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お題:  見た目と違う

ハシリドコロ [走野老]   有毒植物
別名 ート、オメキグサ、キチガイイモ、キチガイグサ
分類 ナス科 ハシリドコロ属
生薬名 ロートコン(莨ト根)  日本薬局方
薬用部分 根茎、根、葉
成分 ヒヨスシアミン、アトロピン、スコポラミン
適用 ロートエキス、硫酸アトロピン、臭化水素酸スコポラミン、副交感神経遮断薬アトロピン、スコポラミンの製薬原料で、胃痙攣・喘息・神経痛などの鎮痛、鎮痙薬、瞳孔調節麻痺薬などに用いられる。
ナス科ハシリドコロの他に、ベラドンナ、シロバナヨウシュチョウセンアサガオなど同属植物に含まれるトロパンアルカロイド(ヒヨスシアミン、アトロピン、スコポラミンなど)で、いずれもアセチルコリンの可逆的拮抗物質で、副交感神経遮断作用がある。
また、瞳孔括約筋を弛緩させる作用があり瞳孔が開くので眼科で多く用いられる。
アトロピンがオウム地下鉄サリン事件ではサリンの解毒薬として使われたのはサリンがアセチルコリンのような作用に対してアトロピンが拮抗するので使われました。
アセチルコリン:副交感神経分泌物質で神経伝達物質の一つであり、筋肉に収縮する刺激を伝える作用があります。
サリン:神経毒の一つで神経細胞から次の神経細胞への伝達部分の働きを障害します。
劇薬であり、素人の利用は厳禁です。
有毒部分 全草、根茎(特に多い) 、液汁
有毒成分 ヒヨスシアミン、アトロピン、スコポラミン
中毒症状 嘔吐、下痢、瞳孔散大、錯乱、幻覚、呼吸麻痺、最悪は死亡する。
m精神分裂病や急性アルコール中毒と間違われ易い。
n有毒成分は神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を遮断し、副交
 感神経を麻痺させるので、消化管の運動は抑制され“失禁”することも
 あり、また、発汗も抑制されて体温が上昇することもある。
・汁液が目にはいると瞳孔が開いてしまう。
フキノトウやオオバギボウシの若芽にハシリドコロの若芽が似ていることからの誤食や柔らかそうに見え食べられそうなので、無知から山菜として採取し食べたしまうことによる中毒事故が絶えないので、山菜取りには注意が必要です。
死亡率の高い毒草ですが、24時間強生存出来れば、ほぼ回復するそうです。
名前の由来 “走(ハシリ)+野老(トコロ)”の二部構成で名付けられ、“ハシリ”は食べると、中毒の初期に幻覚が生じて走り回ることに由来し“トコロ”は、この植物の根茎が肥大してオニドコロの根に似ていることから“トコロ”の名前を借用した。
ロートの別名は江戸時代の平賀源内が中国のヒヨス(ロウトウ)に似ていると考えて名付け、小野蘭山がその説を支持したことから生薬名として定着した。
学名(属名)ヒヨスチアムス(Hyoscyamus)の頭の部分が和名になったと考えられ、ヒヨスはラテン語で豚の意で、人だけでなく、豚にも毒であるという意味に由来。
漢名のロウトウ(莨トウ)は“のた打ち回る”の意で、中毒すると異常興奮し暗いところを求めてのたうち回ることから。
間違から
   駒の話
1826年に商館長の江戸参府に同行した、シーボルトは尾張国の宮(熱田)で、地元の本草学者らの訪問を受け、多数の博物標本や写生図を示され学名鑑定を乞われました。
その中に尾張の本草学者水谷豊文から写生した美濃国根尾山産のハシリドコロの図があり、ヨーロッパ産のベラドンナと同じ植物と鑑定しました。
その後、江戸に滞在していたシーボルトの所に眼科医の土生玄碩(はぶ げんせき)が瞳孔を広げる薬(ベラドンナ)の分与を願い出て、最初は快く分与してくれたが、使い切ったので再度分与を願うが、シーボルトに断わられた。
窮余の策で、着ていた葵の紋服を与え頼み込んだところ、シーボルトは日本にもあることを告げた。
土生玄碩はハシリドコロを採取して囲碁虹彩切開手術(白内障治療)に利用することが出来、手術に成功したのです。
シーボルトが持参していたのはベラドンナであり、シーボルトが勘違いして教えた日本の植物はハシリドコロだったのです。
窮余の策で、土生玄碩がシーボルトに与えた葵の紋服は、当然ながら将軍家拝領である。
後に、土生玄碩は、1828年のシーボルト事件で“大日本沿海與地全図”と共に葵の紋服も明るみとなり、この件の責を問われ、晩年の大半を刑に服することになる。
既に、幕府御殿医という地位、名声や富を得ていたのに、敢えて国禁を犯してまで薬を入手しようとしたのはどうしてでしょうか。
常に新しい手術法を考案するために、あらゆることを貪欲に学ぼうという意欲に溢れる土生玄碩にとって、手術を容易にする散瞳剤を見逃すことができなかったのであろうと云われています。
シーボルトに見出される以前のハシリドコロの薬草としての日本での位置付けはどうであったかと云うと。
“物類品質(平賀源内1763年)”に“ロウトウ、和名ホメキクサ。肥後方言ハシリドコロと云う。これを誤って食べると狂走して止まらず、故にハシリドコロと云う”とあります。
また、源内はロウトウと日本産のハシリドコロとは効用などは非常によく似ているが、形態的にはやや異なると述べています。
その後、“本草綱目啓蒙(小野蘭山1829年)”で、ロウトウはハシリドコロであると追認し、“第二改正日本薬局方”に収載された際にもロウトウの名が採用され、それが今日の“ロートコン”に繋がります。
ロウトウは古くから中国で薬用とされていた植物で、“史記”の扁鵲倉公列伝に登場することから、既に紀元前から用いられていたと云えます。
“神農本草経(西暦500年前後に、当時伝えられていた古書をまとめたもの)”の下品(げほん:病を治すを主とし毒性も強いので連用を慎む)には「ロウトウ子、味苦寒、歯痛、出虫、肉痺、拘急を主治し」とあり、鎮痛、鎮痙薬としての効能が認められていました。
日本最古の医書“医心方(982年)にも“ロウトウ子、和名於保美久佐(オオミクサ)”と和名を充てていて、ロウトウ子が伊豆、相模、安房、上総、近江及び讃岐国から典薬寮へ貢進されており、これらの産地と現在のハシリドコロの自然分布は比較的良く一致しているそうです。
しかし、植物分類学的には日本産のハシリドコロとヨーロッパ産のベラドンナ、中国産のロウトウは別のもので、
ハシリドコロ:ナス科ハシリドコロ属 学名Scopolia japonica
ロウトウ(ヒヨス):ナス科ヒヨス属 学名Hyoscyamus niger L.
ベラドンナ:ナス科ベラドンナ属 学名Atropa belladonna
薬学的には、生理活性成分が同一のものを含んでいたので、生薬としての利用上では同じとみて良かったのです。
ベラドンナは、ヨーロッパではどのような位置付けだったのかと云うと、薬物史上有数の毒草で、食物、飲料にベラドンナの果実の一粒を入れるだけで確実な死を呼び、中世の毒殺者はこの効用を巧みに悪用し、リビア(アウグストゥス皇帝の妻)やアグリピナ(クラウディス皇帝の妻)などが犠牲となりました。
この有毒性は紀元前から知られており、ギリシャ人はこれらナス科の有毒植物をストキリノスと総称していました。
ベラドンナはイタリア語で美しい(bella) 貴婦人(donnna)という意で、ルネサンス期にこの植物の果汁を点眼して目を美しく見せる化粧が流行った為と云われおり、この植物の瞳孔散大効果により、お目目がパッチリして、より魅力的に見えたためと云いわれています。
余談ですが、光学機器メーカーのボシュロム・ジャパンが美しい目の有名人の調査をした事があり、それによれば美しい目のベスト3は、松坂慶子、大原麗子、多岐川裕美という順だったそうです。
この方達は、美人女優で全員が近視なのだそうです。
近視の人の瞳孔は開きかげんになるそうで、そのため瞳が大きく、うるんで見えるのだそうです。
これが魅力の秘密だったのです。
近代薬学の歴史では、ベラドンナの根からアトロピンは1831年に単離され、水溶性の塩(アトロピンメトニトレート)が1902年に眼科系の薬として用いられる。
ヒヨスチンは1910年に前麻酔薬として用いられる。
迷走神経を刺激して心臓の機能を抑制するという薬理効果が証明され、副交感神経遮断薬、鎮痙薬としての地位が確立することになります。
また、別種の植物の種子からは瞳孔散大作用のあるスコポラミンが発見されました。
その両方が日本産のハシリドコロの根から分離され、ベラドンナ根の代用として欧米諸国に広く宣伝されました。
胃腸薬や目薬に配合する時は、個々の成分を単品で用いるよりロートエキスとして一定量を入れた方が、より有効で副作用が少ないとも云われています。
春植物 早春に地中から新芽が生え、新緑の頃には群生して花を咲かせ、梅雨の中頃まで茎葉を広げる。
7月頃には地上部は枯れ、夏季休眠に入る。
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