最新の栄養学理論2・・・砂糖・食物繊維・腸内細菌

砂糖の過剰摂取の害

現代人は昔と比べ、比較にならないほど大量の砂糖を摂るようになっています。アメリカでは、1人1日当たり、大さじ17〜18杯(約160g)もの砂糖を摂取していると言われますが、こうした状況は、現在の日本においてもそのまま当てはまります。

日本における砂糖の平均摂取量は約65gですから、アメリカよりかなり少ないように思われます。しかし現実は、1日にペットボトル1本の清涼飲料を飲み切ってしまうような青少年が多くいることを考えると、かなりの人がアメリカ人並に摂取していると思われます。数年前にNHKが放映した小学5・6年生を対象にした調査では、1人1日コーヒーカップ1杯、約210gもの砂糖を摂っていることが分かりました。

大量に摂取される砂糖の70%は、清涼飲料や菓子・加工食品に含まれる隠れた砂糖です。コーラ・ジュース・缶コーヒー、チョコレート・ケーキ・菓子パン・アイスクリーム、ケチャップ・ドレッシング・調理済みの総菜などには多量の砂糖が含まれています。(※ちなみにコーラ1500ml中には160g、缶コーヒー250ml中には18g、アイスクリーム1個には15gもの砂糖が入っています。)

砂糖の摂り過ぎは多くの現代病を引き起こす原因となっていますが、ここでは現代栄養学が明らかにしている、「砂糖の過剰摂取の害」について見ていきます。

ここ30年ほど、日本では砂糖の摂取量が減少傾向にあると言われます。確かに砂糖キビやテンサイ(砂糖大根・ビート)などからつくられる、昔ながらの砂糖の量は減っています。しかし代わって“異性化糖”と言われるトウモロコシや芋デンプンを原料にしたブドウ糖・果糖などの量は大幅に増加しています。また“調整糖”と言われるミルクの成分やソルビトールに砂糖を加えたものも、かなり増えています。他にはハチミツやメープルシロップなどの消費も伸びています。

こうした異性化糖や調整糖は、「砂糖の摂取量」として公表されるデータには含まれていません。砂糖と異性化糖・調整糖を合わせた量は、ほぼ横ばいと考えられます。しかも重要な点は、約30年前(昭和47年)当時は、すでに食生活が崩れ「大量の砂糖が摂取されるようになっていた」ということです。つまりここ30年間以上、糖類の過剰摂取は続いているのです。

先ほど挙げた、1人1日当たりの平均摂取量65gという数字は、平成13年度の砂糖の総需要量(国内生産量に輸入量を足した量)に異性化糖の需要量を加え、総人口で割ったものです。この数字には、調整糖やその他の糖類は含まれていませんし、ゼロ歳児まで加えた単純な数字であることを考えると、実際の摂取量はかなり上回るものと思われます。

炭水化物(糖質)の種類と特徴

炭水化物である糖類・デンプンは、人体の主要なエネルギー源です。食べ物として摂取された糖類・デンプンは消化酵素によって単糖(ブドウ糖・果糖・ガラクトースなど)に分解され、小腸から毛細血管内の血液に入り、肝臓に運ばれます。

吸収された単糖のうち、果糖とガラクトースの多くは肝臓でブドウ糖(グルコース)に変換されます。ブドウ糖の一部はそこでエネルギー源となりますが、肝臓から血液に送られたブドウ糖は、神経・筋肉・その他の組織でエネルギー源として利用されます。ブドウ糖が各組織(細胞内のクエン酸サイクル)で代謝され、エネルギーが生み出されます。

体が活発に活動しているときは、ブドウ糖は次々にエネルギーに変換されていきますが、すぐに使われない場合は、インスリンの作用によって「グリコーゲン」に変えられ、肝臓や筋肉に蓄えられます。しかしグリコーゲンの貯蔵量には限度があるので、あまったブドウ糖は「体脂肪(中性脂肪)」として蓄積されます。(※体脂肪は予備エネルギー源で、活動が増えて食事から摂取された糖が不足したときには燃焼に回されます。活動が少なく消費量より摂取量が多ければ、体脂肪が増加し肥満を招くことになります。)

炭水化物は、主に炭素・水素・酸素からできていて、その最小単位は「単糖」と言い、ブドウ糖・果糖・ガラクトースなどがあります。単糖が2〜20個結合したものを「オリゴ糖」、単糖が多数結合したものを「多糖」と言います。(※オリゴ糖は「少糖」とも呼ばれていますが、その中で単糖が2個結合したものは「2糖」と呼ばれ、麦芽糖・蔗糖・乳糖があります。蔗糖は一般に“砂糖”と言われます。)

エネルギー源としての“糖”

細胞内に入ったブドウ糖(グルコース)は、「クエン酸サイクル」と言われる複雑なプロセスをへる中で燃焼しエネルギーに変換されますが、ブドウ糖の燃焼がスムーズに行われるためには、ビタミンB群やミネラルが不可欠です。(※ビタミンB1・B2・B3・B6・B12・ビオチン・パントテン酸、そしてマグネシウム・マンガンetc.)

もし、こうした栄養素が不足するとブドウ糖の燃焼効率が低下し、エネルギー生産に支障が生じることになります。代謝を進める微量栄養素の不足から、クエン酸サイクルの途中でブドウ糖の一部が脂肪に変換されてしまいます。それではいくらブドウ糖があっても十分なエネルギーが得られなくなり、身体の活力低下を引き起こすことになります。

先に砂糖の過剰摂取が肥満につながると言いましたが、単に“糖”が多いということだけが問題ではなく、一緒に働く栄養素の不足によっても「体脂肪」は増えることになるのです。つまり微量栄養素の不足による「糖の代謝異常」が、肥満の引き金になるということです。

砂糖は「空のカロリー食品」

砂糖の過剰摂取が私たちの健康にマイナスとなる理由はいくつかありますが、まず挙げられるのが、砂糖は「空のカロリー食品」であるということです。現代人が大量に摂取している砂糖の多くは、真っ白に精製された白砂糖です。“糖”だけあって、その代謝に必要な栄養素(ビタミン・ミネラル)がほとんど失われてしまった精製糖です。そのため砂糖は、カロリーだけあって他の栄養素を含まないという意味で――「空のカロリー食品」と呼ばれています。

砂糖以外の空のカロリー食品としては、アルコールや純粋なデンプンなどがあります。米や小麦粉なども精製されて白くなればなるほど、空のカロリー食品に近づくことになります。ラードなどの動物性脂肪やサラダ油・テンプラ油などの精製油も、一部のビタミンがあるだけで、大半がほとんどカロリーだけの食品です。(※精製されていない黒糖や蜂蜜・メープルシロップなどにはビタミンやミネラルが含まれていますが、“糖”である以上、微量栄養素の摂取を期待して摂るようなものではありません。)

「微量栄養素の欠乏」を引き起こす

では、砂糖のような「空のカロリー食品」は、どうして健康に害をもたらすことになるのでしょうか。私たちが1日に必要とする“カロリー”は、運動量や体重から適量が決まっています。そこへカロリーだけを含む食品を大量に摂取すると、すぐにカロリー枠がいっぱいになり、他の食べ物を摂ることができなくなってしまいます。残されたわずかな枠で、「必須栄養素」のすべてを摂取しなければならなくなります。しかし、もともと空のカロリー食品の多い食事には必須栄養素が不足していますから、それが不可能であることは明らかです。

砂糖を大量に摂ればお腹は空かなくなり、食欲は減少します。甘い物ばかり食べている現代の子供たちは、昔の子供たちのような、まともな食事は摂れなくなっています。ジュース・菓子パン・アイスクリーム・チョコレートなどを日常的に摂っている子供は、豆や野菜などは好みません。

昔は、砂糖や脂肪などの摂取量が少なかったので、ご飯をしっかり食べてカロリーを補給しなければなりませんでした。そして主食のご飯に加えて、豆や野菜・魚といった副食をしっかり摂っていました。そうした“まともな食事”には、カロリー以外の栄養素も多く含まれ、食事全体の栄養バランスが保たれていたのです。それが現代では、砂糖や脂肪に偏った結果、大きく崩れてしまいました。

食事の中で「空のカロリー食品」の占める割合が増えるほど、カロリーだけは満たされても必須栄養素は欠乏するという事態が生じます。現在、日本人が摂取している炭水化物の40%近くは砂糖によって占められています。また米も大半が白米で、栄養素は乏しくなっています。このような食事の傾向が、必須栄養素―特に“微量栄養素”を枯渇させることになります。砂糖の過剰摂取の害として最初に挙げられるのは、「微量栄養素の欠乏を引き起こす」ということです。

よい食品というのは、カロリー栄養素の他にビタミンやミネラル・食物繊維などを含んでいます。こうした食品で食事を組み立てれば、カロリー枠を超えることなく、必須栄養素・微量栄養素を満たすことができます。

食べ物が体内で利用されるためには、代謝を進める微量栄養素が欠かせません。しかし「空のカロリー食品」である砂糖には、ビタミンやミネラルなどは含まれていないため、それを摂ることで、体内の栄養素を消耗させることになります。つまり砂糖を摂ることで、もともと乏しい体内の“微量栄養素”が、いっそう欠乏してしまうのです。

さらに砂糖の過剰摂取は、血液を“酸性”に傾けます。すると体はPHを一定に保つために、カルシウムなどのミネラルを必要とします。もし血液中に十分なカルシウムがなければ、ホメオスタシスの働きによって、骨や歯からカルシウムを溶かし出してくることになります。

日本をはじめ先進諸国では、貧しい国々とは異なり、カロリー不足からくる栄養失調はありません。むしろカロリーを摂り過ぎて「微量栄養素の失調」に陥り、病気を招いています。砂糖の過剰摂取は欧米型の食事の特徴ですが、それが“生命の鎖”を弱体化させる大きな原因の1つになっているのです。

「低血糖症」を引き起こす

砂糖の過剰摂取は微量栄養素の欠乏を引き起こすだけでなく、「血糖値を急激に上昇させる」という点からも健康に害を及ぼします。2糖類である砂糖は消化・吸収のプロセスがきわめて速く、摂取後、短時間で血液に運ばれます。そのため砂糖をたくさん摂ると、血糖値が急激に上昇することになります。(※砂糖は時に直接、口や胃の粘膜からも吸収されます。)

砂糖の大量摂取によって血糖値が跳ね上がると、血糖の調節のために「インスリン」というホルモンが分泌されます。あふれているブドウ糖を細胞内に取り入れようとして、膵臓は急いで「インスリン」を分泌することになります。(※血糖値が高くなると「インスリン」が分泌されてブドウ糖は貯蔵に回され、反対に血糖値が低くなると「グルカゴン」がグリコーゲンを分解して、血糖を供給します。膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンという2つのホルモンが、血糖のコントロールをしています。)

穀類に含まれるデンプンのように消化に時間がかかり、小腸からゆっくりと吸収されればよいのですが、砂糖の場合は一気に吸収され“高血糖”の状態を招くことになります。すると膵臓は、血糖を下げるためにピッチを上げて多量のインスリンを分泌しなければならなくなります。こうしたことを繰り返していると、糖の代謝にかかわる膵臓や肝臓・副腎などの器官が疲弊し、血糖の調節に狂いが生じるようになります。

わずかな砂糖が入っただけで、膵臓が過剰に反応して、必要以上にインスリンを出すようになると、血糖値の落ち込みがひどくなったり、慢性的な低血糖状態が続くことになります。これを「低血糖症」と言います。そして長期にわたってオーバーワークを強いられた膵臓は、やがて疲れ果て必要な量のインスリンを分泌できなくなり、低インスリン性の糖尿病を招くことにもなってしまいます。(※砂糖だけが糖尿病の原因ではなく、脂肪の摂り過ぎがインスリンの働きを阻害することが分かっています。しかし過剰な砂糖が膵臓を疲れさせ、糖尿病の誘因となることには変わりありません。)

「低血糖症」による心身の異常

低血糖症とは、脳を含む全身のエネルギー源である血液中のブドウ糖のレベルが、異常に低くなる病気です。それによって細胞へのブドウ糖の供給が不足し、脳と体のエネルギー・ショック状態が引き起こされます。(※低血糖の影響は全身に及びますが、特に心臓・神経・脳への影響は重大です。)

低血糖症によって起こされる症状はさまざまですが、まず極度の疲労や脱力感・動悸や震え・猛烈な飢餓感・あくびやため息などが現れます。特に脳はブドウ糖だけを唯一のエネルギー源としているので、低血糖の影響を敏感に受け、イライラ・かんしゃく・神経過敏・不安感・集中力欠如などの症状が現れます。

血糖が低下していると、それがストレスとなり、副腎から「アドレナリン」というホルモンが分泌されます。アドレナリンは血糖を上げようとしますが、このホルモンには人を興奮させ、攻撃的にさせる作用があります。アドレナリンはストレスに対処するために必要なものですが、それが過剰に分泌されれば、人格を変えてしまうほど強烈な影響を及ぼすことになります。

低血糖によって不快な症状が現れると、手っ取り早く血糖を上げてくれる甘い物や、アルコール・コーヒー・コーラなどの刺激物が欲しくなります。それらは即効的に血糖値を上昇させ、いったん症状は収まります。しかし、そうしたことの繰り返しによって状態は悪化し、低血糖症から脱け出せなくなってしまいます。

現在、大きな社会問題になっている子供や青少年の心身の異常さは、「低血糖症」が大きくかかわっていると思われます。落ち着きがなくてすぐにキレる、頭が真っ白になって考えがまとまらない、無感動で無表情といった精神的脆さ・異常さの背景には、「低血糖症」の影響があるのです。

アメリカでは、低血糖症についての認識がかなり浸透しています。そして多くの栄養学者が、砂糖の過剰摂取が低血糖症を引き起こし、心身に重大な悪影響をもたらすことを警告しています。アメリカで行われた研究では、犯罪者や非行少年の80%以上が低血糖症でした。まさに「犯罪の陰に低血糖症あり」ということです。また“Mレポート”では、精神病患者の67%に、低血糖症が関係していると報告しています。

腸壁のバリアーを壊し、アレルギーを引き起こす

肉や牛乳・卵などの高タンパク食品が腸壁のバリアーを壊し、アレルギーをひどくすることを述べましたが、「砂糖の過剰摂取」も同様です。砂糖も腸壁を膨張させ、透過性を高めてアレルゲン物質を血液中に引き込みやすくします。“腸管の透過性”が増大し、食べ物が大きな分子のまま吸収されてしまうのです。牛乳や卵に大量の砂糖を加えたケーキやクッキーなどの菓子類は、最もアレルギーを悪化させる食品の1つです。

またアレルギーと低血糖症は、密接な関係があると言われます。低血糖症によるストレスが副腎を弱らせ、アレルギー反応をひどくします。アレルギーの体は常にアレルゲンに対処するために、強いストレスにさらされています。そこへ低血糖症のストレスが追い打ちをかけ、副腎に大きなダメージを与えることになります。すべてのストレスは、特にそれが長期にわたる場合、副腎を疲弊させ、アレルギーを起こしやすくします。(※副腎が弱れば、低血糖症も起こりやすくなります。)

さらに砂糖の過剰摂取によって細胞が壊れやすくなり、ヒスタミンの放出が促されます。ヒスタミンはアレルギー反応(抗原抗体反応)の過程で免疫のマスト細胞から放出される“起炎物質”で、腫れやくしゃみ・かゆみなどの炎症反応を引き起こします。

大量の砂糖によって“腸内環境”が悪化すれば、腸のバリアー機能・免疫機能が低下します。腸内環境の悪化はアレルギーだけでなく、クローン病など大腸炎の素因をつくることになります。また過剰な砂糖は血液の粘度を高め、細胞・組織を老化させます。

砂糖の有害性を認めない動き!

このように砂糖の過剰摂取には明らかに問題がありますが、いまだにそれを認めようとしない人たちがいます。砂糖のもつわずかな利点を挙げて、その有害性を否定しようとします。

テレビの健康番組で、ある医科大学の教授が――「砂糖には害はない、子供が甘い物を欲しがるのは体が欲しているからだ」と述べていました。砂糖の有害性を認めようとしない人たちは―「砂糖は最も効率のよいエネルギー源」「脳には砂糖が不可欠」「砂糖も他の穀類もカロリーは同じ、砂糖にない栄養素は他の食品から摂ればいい」といった主張をします。

最近では、「グリセミック・インデックス(GI)」という概念が、広く学者の間で言われるようになりました。これは摂取した炭水化物が、血糖(グルコース)に変わる速度の指標です。「血糖上昇反応指数」とも言われ、指数が高い食品ほど消化・吸収が速く、血糖が急上昇し、インスリンの分泌も促進されることになります。

では問題の“砂糖”のグリセミック指数(GI)はと言えば、人参やバナナよりも低くなっています。

このGIを根拠に砂糖擁護派の学者は――「砂糖は低血糖症の引き金にはならない」「砂糖は健康によい食品である」と主張します。砂糖はブドウ糖と果糖からなる2糖類で、半分は代謝にインスリンを必要としない果糖であるため、負担が少ないと言うのです。まず、これについて考えてみましょう。

GIの検査方法を簡単に言えば、それぞれの炭水化物を50g摂取し、一定の時間ごとに血糖値の変化を測定します。純粋グルコース(ブドウ糖)を100として、それを基準に他の食品のGIを定めます。(※なかには白パンのGIを100として、基準にしている研究者もいます。また検査方法も人によって異なり、同じ食品でもGIにかなりバラつきがあります。)ほとんどの報告では、砂糖に比べ人参のGIは、約10%〜40%高くなっています。

ブドウ糖50gは大さじ3杯に相当しますが、人参から50gの炭水化物を摂取しようとすれば、700gもの人参を食べなくてはなりません。人参の炭水化物含有量はおよそ7%ですから、700gと言えば、人参約4本分に相当します。砂糖を1日に200g(※ブドウ糖は100g)も摂っている子供がいる現状からすれば、一度に大さじ3杯のブドウ糖を摂ることも有り得るでしょうが、人参を4本も一度に摂る人が、一体何人いるでしょうか。

これを考えただけで、人参と砂糖のGIを単純に比較し、「砂糖は健康によい」などと到底言えるものではありません。それに砂糖よりGIが高いのはジュースにした場合であって、調理法や一緒に摂るものによってGIは変わるのです。サラダにしたり加熱すればGIは低下します。タンパク質や脂肪と一緒に摂っても、酢と一緒に摂っても同様です。食物繊維と一緒に摂れば、さらにGIは低下します。つまり食事全体の内容によって、GIは変わってしまうのです。(※バナナのGIは、熟成度によって2倍も開きがあると言われます。)

そのうえ砂糖と違い人参には、ビタミンやミネラル・カロテノイド類など、多くの栄養素が含まれています。もしGIだけを理由に人参を摂らないとするなら、健康に大きなマイナスを引き起こすことになってしまいます。GIだけを根拠に、砂糖と低血糖症のかかわりを否定することは、明らかに矛盾しています。

低血糖症の問題の本質は「砂糖の摂取量」であって、GI(吸収率)ではありません。健全な食事をしている人が、楽しみとして時々、甘い物を摂ることは何の問題もありません。しかし現在では、食事の代わりに甘い菓子パンを食べるような若者がたくさんいるのです。食事全体を崩すほど、大量の砂糖が摂取されていることが問題なのです。

また、「砂糖は脳の栄養源」「ストレス解消には砂糖が不可欠」といった主張もなされます。しかし同時にその学者自身が、「脳の栄養源はブドウ糖である」と言っているのですから、これはまったく科学的根拠のない詭弁としか言いようがありません。砂糖でなくてもブドウ糖を含む食べ物なら、脳の栄養補給はできるのです。それを砂糖だけが、脳の栄養源として優れているかのように決めつけています。

脳の栄養源は“ブドウ糖”であって、砂糖ではありません。脳がブドウ糖を求めているというのはその通りですが、それがいつの間にか「脳は砂糖を求めている」に変わってしまっています。明らかに論理のすり替えです。ブドウ糖は砂糖から摂らなくても、米や豆、芋や果物などに十分含まれています。

砂糖を摂らないと脳の栄養が欠乏して「キレる」とも言っていますが、そんな根拠はどこにもありません。「砂糖こそが、最も効果的な脳の栄養源である」とする短絡的な考えこそ、問題としなければならないのです。仮に砂糖が「脳の健康にはプラス」になるとしても、「身体全体の健康にはマイナス」にしかならないという点を重要視しなければならないのです。

ある学者は、その著書で――「昼食にハム入りのサンドイッチを食べた場合に、同時に砂糖入りのコーヒーを飲み、さらに3時頃おやつとしてケーキや砂糖入りのコーヒー・紅茶を飲むのは、脳の健康からすると理にかなっています」と述べています。またテレビで――「ボケ予防には、砂糖を毎食摂るといい」「朝、目覚めたらまず砂糖をひとなめ、毎食後に砂糖を入れたデザート、3時のおやつには和菓子、寝床につく1時間前には砂糖を入れたミルクを飲む」と勧めていました。

砂糖の過剰摂取は、「欧米型食事」の典型です。そうした食事に偏った結果、現代病が多発していることはすでに述べました。老人性痴呆症の1つであるアルツハイマーと、砂糖の関連も指摘されています。砂糖の有害性、特に青少年の心と体に与える悪影響が明らかになっているときに、砂糖の摂取を勧めるのは、何と罪つくりなことでしょうか。

※砂糖の有害性を否定する人たちが決まって取り上げるのが、1997年にFAO/WHO(国連食糧農業機関/世界保健機関)から発表された――「生活習慣病(成人病)の原因に、蔗糖・その他の糖・デンプンが直接関与することを示す証拠は得られていない」という報告です。(*WHOより入手した報告書の原文による。)砂糖擁護派の人々は、これを権威に「砂糖は何の問題もない」「砂糖は健康によい」といった主張を繰り返しています。

しかし実際に、この報告書で触れているのは「穀類や豆類などすべての炭水化物の摂取と病気の関連」についてであって、“砂糖”だけを取り上げているわけではありません。これを根拠に、WHOが「砂糖は健康に何のマイナスも及ぼさない」「砂糖と成人病は関係がない」と宣言したと言い立てることは、明らかに間違っています。

この報告書には他に、「微量栄養素の含有を損なう過剰な糖類の摂取は避けなければならない」「精製し過ぎない穀類・野菜・豆類・果物は特にすぐれた食品である」といった重要な勧告も述べられているのです。

炭水化物の摂取が、病気の直接的な原因とならないことなど当然です。適量の炭水化物(砂糖も含めて)の摂取は、人間の健康にとって何の支障もありません。問題はどこまでも――「砂糖の大量摂取」「砂糖という精製されて微量栄養素が失われた炭水化物への異常な傾斜」なのです。過剰な砂糖が食事全体のバランスを崩し、その結果、微量栄養素が損なわれ、それによって肥満や生活習慣病が引き起こされていることが重大な問題なのです。砂糖擁護派の人々は、「砂糖の大量摂取」の問題をすり替え、意図的に砂糖の安全性を強調しようとしています。

WHOの報告は、「適量の砂糖は健康に問題はない」という当たり前のことを述べているのであって、異常なほどの「砂糖の過剰摂取」に陥っている現代人の食生活の実情を容認する宣言をしたわけではありません。

★WHOは、2004年5月の総会で、肥満症など慢性疾患を防ぐためのガイドラインとなる砂糖や脂肪・塩などの摂取規制を盛り込んだ「食事と運動と健康に関する世界戦略」を採択しています。

そこではバランスのいい食事と適度な運動、野菜や果物の摂取を増やすことが勧められ、砂糖や脂肪・塩・添加物などの摂取規制を求める内容が取り上げられています。

第6の栄養素「食物繊維」

食物繊維とは

最近になって日本でも、食物繊維(ダイエタリーファイバー)が話題になっています。かつては何の栄養価もない食べ物のカスのように扱われていましたが、栄養学の進歩とともに、その重要性が知られるようになってきました。現在では「食物繊維」は――「食品中にあって、消化の過程で分解されない高分子成分」と定義されています。つまり食物繊維は、小腸までの消化プロセスでは消化・吸収されず、大腸まで達する食品成分のことです。今では新しい栄養素として、その有用性が明らかにされつつあります。

食物繊維は消化・吸収されないために、他の栄養素のように体の構成材料やエネルギー源とはなりませんが、消化管を通過する間に、健康にプラスとなるさまざまな効果をもたらします。(※食物繊維は消化吸収されませんが、実際には大腸で腸内細菌によって分解され、分解物が利用されることでエネルギーを発生します。)

食物繊維は、成人病・生活習慣病の予防に有効であるだけでなく、体のバイオリズムの調節や、免疫力・治癒力を正常化するなど、きわめて重要な生理作用にかかわっています。そのため「食物繊維」は、炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルに次ぐ第6の栄養素として注目を浴びるようになってきました。

食物繊維の種類

食物繊維は大きく、水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」に分けられます。

「不溶性食物繊維」は、主に植物の細胞膜を構成していて、立体的ですきまだらけの構造をしています。胃や腸の中でも水に溶けず、腸内細菌によってもほとんど分解されずに、そのまま排泄されます。不溶性食物繊維は水分を吸収してふくらみ、それが腸壁を刺激して腸の運動を活発にし、自然な便通を促します。不溶性食物繊維には、全粒穀類をはじめ豆類・種子類・ナッツ類・野菜や芋類に含まれる、「セルロース」「ヘミセルロース」「リグニン」などがあります。(※一般に「不溶性食物繊維」という場合には、この3種類を指しますが、ヘミセルロースの中には、わずかですが水に溶けるものがあります。)

「水溶性食物繊維」は、植物の細胞内にある成分でヌルヌルして水に溶け、ゼリー状に固まる(ゲル化する)性質があります。胃や小腸で他の食べ物を包み込んで食物繊維が固まることで、食べ物が消化管を移動するスピードが遅くなり、それが健康にプラスとなります。水溶性食物繊維には、果物や野菜に多く含まれる「ペクチン」や、オーツ麦(カラス麦)や大麦・ライ麦などの胚乳に含まれる「ガム質」、コンニャクや山芋などに含まれる「マンナン」、ワカメやコンブなどに含まれる「アルギン酸」などがあります。(※熟した果物や野菜に含まれる「ペクチン」は“水溶性”ですが、まだ熟していない硬い果物に含まれるものは“不溶性”です。このように果物が柔らかくなるのは、ペクチン質が変化するからです。)

その他に動物性食物繊維として、エビやカニの殻の主成分である「キチン」があります。キチンは不溶性ですが、それを加工してつくられる「キトサン」は水溶性です。また動物の軟骨の主成分である「コンドロイチン硫酸」も、食物繊維の仲間と言えます。これは動物だけでなく、納豆・山芋・オクラなど、ネバネバしたものに少量含まれています。(※このように食物繊維にはいろいろな種類があり、広い意味で“多糖類”――ブドウ糖やガラクトースなど、たくさんの単糖からできている――に属します。)

食物繊維と現代病の関係

食物繊維の摂取が、病気の発生と深い関係があることを示す有名な研究データが、1973年に、英国人医師バーキットによって発表されています。それはアフリカ人とイギリス人の“便”を比較したものです。

その報告によれば、「アフリカ人」の1日の便の量は、イギリス人の4倍にも達し、太く軟らかく、ほとんど臭いがしません。それに比べ「イギリス人」の便は、硬く圧縮されていて細く、何よりもひどい悪臭がするのです。研究によって、アフリカ人は食べた物をほぼ1日で排泄しているのに対し、イギリス人は平均3日もかかっていることが分かりました。

当時、アフリカの田舎に住んでいた人々の食事の特徴は「低脂肪・高食物繊維」で、食物繊維はイギリス人の3倍も摂っていました。バーキットと彼の仲間の医師たちは、食物繊維の摂取と病気との関連を調べ続け、その結果をイギリスの医学雑誌に発表したのです。彼らの論文は、欧米の医学界に大きな衝撃を与えることになりました。

その中でバーキットは、現代の欧米社会に多く見られる―心臓病・胆石・大腸ガン・虫垂炎・痔・肥満・糖尿病・静脈瘤などの病気は、「食物繊維」を大量に摂っているアフリカ人には、ほとんど発生していないことを明らかにしました。(※ところが同じアフリカ人でも、都会に住み、欧米化した食事を摂っている人々の間には、欧米人なみに“現代病”が蔓延していました。)

そうした報告に触発された世界中の医師たちのその後の研究によって、バーキット博士の発表は裏付けられました。大腸内での食物繊維の働きが明らかになり、その重要性が認識されるようになったのです。

現代病を防ぐ食物繊維の働き

食物繊維の研究が進むにつれ、その重要な働きが徐々に明らかになってきました。ここでは、現代人に不足している「食物繊維」の幅広い効用を見ていきます。

(1)カロリーの摂り過ぎを防ぎ、消化器官の働きを助ける

「不溶性食物繊維」の多い食品は、パサパサして硬いため、よく噛まないと飲み込めません。そのため自然にゆっくりと食べるようになり、早食いによる過食が防がれます。食物繊維が、食品の水分や唾液・胃液などと混じり合ってふくれ、長く胃にとどまって満腹感が持続します。

さらによく噛むことで歯ぐきやあごが強くなり、唾液も多く分泌されるようになります。唾液にはアミラーゼ(デンプン分解酵素)が含まれており、消化が助けられます。また唾液には解毒成分も含まれています。唾液の解毒作用はかなり大きく、有害物質の種類によっては、毒性を何十分の一にまで低下させることができると言われます。

(2)ブドウ糖の吸収をゆるやかにし、血糖値の急激な上昇を防ぐ

「水溶性の食物繊維」は、胃の中で水分を吸収してゲル状に固まり(粘度が増し)、血糖のコントロールを助ける働きをします。食物繊維が胃の中で他の食べ物を包み込んで固まると、食べ物が胃から小腸にいくスピードが遅くなり、ブドウ糖などの栄養素がゆっくりと吸収されることになります。それによって食後の急激な血糖値の上昇が抑えられ、低血糖症や糖尿病の予防につながります。

水溶性食物繊維だけでなく「不溶性食物繊維」も、ブドウ糖の吸収をゆるやかにします。たとえば玄米などのように精製度の低い穀類に含まれるデンプンは、食物繊維でしっかりと包まれています。これを消化するには、食物繊維の外皮を少しずつはがし、ブドウ糖を1つ1つ切り分けていかなければなりません。そのためブドウ糖は、ゆっくりとしたペースで吸収されることになります。(※デンプンは炭水化物の1種で、非常にたくさんのブドウ糖からできている多糖類です。)

このように食物繊維は、血糖のコントロールにおいて大切な役目を担っています。(※“低血糖症”については「砂糖」の箇所で詳しく述べています。)

(3)脂肪・胆汁の吸収を抑え、血中コレステロールを減少させる

「水溶性食物繊維」は、コレステロール・脂肪・胆汁などの吸収を抑制し、血中コレステロールを減少させる働きがあります。ゲル化した食物繊維は、腸内で脂肪やコレステロール・胆汁などを包み込み、その吸収を妨げて排泄を進めます。

食物繊維が「胆汁」の排泄を促すことで、体内でのコレステロールの消費が増し、血中コレステロールを減らすことができると言われます。肝臓でコレステロールからつくられる「胆汁(胆汁酸)」は、腸内で脂肪と結びつき、小腸における脂肪の吸収を助けます。その胆汁を食物繊維が吸着し、便として排泄させることで、結果的に血中コレステロールが減少することになります。

(4)便通をスムーズにして、有毒物質の排泄を促進する

「不溶性食物繊維」は、水分を吸収して数倍から数十倍(※20〜30倍)にもふくれるため、腸壁を刺激して腸の蠕動運動を活発にします。水を吸って適度に軟らかでボリュームのある便は、腸内をスムーズに進み、無理なく排泄されることになります。「水溶性食物繊維」も、便通を助けます。食物繊維を材料にして「腸内細菌」が発酵を進め、その発酵物質が腸の蠕動運動を促し、自然な排便をもたらします。

このように食物繊維の働きで便通がよくなり、便が腸内にとどまる時間が短くなり、腸内環境の悪化が防がれます。それによって発ガン物質・有毒物質の生成・吸収が抑えられ、排泄が促進されます。食物繊維には、食品や空気から取り込まれた農薬や重金属・有害化学物質などを吸着して、排泄させる効果もあります。

またスムーズな便通によって力まずに排便できるため、痔や憩室症(※腸内の圧力によって大腸に突起ができ、炎症を起こす病気)などが防がれ、静脈瘤の予防にもつながります。

(5)腸内細菌(有益菌)が働きやすい環境をつくる

「水溶性食物繊維」は、大腸内で腸内細菌の“エサ”になり、細菌が働きやすい環境をつくります。腸内細菌は食物繊維を発酵させ、人体にプラスとなる多くの発酵物質を生成します。食物繊維が材料となって生み出された「発酵物質(酸性物質)」は、腸内のPHを弱酸性に保ち、腸内の腐敗からくる「有害菌」の繁殖を抑えます。そして「有益菌」が生育・活動しやすい環境をつくり出します。

また「不溶性食物繊維」は、ほとんど消化・分解されませんが、腸内細菌が住みやすい環境をつくるのに役立ちます。(※一般に有益菌は「善玉菌」、有害菌は「悪玉菌」と呼ばれています。)

その他にも食物繊維には、さまざまな効用があります。海藻に含まれる「アルギン酸」は、消化管内のナトリウムの排泄を促し、ナトリウムの過剰摂取による害を防ぎます。また肝機能や免疫力を高める作用なども知られています。

キノコ類に含まれる「ベータ・グルカン」は、免疫力をアップし、ガンをはじめとする生活習慣病の予防に役立つと言われます。動物性食物繊維の「キチン・キトサン」も、その幅広い効果が注目されています。

このように「食物繊維」のもたらすメリットは多くありますが、「(4)便通をスムーズにして、有毒物質の排泄を促進する」「(5)腸内細菌(有益菌)が働きやすい環境をつくる」というのが、最も重要な働きです。腸内環境を改善し、腸内細菌のエサになってその働きを助けることが、「食物繊維」の最大の効用と言えます。

※2000年4月の『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に、「大腸ガンと食物繊維の因果関係」についての人間を対象とした臨床研究の結果が発表され、議論を巻き起こしました。それによると、これまで一般的に考えられていた「食物繊維が大腸ガンの発生を防ぐ」という見解が、必ずしも正しいとは言えないというのです。

しかしその研究は、食物繊維の摂取と大腸ガン(※実際には前ガン病変である大腸ポリープ)との間には、直接的な因果関係はないという可能性があることを明らかにしたものにすぎません。現代人が多食する肉と食物繊維を組み合わせて摂取した場合に、食物繊維が大腸ガンを防ぐ効果をもっているか、いないかを明らかにしたものではないのです。

そもそも病気と食事の関連については、どこまでも複数の要因を組み合わせたトータル的な判断が必要とされます。「大腸ガンと食物繊維」という単一の因果関係を調べて効果のあるなしを論じても、本質的な結論を導き出すことはできません。

欧米型食事の特徴の1つは「肉食(高タンパク)・低食物繊維」ですが、おそらくは「高タンパク・低食物繊維」という組み合わせが、大腸ガンの発生に結び付くものと思われます。研究では、大腸ガンと食物繊維との関連についてのみ調査し、その間には因果関係がないということが明らかにされただけなのです。「高タンパク・低食物繊維の組み合わせが、大腸ガンを発生させない」という結論に至ったわけではありません。

先に述べたバーキットの研究も、一般的には「食物繊維と現代病の関係」を明らかにしたものと考えられていますが、実は「アフリカ人の欧米食化と現代病の因果関係」を明確にしたものと言えます。バーキットは「食物繊維」という1つの要素に注目して研究成果を報告していますが、本来は――「高タンパク・高脂肪・低食物繊維という“欧米型食事”と、大腸ガンをはじめとするさまざまな現代病との因果関係を疫学的に明らかにしたもの」と見るべきでしょう。

食物繊維を不足させている現代人

百年前の人々と比べ、現代のアメリカ人の食物繊維の摂取量は、20〜25%にすぎないと言われます。そしてこの傾向は、そのまま現在の日本人にも当てはまります。昭和30年以前の日本人と比べ、食物繊維の摂取量はかなり減少しています。

食物繊維は一部を除いて「植物性食品」に含まれます。そのため、穀類や豆類・野菜・海藻などを多く食べていた従来の日本人は、食物繊維が不足するようなことはありませんでした。しかし食生活が欧米化し、肉や牛乳などの「動物性食品」が大量に摂取されるようになった現代では、食物繊維の摂取量は急激に減ってしまいました。

また日本人の主食であり、貴重な食物繊維源である穀類も、過剰な精製によって繊維と栄養をはぎ取られ、真っ白になってしまいました。欧米型の食事においては、決まって「白いもの、やわらかいもの」が好まれるようになります。こうして、ますます「食物繊維」は欠乏することになりました。

食物繊維を多く摂るような「食生活改善」

最近では自然食ブームによって、白米や白パンの代わりに、玄米や雑穀・小麦全粒粉のパンを食べる人が徐々に増えてきました。また伝統的な日本食のよさを見直す動きも起こっています。

本書の第6章では、食事改善の具体的な方法について述べていますが、そこでは植物性食品と動物性食品の摂取比率を「9:1」にするように勧めています。この指針に従って食事改善をし、植物性食品を多く摂るようにすれば、食物繊維は十分補給できるようになります。

食物繊維は――「穀類・豆・種子・ナッツ」「野菜・芋・キノコ」「海藻」「果物」に多く含まれています。そしてそうした食品には、私たちが健康を保つのに不可欠な栄養素も豊富に含まれています。最近では、植物性食品中のさまざまな生理活性物質についての研究が進み、その素晴らしい働きが注目を集めています。

海藻やキノコ類は食物繊維の宝庫で、かなり高い含有率を示していますが、食物繊維の働きは種類によって異なるため、多種類の食品から摂ることを勧めます。そうすれば他の栄養素もバランスよく含まれた、理想的な「低脂肪」「高食物繊維」の食事ができあがります。

ますます明らかになってきた「腸内細菌の重要性」

最近になって「腸内細菌」に対する認識が広まるようになってきました。腸内細菌には、体によい働きをする「善玉菌」と体に悪い働きをする「悪玉菌」があり、悪玉菌が多いと、大腸ガンをはじめとするさまざまな病気が引き起こされると言われるようになってきました。そして善玉菌の働きを活発にするためのヨーグルトやオリゴ糖などの売上が急激な伸びを示し、巨大な市場になっています。

確かに腸内細菌は私たち人間にとって、とても重要な働きをしています。「腸内細菌の状態が健康を左右する」と言っても過言でないことが、最新の研究で明らかにされています。腸内細菌についての研究の歴史は、それほど長いわけではありません。しかし、その短い期間に急速に進展しています。特にここ数年の間に、数多くの重大な研究成果が報告されています。従来からの細菌培養法に新たに「分子生物学的手法」が導入され、研究は一気に進み、腸内細菌の全容が解明されるようになりました。今や腸内細菌についての研究は、現代科学の最先端に立っています。

ここでは、その最新の情報について述べていきます。

最も身近なエコロジー的共存関係

人間の腸の中には、およそ500種類以上、100兆個以上もの細菌が住んでいます。100兆個といえば、私たちの身体を形成する細胞の数よりも多く、その細菌を集めれば肝臓と同じくらいの重さになると言われます。腸内細菌の多くは、小腸の終わりから大腸全体にわたって住みつき、私たちの健康状態を決定する重要な働きをしています。

腸内細菌の住処である大腸は、かつては最後の消化器官で、水分を吸収して便をつくるところ、老廃物の蓄積場所といった程度の認識しかなされていませんでした。しかし腸内細菌の働きの重要性が明らかになるにつれ、大腸に対する見方も根本的に変わることになりました。

最近では“エコロジー”が人々の関心を集め、私たちを取り巻く環境の悪化や自然崩壊が、人類に多くの悪影響を与えていることが知られるようになってきました。ところが考えてみれば、私たちにとって最も身近で最大のエコロジー的世界とは、腸内細菌の世界であると言えます。人間と腸内細菌は、持ちつ持たれつの関係の中で共存しているのです。

「100兆個以上もの生き物が住みついて生命活動を行い、私たちの健康に重大な影響を及ぼしている」「人間は腸内細菌からさまざまな恩恵を受けて生命を保ち、腸内細菌は人間によって活動する場所を与えられ存在している」という事実は、人間の体に備わっている免疫システムの働きを考えると、とても神秘的で不思議なことなのです。

人間の免疫システムは、外部から侵入してくる細菌を強力に排除して、生命に危害が及ばないようにしています。免疫システムは、人間を病気に至らせる多くの病原菌や有害物を排除して人体を守ろうとします。腸内細菌は免疫の対象となる病原菌と同じように“細菌”なのですが、腸内細菌は免疫システムによって排除されません。この不思議な事実は――「腸内細菌が人体にとって有益な働きをするために、免疫システムが味方として認め、存在するのを許している」ということを意味しています。

腸内細菌がいなければ、私たち人間は細菌の海の中で生きていくことはできません。細菌は必要性があって腸内に住みつき、それによって私たちは自然界の中で生活することができるようになっているのです。

善玉菌と悪玉菌

腸内細菌は、私たちが食べたものをエサにして生命を維持し、さまざまな物質をつくっています。そうした細菌の中には、人間に有益な働きをする「有益菌」もいれば、逆に有害な働きをする「有害菌」もいます。これが一般に言われている「善玉菌」「悪玉菌」です。その他に「日和見菌」と呼ばれる腸内細菌がいます。日和見菌とは、腸内の状態によって有害な働きをしたり、無害であったり、有益な働きをする菌のことです。腸内細菌は大きくこの3種類に分けられます。有益菌が多ければ健康が保たれ、有害菌が増えると病気にかかりやすくなります。

有益菌は食物繊維やデンプンをエサにして活動し、腸内で「発酵」を進め、人体にさまざまなプラスの影響をもたらします。有益菌の代表的なものは「ビフィズス菌」です。ビフィズス菌は「乳酸菌」の1種で、発酵により乳酸などの「有機酸」を生成し、腸内の酸性度を高めて有害菌の繁殖を抑えます。有益菌が活発に活動していれば消化・吸収が促され、免疫力は高まり、健康を保つことができます。(※乳酸菌は乳酸発酵に関与する細菌の総称で、現在までに約350種類が確認されています。ビフィズス菌はそのうちの1種で、現在までに約35種類が確認されています。ビフィズス菌は人間の腸内に住みつくことのできる細菌で、腸内細菌の中で最も重要な役割を担っています。)

有害菌はタンパク質を好み、腸内で「腐敗」を起こし、健康にマイナスをもたらします。有害菌の代表的なものは「ウエルシュ菌」です。その他にも「大腸菌」や「ブドウ球菌」などが知られています。有害菌はタンパク質や脂肪を分解して「有害物質・発ガン物質」を生成し、腸内環境を悪化させます。それによって老化が早まり、病気にかかりやすくなるのです。(※悪玉菌として名高い「ウエルシュ菌」は、腸内に常在する有害菌「クロストリジウム」の1種です。)

このように聞くと大半の人々は、何とか憎い悪玉菌を体内から追い出して、善玉菌だけにしたいと思うかもしれません。そして善玉菌を増やすために、ヨーグルトをせっせと食べるかもしれません。こうした考えが世の中に常識として定着し、安易なヨーグルトブームを生み出すことになっています。しかし、その考え方は間違っています。

腸内細菌のバランス

一般的に腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」に区別され、悪玉菌はもっぱら不用な厄介者のように思われていますが、そうではありません。もし悪玉菌と呼ばれている菌が本当に人体に害をもたらすだけのものであるなら、免疫システムの働きによって、とっくに排除されているはずです。一生懸命にヨーグルトを食べて腸内から追い出そうとしなくても、とっくにいなくなっていることでしょう。ここに大きな生命活動の神秘があるのです。

免疫がいわゆる「悪玉菌」を排除しないでいるということは、実は悪玉菌は人体にとって必要な存在であるからです。人体に有益な働きをするために、あえて生かしているのです。これからは従来のように腸内細菌を善玉・悪玉に分けるのではなく、ともに必要なものとして、ひとまとめに考えなければなりません。100兆個もの細菌を、単純に善玉・悪玉と区別することはできません。どの細菌も必要性があって存在していると、とらえるベきなのです。

最新の研究は、まさにそうしたことをも明らかにしつつあります。例えば普通“汚くて恐い”と思われている「大腸菌」であっても、状況によっては他の病原菌からの感染を防いでくれます。その反対に、有益菌の代表である「ビフィズス菌」が、発ガン物質をつくり出すこともあるのです。「同じ細菌が環境によって、プラスにもマイナスにもなる働きをしている」ということです。環境によって有害・無害が左右される以上、単に1種類の細菌だけを取り上げて善玉・悪玉と論じることは間違いなのです。

ここでもう1つ重要な点は、「有益菌と有害菌と日和見菌は、先天的に一定のバランス比率をもって体内に存在している」ということです。私たち1人1人の顔つきや指紋が異なるように、人によって腸内細菌の状態は違っており、その基本的なバランスは生まれつき決定していると言われるようになってきました。“生まれつき”が遺伝的なものなのか、あるいは出生時における母親からの細菌情報の伝達なのか、研究者の間で意見が分かれていますが、1人1人にふさわしい腸内細菌の個性的比率は、おおよそ決まっているのではないかと考えられています。そうした基本的なバランスのうえに食事やストレスなどの後天的な要因が影響を及ぼし、現実の腸内細菌の状態が決定しているということなのです。

もともとその人間に合った腸内細菌のバランスが保たれていればよいのですが、それが後天的な要因によって崩れると、さまざまな問題が生じるようになります。バランスがとれていたときには何の問題も起こさなかった「有害菌」や「日和見菌」が、悪い働きをするようになるのです。

腸内細菌のアンバランスを正すには

腸内環境はいろいろな原因で変化しますが、なかでも食生活は大きな影響を及ぼします。欧米型の食事に偏り、肉や脂肪・砂糖などを大量に摂取すると、間違いなく腸内環境は悪化します。食物繊維が不足した「不健全な食事」では、腸内細菌のよい働きを引き出すことはできません。高タンパク・高脂肪・低食物繊維の欧米型食事は、腸内環境にとって最大の敵と言えます。

また「ストレス」や「過労」も腸内環境に深刻な影響を与えます。「運動不足」も問題です。さらには「抗生物質」などの化学薬剤も、腸内細菌に決定的なダメージを与えます。抗生物質は病原菌をやっつけるだけでなく、よい腸内細菌まで殺し、腸内フローラを悪化させます。家畜に投与された抗生物質が肉を摂ることで体内に取り入れられ、有益菌を弱らせるようなこともあります。

こうした食事やライフスタイルの間違いが、腸内細菌のバランスを崩し、人体にマイナスの働きを引き出すことになってしまいます。人間と共存・共生している細菌のトータル的な働きを、よい方向に向けられるかどうかは、人間サイドの姿勢によって決まるのです。

特に食事のよし悪しは、腸の健康にとって決定的ともいえる重要性をもっています。高タンパク・高脂肪の肉や牛乳などを減らし、野菜料理に漬物や納豆などの発酵食品を加えた伝統的な日本食にすれば、“腸内フローラ”の崩れたバランスは回復し、健康を取り戻すことができるようになります。「食物繊維」の豊富な食事によって、腸内細菌をよい状態に維持することができるのです。欧米型の食事をやめて、野菜や発酵食品を中心とした伝統的な日本食にすることが、腸内細菌をよい状態に保つ強力な方法となります。腸の健康のためには、真っ先に「食事改善」に取り組まなければなりません。

最近では、ヨーグルトを食べて腸内細菌の状態をよくしようという「プロバイオティクス」の動きが活発になってきました。またオリゴ糖などの「善玉菌のエサ(プレバイオティクス)」を取り入れて腸内細菌の働きを活発化させることも行われています。こうした試みは、人によっては腸内環境の改善に有効ですが、次の点をしっかりと押さえておかなければなりません。それはプロバイオティクスは、食事改善を実行してこそ効果を発揮することができるということです。

言い換えれば――「食物繊維や発酵食品が豊富な日本食を常食すれば、あえてヨーグルトやオリゴ糖などを摂らなくても理想的な腸内環境を維持できる」ということです。ヨーグルトによってプロバイオティクスの効果を期待する場合には通常、毎日200g以上の摂取が勧められます。しかし食事改善さえしっかりしていれば、そうした不自然なヨーグルト摂取は必要ありません。ヨーグルトによるプロバイオティクスは、食事改善を徹底しても、なお腸内環境が整えられないときの一手段として考えるべきでしょう。

※「プロバイオティクス」とは、人体に有益な働きをする生きた微生物のことです。「プレバイオティクス」とは、有益菌を増殖・活発化させることで健康にプラスをもたらす食品群のことです。発酵食品の納豆や漬物などは、優れた「プロバイオティクス」であり「プレバイオティクス」と言えます。

ヨーグルトによるプロバイオティクスの摂取については、脂肪の多さが問題となります。低脂肪のヨーグルトや、脂肪を抜いた自家製のヨーグルトが勧められます。豆乳からつくるヨーグルトなら、なおよいでしょう。最近では、「植物性乳酸菌」を用いて乳酸発酵させた野菜飲料なども出回るようになっています。

“便”の状態による健康チェック

腸内細菌の状態がどのようになっているかは、排泄される“便”によって簡単に知ることができます。腸内細菌のバランスがとれ、有益菌が支配する「酸性」の腸でつくられた便は――黄色っぽい茶色で、軟らかくて量があり、ほとんど臭いません。前日の食べ物が、翌日にはスッキリと排泄されています。こうした快便が得られているなら、腸内細菌のバランスは整っています。細菌が全体として、その人の健康に貢献していることが分かります。普通、健康な人の便の量は1日にバナナ2〜3本くらいで、水に浮きます。

反対に有害菌が繁殖する「アルカリ性」の腸でつくられた便は――黒っぽい茶色で、硬くて量が少なく、強い悪臭がします。こうした便は腸内細菌のバランスが崩れ、細菌の悪い働きが出ていることを示しています。腐敗が進んでいる腸内に長くとどまっていたことが分かります。(※ウサギの糞のようなコロコロ便や、太くても硬い便は、2〜3日前の食べ物が排泄されている可能性があります。また下痢便も腸内環境の悪化を示しています。)

健康な人の便は、約80%が水分です。そして固形分の3分の1〜半分を腸内細菌が占めています。残りは食べ物のカスと腸壁からはがれ落ちた粘膜などです。1gの便の中には、約1兆個の細菌がいると言われています。便の半分ほどが腸内細菌であるというのは驚きですが、それだけに“便”を観察すれば、腸内細菌の状態がよく分かるのです。

腸内環境が整っていなければ、健康を維持することはできません。病気を克服することもできません。私達の健康は――「腸の健康から始まる」のです。どれほど素晴らしい栄養価のある食品を摂っても、腸が健康でないかぎり、すべてが無駄になってしまうのです。

便は、毎日とどけられる健康のバロメーターです。“便”の状態をよく観察し、健康状態をチェックすることを習慣化したいものです。

※最も理想的な便は、生後数日から離乳期までの赤ちゃんの便です。黄色くて酸っぱいような匂いがしますが、それは、この時期の赤ちゃんの腸内は、90%以上「ビフィズス菌」によって占められているからです。ビフィズス菌のつくる発酵物質によって腸内は強い酸性に保たれ、病原菌が繁殖できないようになっています。

健康を大きく左右する「乳酸菌」の働き

ビフィズス菌をはじめとする乳酸菌は、食物繊維やデンプンを分解・発酵させて、さまざまな発酵物質を生成します。大腸はちょうど発酵槽のようなもので、その中でビフィズス菌・乳酸菌は、人体に有益な多くの発酵物質をつくり出しています。乳酸・酢酸・酪酸・プロピオン酸などの「有機酸」です。そうした細菌が生み出した発酵物質は、腸内環境を正常に保ち、さまざまな生理作用を活性化します。そして免疫力・抵抗力を高めて病気を防ぎます。また菌体成分そのものの有効性も報告されています。

ここでは、最新の研究によって明らかにされつつある「乳酸菌」の働きを挙げておきます。

(1)腸内環境を整えて便通を正常化し、有害菌の繁殖を防ぐ

ビフィズス菌・乳酸菌がつくり出す有機酸は、腸内を弱酸性に保ち、有害菌の活動・繁殖を抑えます。それによって有害菌が産生する腐敗産物(アンモニア・アミン・硫化水素・インドール・フェノールなどの毒素)の生成が防がれ、便やオナラの悪臭がなくなります。病原菌の侵入も阻止され、たとえ病原菌が腸内に入っても働くことができず、感染が防がれます。(※病原菌は普通“酸”に弱いのです。)

また有機酸の刺激によって腸の働きが活発になり、自然な便通が得られます。便秘や下痢が解消されて栄養の吸収がよくなり、有毒物質・発ガン物質の排泄が促進されます。

(2)免疫力を高める

ビフィズス菌・乳酸菌の菌体成分や菌がつくり出す多くの物質には、免疫力を強くする働きがあると言われます。また有機酸の一部が腸粘膜の栄養・エネルギー源となり、免疫の最前線である「腸管免疫」を活性化させ、それによって身体全体の免疫系も刺激されます。

免疫力のアップについては、ビフィズス菌・乳酸菌のトータル的な働きによるものと考えられます。免疫力が高まれば、ガンやアレルギー・感染症など、さまざまな病気にかかりにくくなります。

(3)ガンを予防する

ビフィズス菌・乳酸菌が優勢なら、有害菌の増殖が抑えられ、有害菌がつくり出す有毒物質・発ガン物質が減少して、発ガンのリスクが低減します。有機酸の活性作用によって免疫の働きが高まり、ガンの発生・進行が抑制されます。

(4)アレルギー反応を抑制する

ビフィズス菌・乳酸菌の働きとアレルギーには、密接な関係があります。(※それについては、次で述べています。)

(5)ビタミンやアミノ酸を合成したり、エネルギーをつくり出す

ビフィズス菌・乳酸菌は、ビタミンやアミノ酸などを合成しています。「ビタミン」については、B群のかなりの種類・ビタミンKなどがつくられます。またビフィズス菌・乳酸菌は、消化酵素やはがれ落ちた腸壁細胞のタンパク質をリサイクルして「アミノ酸」を合成しています。腸内細菌によってつくられる栄養素の量がどのくらいかは明らかではありませんが、体内でつくられた栄養素は吸収されやすいという利点があります。栄養素だけでなく「酵素」も腸内細菌によってつくられます。

さらに有機酸やその他の栄養素の一部が腸から吸収され、「エネルギー」になっています。人間の総エネルギー獲得量の10%は、腸内細菌の働きによって得られるとする説もあるほどです。

(6)ミネラルの吸収を促進させる

カルシウムやマグネシウム・亜鉛などのミネラルは、吸収されにくい性質がありますが、有機酸によって腸内の酸性度が増すと吸収率が高まります。特にカルシウムは乳酸と結合して乳酸カルシウムとなり、吸収率がアップします。ミネラルの吸収は、小腸の終わりから大腸にかけて促進されると言われています。

他にビフィズス菌・乳酸菌の働きとしては――「コレステロールの吸収・合成を抑える」「過酸化脂質を分解する」「血圧を低下させる」などが挙げられます。老人性痴呆症や動脈硬化との関連も指摘されています。

このように私たちの腸内には、100兆個にも及ぶ生命体が存在し、健康を大きく左右する驚異的な働きをしているのです。

アレルギーと腸内細菌の関係

現代人の半数近くがもっているアレルギーは、“免疫異常”によって引き起こされる病気ですが、最近では腸内細菌が、免疫の働きに重大な影響を及ぼしていることが分かってきました。

食べた物が完全に消化されて体内に取り入れられるなら、「食物アレルギー」は生じません。しかし、たとえ未消化の食べ物が入ったとしても、腸に備わった「腸管免疫」が健全に働くなら、アレルギー反応が引き起こされるようなことはありません。腸管免疫は、消化のプロセスで残されたアレルゲンを不活性化させ、アレルギー反応を起こさせないようにするのです。食物アレルギーが生じるのは――「腸管免疫システムが上手に働いていない」ということです。

腸内細菌は、この腸管免疫と大きなかかわりをもっています。有益菌が優勢の腸内では、アレルギーの発症が抑えられることが分かってきました。腸内細菌がアンバランスな人は、腸管免疫の働きが弱くなり、食物アレルギーが起きることになるのです。実際にアトピーやアレルギーで苦しんでいる人たちの大半に、ほぼ例外なく腸内細菌のアンバランスが見られます。いつも頑固な便秘に悩まされていたり、ひんぱんに腹痛や下痢を起こしたり、あるいは臭いオナラが止まらないといった「腸内環境の悪化」を示す症状が出ています。

すでに述べましたが、有益菌がつくり出す物質や菌体成分が腸管免疫を通じて全身の免疫システムを刺激し、アレルギー反応を抑制します。また腸粘膜の免疫細胞でつくられ、粘膜を保護する働きをもつ「IgA抗体」は、アレルゲン物質の侵入を防ぎ、有害菌や病原菌・ウイルスの毒素を中和する作用がありますが、有益菌の働きによって腸管免疫システムが活性化されることで産生が促進されると言われています。

さらに有益菌は、細胞増殖促進物質である「ポリアミン」をつくり出します。これが小腸および大腸の粘膜細胞を強化します。腸のバリアーが強くなれば、アレルゲン物質の通過を防ぐことができるようになります。食物アレルギーは「バリアー機能の低下」によって引き起こされますが、腸内細菌のバランスが整えば、アレルギーを抑えることができるようになります。

このように腸内フローラのよし悪しは、免疫の働きと密接に関係しています。現在、増え続けているアトピーやアレルギーは、「腸内環境の悪化・腸内細菌のアンバランス」がストレートに反映していると思われます。

★胃と大腸に挟まれ消化器官の中で最も奥にある「小腸」は、内視鏡が届かなかったために、これまでその働きがよく分かっていませんでした。しかし、ここ1〜2年の間に内視鏡の技術が飛躍的に向上し、小腸の内部を見ることができるようになってきました。

その結果、小腸は単に消化吸収を行う臓器ではなく、“第2の脳”と呼ばれるほど優れた判断能力をもつ免疫の司令塔であることが明らかになりつつあります。小腸には“パイエル板”という外敵(病原菌やウイルスなどの有害物質)をチェックする監視カメラのようなものがあり、リンパ球とのチームプレーでその侵入を防いでいます。(※小腸には免疫を担うリンパ球の6割が集まっています。また外敵の情報は小腸だけでなく全身のリンパ球にも伝わり、体内への侵入がブロックされます。)

こうした小腸の驚異的な免疫システムが正常に働くためには、腸内環境が良好でなければなりません。「腸内細菌」は大腸だけでなく小腸にも数多く存在し、免疫の働きに重大な影響を与えているのです。

※最新の栄養学理論は膨大な分量ですので、「酵素に関する理論」「植物栄養素」「活性酸素の害と抗酸化栄養素」「環境汚染物質と解毒栄養素」「病原菌のコントロールと細菌感染への対応」についてはここでは省略します。詳しくは当研究所発行の書籍『ホリスティック健康学・ホリスティック栄養学入門』をご覧ください。


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