第九回目の会

 開催日時:2007年5月26日(土)12:00〜15:00 

 場 所:代官山「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」

 参加人数:22名

 テーマ:ブルゴーニュ研究(Study of Bourgogne)

 内容 ワイン:ブルゴーニュ
       
■白(アリゴテ)「ドメーヌ・ド・ヴィレーヌ ブルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロン2004年」
       
■白(シャルドネ)「アラン・グラ サン・ロマン2003年」
       
■赤(ガメィ)「ムーラン・ナ・ヴァン・キュヴェ・エクセプショネル1996年」
       
■赤(ピノ・ノワール)「ニコラ・ポテル サヴィニ・レ・ボーヌ2003年」
        ■赤(ピノ・ノワール)「ブルーノ・クレール・マルサネ2002年」

   食 事:・長野産グリーンアスパラガスの冷製 クルヴェットグリーズのジュレ添え
       ・イサキのソテー バスク豚のソース
       ・豚ヒレ肉のロティ ・イチゴのリゾット

 Via Vino第9回を開催しました。今回は本会の一周年ということで、久しぶりにフランス、ブルゴーニュをテーマとしました。
 今回は22名の方々に参加いただき、会場のお店を貸切っての開催となりました。また宇都宮氏からは特別にマルサネ(赤)を差し入れていただき、華やかな会となりました。
 それでは宇都宮氏の解説をご一読ください。
第9回目のワインについて
目  次
はじめに ブルゴーニュの四つの
ブドウ品種について
白ワインのテイスティング
ブルゴーニュの歴史 赤ワインのテイスティング ビンテージについて
  おわりに  
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はじめに

 フランスで王のワインと称されるブルゴーニュは、シャブリ、コート・ドール、コート・シャロネーズ、マコネ、ボージョレの五つの地区の総称です。歴史的に見れば、14〜15世紀に最盛期を迎えた、フランス王国とは独立したブルゴーニュ公国の領地に属し、この公国の領土はロレーヌ、オランダ、ベルギーにまで広がっていました。
 特にその中心となるコート・ドールは、「黄金の丘陵」を意味し、さらに北半分のコート・ド・ニュイと、南半分のコート・ド・ボーヌに分けられます。前者は世界最高峰の赤ワインを造り出しており、後者はより柔らかいスタイルの赤ワインと、世界最高峰の白ワインで知られています。さらにその南には、丘陵地帯にブドウ畑が点在するシャロネーズとマコネがあり、ボージョレ・ヌーヴォー(新酒)で有名なボージョレがあります。

 基本的に単一品種からワインが造られるブルゴーニュでは、その多様性は「テロワール」によって生じると考えられています。「テロワール」とは、気候・地勢・地質・土壌等が複合的に関与した自然条件の総体を示すフランス語で、同じ意味を持つ英語や日本語はありません。これは1980年代以降、アメリカを中心とする品種主義の台頭に対する対立概念として注目されるようになりました。品種の違いが全てで、土壌の違いなど問題ではないとする品種主義に対し、フランスワインの優位性を明確にするために、土壌の違いとその個性、すなわちテロワールをいかにワインに反映させるかが重要であるとされたのです。
 ワインを通して、「テロワール」をいかに表現するかが、ブルゴーニュワイン生産者の一つの使命となっています。しかし同銘柄のワインを複数の生産者が手掛けているため、現実的には、全く同じ畑のブドウから、スタイルの全く異なるワインが造られています。畑ごとの風味の違いよりも、発酵の方法、濾過の有無、樽の種類や熟成期間の差によって生じる違いの方が大きいためで、結果として畑の格付けだけでなく、生産者の力量を見極めることも必要となってきます。もちろん、有名な生産者の格下ワインの方が、無名の生産者の特級よりも美味しいかと断言できるかというとそうでもないので、簡単ではありません。
 生産者の中にも、栽培から製造・瓶詰めまでを行う「ドメーヌ」と、原料を買い取って製造・瓶詰めを行う「ネゴシアン」があり、一般的に前者の方が個性的、後者の方が大規模で安定的とされていますが、ルロワのように両者を兼ねる生産者もあり、実際にはかなり複雑で一概に決め付けることはできません。
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「ル・ジュー・ドゥ・
ラシエット」の内外装
ブルゴーニュの四つのブドウ品種について

 ボルドーでは基本的に品種はブレンドされますが、ブルゴーニュでは単一品種でワインが造られます。通常、北の冷涼な地域になるほどワインは単一品種で造られるようになりますが、生育可能な品種が限られてくるからというだけではなく、果実が熟するのに時間がかかり、その分より複雑なアロマが造られるようになるため、逆に品種本来の個性がより発揮できることも理由の一つと考えられます。実際、より冷涼な地域のワインほどアロマティックになる傾向があるようです。
 今回はブルゴーニュを代表する二大品種、白のシャルドネと赤のピノ・ノワールで造られたワインと、より品質が劣るとされてきた白のアリゴテ、赤のガメィで造られたワインを比較して、その味の違いを確認してみようと思います。アリゴテもガメィも、品質より収量重視で選択された品種ではありますが、素晴らしい生産者の手にかかると独特の個性を発揮して、シャルドネやビノ・ノワールとは一味違ったワインに仕上がります。

 ブルゴーニュを代表する白品種であるシャルドネは、スペインのアイレンに次いで世界第2位の栽培面積を誇る品種です。冷涼なシャンパーニュ地方から、温暖なオーストラリアまで、幅広い気候に適応し、そのスタイルもシャープな柑橘系から、ボリュームのあるトロピカルフルーツ系まで様々に変化します。オーク樽との相性も良く、熟成型の白ワインも造り出す事ができます。
 アリゴテはブルゴーニュ原産の白葡萄で、18世紀の終わりにその記録が残されています。シャルドネよりも醸造しやすい品種ですが、フレーバーが長続きせず通常オーク樽での熟成には向いていないとされます。高い酸を持つため、ブルガリアやルーマニアでは人気があり、本家フランスを遥かに凌ぐ栽培面積となっています。
 ピノ・ノワールは、既に4世紀の頃からブルゴーニュ地方で栽培され、ベリー系の香りときれいな酸を持ち、各種の銘醸ワインの単一原料となっています。冷涼な気候と石灰質土壌を好み、病気に弱いため栽培と醸造の両方において非常に気を使う必要のある品種です。
 ガメィはボージョレの品種として知られますが、早く発芽し開花・成熟し、簡単に過剰な実を付けるのが特徴で、花崗岩質土壌を好み、その生産量の半分がボージョレに集中しています。淡い色と高い酸、もぎたての果実のアロマが特徴です。
 近年、DNA解析が進み、これらの品種の類縁関係が明らかになりつつあります。それにより、シャルドネもアリゴテも、そしてガメィも全て、ピノ・ノワールとグエ・ブランとの自然交配によって生まれた品種であることが判明しました。グエ・ブランはワイン用品種としては殆ど無名に近い存在であり、研究者達はこの関係を「王子が村娘に恋をした」と評しているそうです。
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ソムリエの中村さんと
今回楽しんだワイン
白ワインのテイスティング

 まず白ワインのテイスティングです。アリゴテで造られた「ドメーヌ・ド・ヴィレーヌ ブルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロン2004年」と、シャルドネで造られた「アラン・グラ サン・ロマン2003年」です。

 ドメーヌ・ド・ヴィレーヌのフルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロンは、かのロマネ・コンティの共同所有者の一人であるオベール・ト・ヴィレーヌ氏が、シャロネーズ地区の最北端ブーズロンで造るアリゴテのみを使用したワイン。シトー派修道院による1000年の歴史を持つブーズロンのアリゴテは、上部のやせた土壌の斜面に植えられていますが、その斜面でアリゴテは、独特の個性を発揮するとされています。樹齢の平均は約35年、一番古いもので樹齢55年になります。1986年以降、有機農法による栽培に切り替え、温度コントロールされたタンクでクリーンな果実風味を十二分に引き出す発酵を行っています。ブーズロンのアリゴテは他の地域のアリゴテとは違い、アリゴテ・ド・レ(黄金のアリゴテ)と呼ばれています。淡い黄色の色調で、青リンゴのようなほのかな香りと、すがすがしい酸味、まろやかな口当たりが印象的です。独特の酸がアリゴテの特徴とされていますが、ヴィレーヌのアリゴテはそのバランスの良さが別格で、昨年渋谷のシェ・松尾で行われたDRCの試飲会でも、最高峰とされるモンラッシェよりも好評でした。
 ムルソーの丘を一つ越えた標高400mの高地斜面に広がる冷涼なサン・ロマン村は、キリッと引き締まったシャルドネが育つことで知られています。特に、アラン・グラはサン・ロマン最高の生産者として高く評価されており、繊細な酸とミネラル感の高い上品な白ワインを造ることで知られています。輝きのある黄色、柑橘系の香りと、ミネラル分を感じさせる上品なシャルドネです。樽香もしっかりしていて、ボディのある白ワインとなっていました。
 合わせた料理はグリーンアスパラガスの冷製とイサキのソテー。個人的には、樽香のないアリゴテとグリーンアスパラ、若干の樽香があるシャルドネとバスク豚エキスを使用したクリーミーなソースの添えられたイサキが、それぞれ相性が良かったように思われます。
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アラン・グラ サン・ロマン2003年 ドメーヌ・ド・ヴィレーヌ ブルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロン2004年
ブルゴーニュの歴史

 4世紀頃 ブルゴーニュにてピノ・ノワールの栽培始まる 
 587年 クローヴィスの孫に当たるグントラムが、ディジョンのサン・ベニグヌス
      修道院に畑を寄進
 630年 ブルゴーニュ公国の君主、ジヴレイ・シャンベルタンやヴォーヌ・ロマネ、
      ボーヌの畑をべーズ修道院に寄進
1232年 ブルゴーニュ大公女、ロマネ・コンティやラ・ターシュにあたる畑をサン・
      ヴィヴァン修道院に下賜
1349年 ブルゴーニュでペスト流行 この時期、ガメィ種導入される
1364年 ヴァロア系ブルゴーニュ候家成立
1395年 ブルゴーニュ公フィリップ、ガメィ栽培の禁止
1418年 ブルゴーニュ軍、パリを制圧
1435年 アラスの和議〜シャルル7世とブルゴーニュ候フィリップ和解

1441年 再びガメィ禁止の宣言
1477年 ブルゴーニュ公敗死、フランス王ブルゴーニュを併合
      ハプスブルク家マクシミリアン、ネーデルランドを相続
1482年 ブルゴーニュ公家断絶
1486年 マクシミリアン、神聖ローマ皇帝となる
1789年 フランス革命 教会と貴族の土地没収
1791年 クロ・ド・ヴージョ、国有財産として競売にかけられる
1804年 ナポレオン法典の成立、長子単独相続廃止 
      土地の細分化が進み、ガメィとアリゴテの植え付けが増える
19世紀後半 ルイ・ラトゥール、シャルルマーニュ畑をシャルドネに改植
1948年 コルトン・シャルルマーニュでのアリゴテの使用禁止
 フランス革命以前、ブルゴーニュのブドウ畑は全て貴族と教会の財産でした。特に教会の役割は大きく、修道士達はブドウの選別による単一品種での醸造と、土壌の特性に基づく土地の区分けを、6世紀以降1200年間に渡って守り、高い品質を維持し続けました。優れたブドウ畑を持つことは、真に貴族たる者のあかしでもあったのです。
 しかし1349年にブルゴーニュでペストの流行が始まると、僧侶も労働者も次々と病に倒れ、ブドウ畑は打ち捨てられました。この時期に、開花が早く伝染病に強いガメィが、ピノ・ノワールを凌ぐ勢いを見せることになります。当時のワインは大切な栄養源でもあったので、ピノ・ノワールの3倍の収量が得られるガメィに、皆が飛びつきました。
 1395年、ガメィの粗野な味を嫌ったブルゴーニュ公フィリップは、この品種の根絶を命じますが、安価なガメィで財をなしていたワイン商はこれに従おうとはしませんでした。1700年代に入り、農民や労働者階級までが日常的にワインを飲むようになると、ガメィの生産量はますます増加しました。現在、ブルゴーニュ全域の生産量の半分は、ガメィを主体とするボージョレが占めています。
 フランス革命による貴族と聖職者の資産没収、そしてそれに続くナポレオン法典の長子単独相続禁止による土地の細分化は、それまでのブルゴーニュの景観を一変させ、おびただしい数の所有者の手に分割されることになります。ガメィとアリゴテの植え付けが増したのも、畑の名声故に味を犠牲にして収入を増やそうとした者達が増えたことと無関係ではありません。
 もっとも現在では、ガメィもアリゴテも、適切な土壌と気候のもとでは素晴らしい味わいを発揮することが知られています。ブルゴーニュの保水性の高い粘土質土壌においては、樹勢の強いガメィは収量が増えすぎて高品質にはなりませんが、ボージョレの保水性の低い砂質土壌においては、樹勢は自然と抑制され、ワインの凝縮度は高まります。
 土地の持つ特性、テロワールを第一のものとして訴える一方で、同じ畑の物であるにも関わらず、生産者ごとに品質の全く違うワインが造られてしまうという矛盾が、ブルゴーニュワインを一層分かりにくいものにしています。優れた土地と、良質なブドウ、そして腕の良い造り手のどれが一つ欠けてもワインはその真価を発揮しませんが、それが最も極端な形で現れるのがブルゴーニュワインなのです。
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グリーンアスパラの冷製
クルヴェットグリーズのジュレ添え
イサキのソテー
バスク豚のソース
赤ワインのテイスティング

 次に赤ワインをテイスティングしました。ガメィ種から造られるクリュ・ボージョレの「ムーラン・ナ・ヴァン・キュヴェ・エクセプショネル1996年」と、ピノ・ノワールから造られるコート・ド・ボーヌの「ニコラ・ポテル サヴィニ・レ・ボーヌ2003年」、そしてコート・ド・ニュイの「ブルーノ・クレール マルサネ2002年」です。

 シャトー・ド・ムーラン・ナ・ヴァンは、1910年に設立された歴史あるワイナリーです。ムーラン・ナ・ヴァンとは「風車」の意味で、丘の頂上に風車が立っているところからそう名付けられ、クリュ・ボージョレとしては一番古い歴史を持っています。一般的にクリュ・ボージョレは豊富なミネラル分を含む花崗岩が風化してできた砂質土壌のために、より複雑な味わいとなるとされていますが、ムーラン・ナ・ヴァンはボージョレの中でも特別な土壌で、マグネシウムを多く含むことから、長い熟成力としっかりとした骨格を持ったワインを生み出します。キュヴェ・エクセプショネルは、同社の最良の区画で、農薬を出来るだけ使用しないリュット・レゾネ(環境保全農法)で栽培される樹齢の古いガメィ種のみを使用した上級品です。丁寧に手摘みされ、除梗はせずに房ごと醸造、その後約6ヶ月の樽熟成を行います。ヌーヴォー(新酒)で有名なボージョレですが、今回は1996年という、非常に珍しい10年という長期熟成を経たガメィ種を味わって頂きました。やや熟成により縁にレンガ味を帯びたガーネット色で、果物やプルーン、牡丹を思わせる香りに、熟成したピノ・ノワールにも見られる動物的な香りも加わり、フルーティでなめらかな味わいでした。
 ニコラ・ポテルは、1998年ヴオルネーの名門プス・ドールの醸造長だった父ジェラールの死去と同時にブス・ドールを去り、ネゴシアン業に専念します。ブドウは殆どが買い付けとなりますが、平均樹齢が40年以上のヴィエイユ・ヴィーニュ(古樹)であり、かつ無農薬か減農薬で造られたブドウのみを厳選して使用しています。ワインはブルゴーニュの優良な造り手から買い付けた1年樽(80%)と、新樽(20%)で熟成させます。樽香の影響を受けすぎず、そのブドウの持つ土地のテロワールを十分に体現したワインが造られることになります。自社畑からは最高のブルゴーニュ・ヴィエイユ・ヴィーニュを作っていますが、生産量が少なすぎるため国外への流通はほとんどありません。深味のあるルビー色、華やかなベリー香、果実味と後味の余韻が長く楽しめる、柔らかい印象の高品質赤ワインです。2003年は猛暑の年で、葡萄は一ヶ月も早く収穫されたため、グレート・ビンテージとして評価される一方で今飲むとややタンニンが強く苦い物が多いように思うのですが、このワインは非常にボディが豊かで柔らかく、ボーヌワインの長所が良く現れています。
 今回はデリケートな熟成香を味わえるように、ムーラン・ナ・ヴァンの方がブルゴーニュ・グラスで出されました。合わせる料理は、まわりに野菜が一杯添えられた豚肉のロティ。ジャガイモのピューレとポートワインのソースが赤ワインとの相性をより高めていて、非常に印象的でした。
 ここで一周年を記念して、もう1本赤ワインを追加。コート・ド・ボーヌの柔らかさに対しコート・ド・ニュイの硬質な味わいを対比させる意味で、用意して頂いたのが「マルサネ2002年」。マルサネはコート・ド・ニュイの北端にある、昔からしっかりした味わいの赤ワインを造っていた地域で、コート・ド・ニュイ・ヴィラージュとして販売したいと生産者達が申し出たところ、マルサネAOCを名乗ることを許可されてしまったといういわくつきの生産地です。品質の良さと価格の手頃さとで、近年注目を浴び始めた地域です。ブルーノ・クレールは新世代の造り手で、マルサネやフィサンで良質なワインを作っています。若く活き活きした香りと味わいで、まさに直球勝負のピノ・ノワールといった感じ。食事を締めくくるのにふさわしいブルゴーニュワインでした。
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ムーラン・ナ・ヴァン・キュヴェ・
エクセプショネル1996年
ニコラ・ポテル サヴィニ・
レ・ボーヌ2003年
ブルーノ・クレール・
マルサネ2002年
ビンテージについて

 ビンテージの良し悪しは、ワインを購入・注文する際に常に話題になるものです。ワインが熟成によって変化し、より複雑な香りを放つようになることから、いわゆる「飲み頃」が問題となりますし、収穫年の天候次第でブドウの仕上がりが異なることから、「当たり年」であるかどうかが問題となります。
 いわゆるビンテージ・チャートは、地域ごとに収穫年の出来不出来を表にしたものです。全てのアイテムで全てのビンテージを飲み比べて買うことはとても無理なので、皆そのチャートを頼りにワインを買い求めることになります。結果として有名な雑誌が発表するビンテージ・チャートの点数に従って、ワインの小売価格は大幅に変動します。

 一般的に生育期に気温が低く、収穫期に雨が降った年は評価が低くなりますが、品種によって最適な収穫期が異なり、また糖度は気温に、香りや酸度は成熟期間に連動するため、実際に見極めることはさほど簡単ではありません。
 天候の厳しい年には、生産者達はそれを乗り切るために様々な工夫を凝らします。収穫期の雨を見越して早めに収穫してしまうか、ぎりぎりまで果実が熟すのを待つかで結果は大きく異なります。かのシャトー・ペトリュスは、雨の降った1987年にはヘリコプターで水滴を吹き飛ばし、1992年には畑にビニールシートをかぶせたと言います。しかしそれらの涙ぐましい努力は、平均化されてしまったチャートには反映されません。従って87年や92年の銘醸ワインは、当たり年の1/3近い値段で叩き売りされてしまいます。そのような例外があることは、チャートの下に小さく表記されているものの、取引価格自体が影響を受けてしまうことは避けられません。
 ビンテージ・チャートは、ワインの質の評点というよりも、ワインの小売価格の評点と割り切った方が良いかも知れません。逆に言えば、オフビンテージでも優れた生産者は秀逸なワインを造っているので、うまく探し出せば価格以上の満足を得ることもできるのです。近年品質の安定している五大シャトークラスであれば、むしろオフビンテージのワインこそ狙い目と言えるかも知れません。
 ワインのビンテージは、むしろその年々の思い出を刻み込むための一種のしるしとして考えた方が正しい楽しみ方だと思います。たとえ当たり年だろうとなかろうと、バースディ・ビンテージのワインをもらったり飲んだりすることが楽しくないはずがありません。例えば、2004年にエリゼ宮でノルマンディー上陸60周年記念式典に出されたワインは、赤・白共に1989年物で揃えられました。エリゼ宮のソムリエは、「東西対立が終焉し、新しい世界が誕生した年として選んだ」と語っています。初めてドイツの首相やロシアの大統領が式典に出席したということもあり、1989年という年は、ボルドーの当たり年というだけでなく、まさに参加国にとって象徴的な年でもあったわけです。
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豚ヒレ肉のロティ イチゴのリゾット
おわりに

 このワイン会がはじまったのが昨年の5月なので、今回で丁度一周年を迎えました。第1回は10名ほどの集まりでしたが、今や参加者累計50名に達する会にまで発展しました。
 次回、記念すべき第10回はアメリカをテーマにします。その折に、6月にカリフォルニアで開催されるSWE総会の様子も報告したいと思います。

〈参考文献〉
 マット・クレイマー「ブルゴーニュワインがわかる」白水社
 堀賢一「ワインの個性」SoftBankCreative
 ジャッキー・リゴー「ブルゴーニュワイン100年のビンテージ」白水社
 堀越孝一「ブルゴーニュ家」講談社現代新書
 ヒュー・ジョンソン「ワイン物語(上・下)」日本放送出版協会
 石井文月「ワインの基礎力70のステップ」美術出版社
 ジャンシス・ロビンソン「ワイン用葡萄ガイド」WAND
 西川恵「ワインと外交」新潮新書
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