別名 | 魔女の草、漢名:ロウトウ(莨ト) |
分類 | ナス科 ヒヨス属 |
原産地 | ヨーロッパからシベリア、中国やヒマラヤ、北アフリカなど 日本には自生しない(薬用に栽培されるのみ) |
生薬名 | ヒヨス |
薬用部分 | 葉、種子 |
成分 | ヒヨスチアミン、スコポラミン、アトロピン、アポアトロピン、スキミアニンなど |
適用 | 硫酸アトロピンや臭化水素酸スコポラミンなどの製造原料となります。 副交流神経を麻痺させ平滑筋を弛緩させる作用を持っており、微量で鎮痛、鎮痙、鎮静薬として胃けいれん、胃痛、心臓病などに使われます。 このほか、喘息の発作、モルヒネ中毒の治療などにも使用されます。 毒性が強すぎるため、劇薬として扱われますので、民間での利用は絶対不可です。 植物に触った手で、目を擦ると瞳孔が開き大変眩しく、回復するのに時間が掛かるので、この植物に触ったら、必ず手を洗うことも必要です。 |
有毒部分 | 葉、茎、種子 |
有毒成分 | ヒヨスチアミン、スコポラミン、アトロピン、アポアトロピン、スキミアニンなど |
中毒症状 | 錯乱、幻覚、言語障害、眠気、視力減退、呼吸抑制、死亡に至る |
名前の由来 | 学名(属名)のヒヨスチアムス(Hyoscyamus)の頭の部分が和名になったと云われています。 “Hyoscyamus”は古代ギリシャ語でブタの豆を意味するそうで、これはオデュッセウスの部下をブタに変えた魔法の薬に因むとする説もありますが、ブタが食べると中毒症状の痙攣を起こすからとの説もあります。 魔女の草の謂れはホメロスの“オデッセイア”にでてくる魔女キルケーは、古代ギリシャのトロイア戦争の英雄オデッセウスを誘惑するのにヒヨスのエキスを入れた飲み物を使いました。 それ以来ヒヨスは特定の相手を魅了するための“魔女の草とか愛の秘薬”と呼ばれるようになりました。 ヒヨスは安心感を与え、現実を忘れさせ、性欲に刺激を与えると云われています。 漢名のロウトウも“のたうち回る”という意味で、中毒を起こすと異常興奮し暗いところを求めて、のたうち回るからと云われています。 この事から、日本ではハシリドコロにロウトウ(走野老)の名を充てています。 中毒症状から出来た故事 煎じて飲んだり、他のハーブ類に混ぜて喫煙することで、生じる中毒症状に幻覚、睡眠や性欲を刺激したりする作用があり、これらをもとにした故事が古代から欧州にあります。 予言で知られるアポロン神殿の巫女達はヒヨスの煙を吸うことで“予言の眠り”と云われる催眠状態に入り、未来の出来事を織り込んだ神託を告げたそうです。 ネロ皇帝(1世紀)に使えた軍師であり薬草学の権威ディオスコリデスは“眠りや狂気を招く作用があり、新鮮な葉を外用薬にして患部に塗れば痛みをやわらげる”と記しています。 魔女達はヒヨスを主原料とする空飛ぶ軟膏を香油にして身体にすり込み、さまざまな儀式(悪魔との性交など)を行うなどの話も作られ、民俗学者ウィル・エーリッヒ・ポイケルト教授と友人は魔女の処方どおり空飛ぶ軟膏を作り使用したところ、二人とも魔女と同じような体験をした。 中世になると魔女達が好んで使ったヒヨスは“男をとろけさせる”邪悪な植物として、魔女狩りが始まった。 16世紀の頃、この植物は“ヘンベイン(Henbne)”と呼ばれるようになります。 この言葉は、henとbane の合成語で、後者は古代英語で“毒殺”を意味する bana に由来し、hen は雌鶏のことだが女性への侮蔑的な蔑視の言葉です。 魔女と共にヒヨスは弾圧され歴史から消えて行きました。 現代になって宇宙飛行士の酔いどめの軟膏やモルヒネ中毒の治療に使われるようになり、重要な医薬品の一つに位置付けられています。 |