごと。「譲り合い」の優しさ（というか、騒がしさみたいな感じだったが）も、ちょっと気持ちよかった。

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