第五回目の会

 
開催日時:2006年11月18日(土)12:00〜15:00 

 場 所:丸の内「エスカール アビタ」

 参加人数:15名

 テーマ:イタリア-ピエモンテとトスカーナ(Piemonte & Toscana)

 内容 ワイン:フランチャコルタ・白「フェルゲッティーナ フランチャコルタ ブリュット」
        ピエモンテ・白「コントラット ガヴィ・ディ・ガヴィ・レ・アルネッレ2004年」
        トスカーナ・白
          「ファルキーニ ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ・アブヴィネア・ドーニ2004年」
        ピエモンテ・赤「カレッタ バローロ・ヴィニェッティ・イン・カンヌビ2000年」
        トスカーナ・赤「テヌータ・ディ・ペトローロ トッリオーネ2002年」

    食 事:前菜(白レバー/ラタトゥイユ/帆立ベーコン巻き/生ハム)、 穴子のフリット、
        野菜サラダ、 鶏肉のグリル、 デザート
(アップルパイ)

 Via Vino第五回を開催しました。今回は、イタリアのメジャーな産地のワインをテーマとしました。はじめてのフランス以外のワインということで、新しいレストランでの開催となりました。
 今回も15名の方々に参加いただき、お店が貸切だったことや、お酒の量が多かったこともあって、にぎやかな会になりました。
 それではワインエデュケーター宇都宮氏の気合いの入った解説をぜひご一読ください。

第5回目のワインについて
目  次
はじめに イタリアワインについて 白ワインのテイスティング
バローロとキャンティについて 赤ワインのテイスティング イタリアワインの歴史について
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はじめに

 これまで四回にわたってフランスワインをテーマに取り上げて来ましたが、今回はフランスと並ぶワイン大国であるイタリアへ目を向けることにしました。
 乾杯のための最初のスパークリングワインは、シャンパーニュではなくイタリアのフランチャコルタです。イタリアのスパークリングワインはスプマンテと呼ばれ、シャンパーニュ同様瓶内2次発酵で作られるものと、タンクで作られるものがありますが、前者の代表格がフランチャコルタで、18ヵ月以上の熟成が義務付けられた本格的な発泡酒です。(ちなみに後者の代表格はアスティで、中甘口のデザートワインとして親しまれています。) 
 フランチャコルタの名門、ベッラヴィスタの醸造責任者ヴェッツォーラ氏は、「ワイナート第27号」でこう述べています。「確かにシャンパーニュと同じ方法で造られますが、味わいは違います。シャンパーニュの酸は強く、不快です。それに比べて、フランチャコルタはフレッシュで、柔らかく、ボディがしっかりしていて、酸が低く、胃もたれしません」

 中世ヨーロッパの輝かしい歴史の表舞台にあり、古くから国際的なマーケティングを展開してきたシャンパーニュに比べ、フランチャコルタの名声は今世紀後半になってもたらされたものですが、恵まれた土地と職人技に対する信頼に裏打ちされた言葉の中に、フランスへの対抗心がはっきりと現れています。
 最初の一杯、「フェルゲッティーナ・フランチャコルタ・ブリュット」は、このベッラヴィスタで20年間勤め上げた醸造家ロベルト・ガッティ氏が満を持して独立して立ち上げた、1991年創立の新しい家族経営のワイナリーの作品。ビンテージ物の「サテン」で有名ですが、スタンダードタイプのブリュットでも、ブドウは全て自社畑のものを使用し、シャンパーニュ同様瓶内2次発酵の後、24ヶ月の熟成を経てから出荷します。キメ細やかな泡立ちと、トースト香やイースト香、ナッツなどの香ばしい香りは、シャンパーニュに通じるものがありますが、口に含むとグレープフルーツの様なフレッシュで爽やかな甘味が感じられ、より温暖な気候で造られたワインであることがはっきりと分かります。
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フェルゲッティーナ・
フランチャコルタ・
ブリュット
シャンパーニュに
負けないきめ細かい
泡立ち
イタリアワインについて

 イタリアはフランスと並んで、全世界の生産量の20%を担うワインの大生産国です。全国20州全てでワインの生産が行われ、生産量・消費量・輸出量はフランスに次いで世界第2位となっています。フランスもイタリアも、ローマ帝国以来の歴史あるワイン産地であり、近年消費量が落ちているとはいえ、その伝統の持つ重みは、なかなか新興国が対抗できるものではありません。
 さて、イタリアワインとフランスワインはどちらが優れているのでしょうか? コミック「神の雫」(講談社)では、1,000〜3,000円台でイタリア・フランス対決を行い、バリエーションの豊かなフランスに軍配を上げていますが、川頭義之氏著「イタリアワイン最強ガイド」(文芸春秋)では、実際にあらゆる価格帯で試飲対決を行い、全8回8勝0敗でイタリアの勝ちとしています。高いばかりで味の伴わないフランスワインなんか買うのはやめなさい、ということなのでしょうが、イタリアワインがコストパフォーマンスに優れ、非常に質が高いことは間違いないようです。

 ではなぜイタリアワインはフランスワインほどもてはやされることがないのでしょう。一番の問題点は、その分かりにくさにあるように思われます。フランスでは、ボルドーやブルゴーニュの格付や、シャンパーニュのような大手メーカーによる大掛かりなマーケティング戦略、ロマネ・コンティやシャトー・マルゴー等の超級銘柄の存在などにより、ワインがある種のブランドとして定着しています。ろくにワインを飲まない人でも、小説や映画、雑誌やテレビに出てくるフランスワインの名前をいくつか挙げることができるはずです。しかし一方のイタリアでは、一部に「スーパー・トスカーナ」や「モダン・バローロ」など最近注目を浴びるものが出てきてはいるものの、最高クラスとされるいわゆるDOCG(統制保証原産地呼称)ですら毎年のように銘柄が更新され、そこそこ詳しい人でも、どれが美味しくてどれがお買い得なのかすぐには説明できないのではないでしょうか。そもそも大抵の銘柄はやたらと長ったらしい、生産者なのか生産地なのか良く分からない横文字の名前が付いていて、バローロやキャンティのようなメジャーなものも、やたらと種類が多く格安の物から超高級の物まで千差万別、フランスワインも我々日本人には決して分かりやすいとは言えませんが、それにも増して取っ付きにくい面があります。
 それでも、そのイタリアで、フランスのような等級付けを導入するとしたら、歴史的な背景とワインの実力から、ピエモンテとトスカーナが筆頭に上げられるでしょう。ピエモンテのバローロ、バルバレスコはそれぞれイタリアワインの王と女王にたとえられ、長期熟成が義務付けられており、ブルゴーニュ同様特定の畑名をラベルに表記した物も造られています。キャンティも同様です。しかし実際のところ、イタリアの生産者の間では、格付けシステムによる順位付けは敬遠される傾向にあるようです。トスカーナのエノロゴの第一人者で、メッソリオを手掛けたルカ・ダットーマ氏はこう言います。
「どこの土地に何を植えればいいのか、フランスのように法律で決まっているのではなく、各人が分析して考えられるのがイタリアのいいところだし、もともと規定に合わせて造っていたら、良いワインはできないものだ。いいワインは自分たちの精神が造っていくものなんだ」
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今回楽しんだ
ワインを並べて
みました
白ワインのテイスティング

 まずはピエモンテの白、コントラットの「ガヴィ・ディ・ガヴィ・レ・アルネッレ2004年」と、トスカーナの白、ファルキーニの「ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ・アブヴィネア・ドーニ2004年」を用意して頂きました。共にイタリアの格付けでは最高位となるDOCGです。
 「ガヴィ・ディ・ガヴィ・レ・アルネッレ」は、100年以上も昔から北西イタリアを中心に栽培され続けている品種、コルテーゼを100%使用して造られます。輝きのある淡い黄色をしていて、フレッシュな果実と火打ち石のような香りがあり、キレ味の良さとミネラル感があります。イタリアの白ワインには、温暖な気候のためかやや酸味の足りない物が見受けられますが、このワインにはしっかりした酸味があり、調和の取れた心地良さがあります。コントラットは、1876年カネッリに設立されて以来、常に最高級ワイン造りをリードしてきましたワイナリーですが、このワインのボトルも非常にユニークな形をしていて、作り手の個性が現れているような気がします。

 「ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ・アブヴィネア・ドーニ」は、ヴェルナッチャ90%、シャルドネ10%から造られます。より温暖な気候を反映してか、色合いもガヴィよりやや濃く、甘酸っぱい、砂糖づけのフルーツの様な香りがします。辛口ですが、どこか甘い後味があり、そしてさらにオレンジやグレープフルーツの白い部分のような心地良い苦味もわずかに感じられます。
 合わせる前菜は、いかにもイタリアらしく、白レバー、ラタトゥイユ、帆立貝のベーコン巻き、生ハムなどの色とりどりの取り合わせ。そしてさらに穴子のフリットも。さっぱりしたイタリアの白ワインは、素材の味を生かした軽食と簡単に合わせることができます。
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ガヴィと
ヴェルナッチャ
を並べてみました
取り合わせが
楽しい前菜
ガヴィ・ディ・ガヴィ・レ・アルネッレ2004年 ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ・アブヴィネア・ドーニ
穴子のフリット
バローロとキャンティについて

 ピエモンテ州は、何と言ってもイタリアの長期熟成型赤ワインの代表格、栽培の難しい晩熟型の品種である黒ブドウ「ネビオロ」から作られるバローロとバルバレスコが有名です。ブドウ畑はランゲ、モンフェラート地方に見られる丘陵地帯の傾斜面で栽培されますが、これはアルプス山脈の造山運動で隆起した、石灰質の豊富な第三紀中新世の堆積土壌(泥灰土)に属しています。実際、「ピエモンテ」の「ピエ」は「足」、「モンテ」は「山」のことなので、州の名前がすなわち「山すそ」という意味になるのです。
 バローロは、1980年にトスカーナのブルネッロ・ディ・モンタルチーノと並んで、最初にDOCG(統制保証原産地呼称)に認定された銘柄で、その意味でもイタリアを代表する赤ワインと言えます。北の比較的冷涼な地域で、比較的石灰質の豊富な土壌のしかも傾斜面にブドウが植えられている点ではブルゴーニュを思わせますが、実際ピノ・ノワールに通じるしっかりした酸味と味わいを持っています。15世紀にフランス南西部からピエモンテを含むイタリア北西部を領有していたのは、ブルゴーニュ封建領主の流れをくむサヴォア家なので、あながち無関係なわけではありません。

 出荷前に三年以上、「リゼルヴァ」の場合は五年以上の熟成が義務付けられているバローロは、ある意味イタリアワインの中では古典的なタイプの赤ワインに位置付けられています。しかし、1787年にピエモンテを訪れたトマス・ジェファーソンが「マデイラのように甘く、ボルドーのように渋く、シャンパーニュのように泡立つ」と書き残しているように、当初は現在の物とは全く異る甘口ワインでした。辛口に仕立てて樽で熟成させるようになったのは1840年代以降のことです。当時のピエモンテの首相、後にイタリア統一を創唱したカヴールは、バローロで最初に辛口仕立てと樽熟成を行ったフランス出身のウダールを引き抜いてその手法を広めさせました。これがバローロ一帯に広まったお陰で、市場での名声が高まります。もっとも、バローロが「王のワイン」と言われるようになったのは、1861年に初代イタリア国王となったヴィットーリオ・エマヌエーレ二世が、王室の狩猟用別荘をバローロ出身の愛人ロジーンに任せたためだと言われており、フランスのブルゴーニュワインが、中世のブルゴーニュ公国の栄光にちなんで「王のワイン」とされたのとはだいぶ趣が違うようです。いずれにしても、イタリア王国の統一同様、バローロが「王のワイン」とされたのは最近のことなのです。
 1970年代に入ると、大商人がワイン生産を独占していたバローロでは、栽培農家のブドウが安く買い叩かれたため、大量収穫による低品質が問題となり始めます。また大樽による熟成も、小樽(バリック)による熟成が主流となっている隣国フランスに比べ時代遅れとされるようになりました。タンニンの豊富なネビオロを熟成させるためには、大樽で4〜5年は寝かせる必要がありましたが、小樽では2〜3年で済ませることができます。新しく畑を受け継いだ若い生産者達は、自分たちのワインをより美味しくするには、高品質なワインを造り続けるブルゴーニュの手法を取り入れるしかないと考え始めます。近年の「モダン・バローロ」「バローロ・ボーイズ」と呼ばれる改革は、古くからの慣習を打破し、ステンレスタンクや小樽熟成を取り入れ、栽培農家がそのままワイン生産者としてドメーヌ化することにより、品質を向上させ海外市場を開拓していくものです。この新しい流れに属するグループとして、パオロ・スカヴィーノ、スピネッタ、エリオ・アルターレなどの生産者が知られています。この活動は小規模な作り手に生産・販売ルートを与え、広く海外市場で活躍するチャンスをもたらしましたが、その一方で、イタリアワインの持つ地域性や伝統が失われることを危惧する声があるのも確かです。
 イタリアを代表するもう一つのワイン産地であるトスカーナ州は、半島の中心部に位置し、イタリアで最も多く栽培されている品種「サンジョヴェーゼ」から作られるキャンティが有名です。こちらも1984年にはDOCGに認定されています。キャンティのブドウ畑はイタリアの背骨、アペニン山脈の北西部に沿うように広がり、土壌は主としてガレストロ土壌(第三紀泥灰岩、石灰粘土質)が最適とされ、気候は山岳性気候に属します。また、古都フィレンツェ、ピサ、シエーナに囲まれた三角地帯の古いブドウ園のものについては、「キャンティ・クラシコ」を名乗ることができ、新たなDOCGとして1996年に認定されています。バローロとは違い特に熟成が義務付けられていないので、収穫年の翌年から出荷されますが、三年物には「リゼルヴァ」と表記することができます。
 キャンティの名は既に1398年頃の文献に登場しますが、その当時は白ワインだったと言われています。現在のように「黒い雄鳥」のマークで有名になったのは戦後になってからで、値段の割に味が良いと評判になりました。もっともその味にはかなりむらがあり、生産された地域で微妙に風味が違います。サンジョヴェーゼは、環境に敏感でクローンも60種近くあり、非常にバラエティ豊かな反面、トスカーナの土地の多くを占める砂質土壌や粘土質土壌では本領が発揮できないとも言われています。
 特に西海岸側において「スーパー・トスカーナ」というボルドースタイルのワインが脚光を浴びたのもその土壌の特性のためです。第2次大戦の始まる頃、トスカーナの西海岸ボルゲリの地を所有していたマリオ・インチーザ・デッラ・ロッケッタ侯爵は、大のボルドーワイン好きでしたが、戦争により敵国フランスのワインが入手できなくなると、自分たちでボルドータイプのワインを造り始めます。1968年に「サシカイア」をリリース、一躍注目を浴び、1994年にはDOCに昇格します。それに続きロッケッタ侯爵家と親戚関係にあるアンティノリ家が「ティニャネロ」「ソライア」をリリース。地中海性気候で降水量が少なく、砂質と粘土質の土壌が中心となるトスカーナの西海岸地域では、これらのカベルネ・ソーヴィニヨンを主要品種とするボルドースタイルのワインが徐々に定着しています。
 一方のキャンティは、19世紀に確立した製造法をそのまま継承した形で、1967年のDOC格付けの際トレビアーノなどの白ブドウのブレンドを義務付けてしまったお陰で、量から質への転換が始まった1970年代後半、前述のバローロ同様その品質が問題視されるようになるのです。当時良心的な生産者ほど、キャンティの名を捨ててスーパー・トスカーナへと走るようになりました。
 今回ご紹介する「トッリオーネ」のように、あえてキャンティを名乗らない銘柄があるのもその影響が強いように思われます。しかしその一方で、今まで「マルキオ・ストリコ」(「黒い雄鶏」のマークのあるもの)と「コンソルツィオ」の2つの組織に分かれていたキャンティ・クラシコの生産者が一つにまとまり、それによって消費の低迷に歯止めをかけ、素性の確かなワインを市場に提供しようという動きが活発化し始めました。古くて新しいワインの里であるキャンティ地区は、今後の動向が見逃せない生産地となっています。
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赤ワインのテイスティング

 いよいよ赤ワインのテイスティングです。トスカーナの赤、「テヌータ・ディ・ペトローロ トッリオーネ2002年」と、ピエモンテの赤、「カレッタ バローロ・ヴィニェッティ・イン・カンヌビ2002年」です。
 ペトローロは、1948年ルチア・サンジェスト(前述の「サシカイア」の現在のオーナー、ニコラ・インチーザ・デッラ・ロッケッタの従兄弟)とルカ・サンジェストの設立したワイナリーです。1716年には既に優良な産地として当時のトスカーナ大公が保護した地区にある由緒ある土地は、アレッツオ中心に広がるキャンティ・コッリ・アレティニャーノに含まれ、山岳地帯をすぐ背後に控えた急斜面にある30haの畑から伝統的なキャンティなどいくつかのワインを造っていますが、その中でもボルドー品種などを使用した「ガラトローナ」、そして今回試飲するサンジョヴェーゼを100%使用した「トリオーネ」の2アイテムが有名です。
 いざグラスに注がれてみると、まるでボルドーワインのように濃い赤紫色をしていて、飲む前から濃密な味わいを想像してしまいます。香りはダークチェリーのような黒い果実特有の重たいフルーツ香。果実味が凝縮され、それでいてとても柔らかい、ボリュームを感じさせる味わい。ある意味トスカーナらしい、ふくよかで余韻の長いワインでした。

 一方、12世紀にまでさかのぼるという名門テヌータ・カレッタは、ピエモンテの丘陵地帯、ランゲとロエーロで最も敬愛されているワイナリーで、除草剤や化学肥料などを極力排した有機的な葡萄栽培を行っています。バローロはバローロ地区(南西部) 、ラ・モッラ地区(南西部) 、カスティリオーネ・ファレット(南東部)、セッラルンガ・ダルバ(南東部)、モンフォルテ・ダルバ(南東部)の五つの地区に分かれていますが、カンヌビはサン・ロレンツォなどと同様に、ネッビオーロの栽培比率が62%と非常に高いバローロ地区(南西部)に属し、華やかだが芯が一本入っているようなスタイルで有名です。テヌータ・カレッタのバローロ・カンヌビは、24ヶ月間樽熟成させた後瓶詰めされ、さらに瓶内熟成を1年させた後出荷されますが、樽熟成の際には大樽と小樽を併用しているとのことです。モダン・バローロの近代的なスタイルと伝統的なスタイルの両方を兼ね備えていると言えるでしょう。
 前述の「トッリオーネ」に比べ、外観はやや明るいルビー色で、縁の方は若干オレンジ色を帯びています。こちらはピノ・ノワールを思わせるストロベリーの香りがあり、シナモンのような粒子の細かいスパイス香や、落ち葉の香り、そして若干のムスク香も感じられます。一口味わってみると渋味と同時にある種の甘味が口の中に広がり、非常にまろやかで、それでいて複雑味があり、加えて芯の強さも感じられました。まさに理想的なバローロです。この少し前にモダン・バローロの代表格として知られるパオロ・スカヴィーノのバローロ・カンヌビを飲んだことがあるのですが、やはり重厚さと複雑さを兼ね備えた素晴らしいものでした。この美味しさはカンヌビという畑の持つポテンシャルそのものに由来するのかも知れません。
 メインディッシュは鶏肉のグリルと野菜の付け合わせ・バルサミコソース仕立て。濃厚なバルサミコソースの風味が赤ワインの味を引き立ててくれました。
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バローロ
トッリオーネ
を並べてみました
鶏肉のグリル カレッタ バローロ・ヴィニェッティ・イン・カンヌビ2002年 テヌータ・ディ・ペトローロ トッリオーネ2002年
サラダ
イタリアワインの歴史について

B.C.8世紀頃  シチリアにてワイン栽培始まる。
B.C.146〜A.D.330年 ギリシャ、ローマ帝国支配下に
B.C.121年 史上空前の「偉大なるビンテージ」
B.C.100〜50年 シーザー、クラッススによりフランス各地にワイン栽培広まる
92年 皇帝ドミティアヌスによるブドウ栽培禁止令
280年 皇帝プロブス、ブドウ栽培禁止令廃止
476年 西ローマ帝国滅亡
14世紀〜16世紀 ルネッサンス
1449〜1559年 イタリア戦争
1861年 サルディーニャ王国によるイタリア統一、王国成立宣言
1921年 ムッソリーニのファシスト党、政権を握る
1924年 優良ワイン保護のための最初の法律制定
1937年 ワイン法の改正
1946年 国民投票で王制廃止、共和制となる
1963年 本格的なワイン保護法の制定
1975年 バルバレスコのガヤ、新酒(ノヴェッロ)始める

 近代化が遅れ、ワインの世界ではややフランスに先を越された感のあるイタリアですが、かの古代ローマ帝国の時代にはワイン文化の守護者として、フランスや他の諸国にワインを広める役割を果たしていたのです。
 紀元前750年頃、ロムルス兄弟によるローマ建国の頃、ワインはまだ厳しく制限されていました。その法律は婦女子の飲酒は厳禁、男性も35才から、もし婦人が飲んで騒いだら死刑、という厳しいもので、現在の未成年者飲酒禁止など比べ物にもならないほどです。およそ200年の間、ワインは殆ど飲まれず、神への捧げ物すら牛乳だったと言われます。ポエニ戦争の頃、ギリシャの神々に祈ったところ、御利益あってかハンニバルを打ち破り、ギリシャの神々と共にギリシャの文化がワインの水割りも含めて怒涛のように入ってきました。

 当時ワインは貴重品だったため、水で薄めて飲まれていましたが、その後大きな転換期が訪れます。史上空前の初のビンテージ、紀元前121年の登場です。生活水準の向上と共に味覚にも磨きがかけられ、産地だけでなくビンテージが意識されるようになったと考えられます。まだ瓶も樽もなく、土器や陶器に入れられていた当時のワインの保存性がどの程度なのか怪しいものですが、歴史家パテルクルスはこの紀元前121年物が150年経ってもまだ美味しかったと記しています。これを契機に医薬用以外は水割りだったワインがそのまま飲まれるようになりました。そしてシーザーの登場。三頭政治の時代、シーザーによってブルゴーニュへ、クラッススによってボルドーへ、ワインが伝えられることになります。またシーザーのガリア征服の際、ケルト族の使用していたビール樽を参考に、木樽による発酵と熟成が手法として導入されます。これら古代ローマ人の確立した醸造技術は、搾汁や保管の技術と合わせて、まさに中世に至るまで模範として受け継がれていくことになるのです。
 しかしローマ帝国の崩壊とともに、イタリアは分裂し、ローマ教会と神聖ローマ帝国との対立の中、イタリア半島はしばしば戦場となりました。その後北部の都市国家ヴェネツィア、ミラノ、フィレンツェなどが海運業や商業により繁栄し、ルネッサンスで黄金期を迎えましたが、イタリア戦争によりフランス、ドイツ、スペインの侵略を受け、結果的にスペインがナポリを、ハプスブルク家がミラノを領有し、実質的に国土の殆どが外国の支配下に置かれてしまいます。
 その後ナポレオンによる支配と分割を経て、イタリアが再び王国として統一されたのは1861年のことです。フランスがカペー朝、ヴァロア朝、ブルボン朝、ナポレオン帝政と長きにわたって統一国家としてヨーロッパに君臨したのに対し、イタリアはローマ帝国の崩壊以降、約150年前の統一に至るまで、長い間都市国家に分かれていました。このことが、権威を重視し、殆ど変更されない格付けや規制の厳しいAOCに縛られがちなフランスワインと、自由を尊び、DOCG・DOCといった原産地統制呼称にこだわらない生産者が続出するイタリアワインとの違いに反映されているように思われます。

 今回はイタリアワインを一通り味わった後、(ちょうど解禁後だったこともあり)持ち込んだボジョレー・ヌーヴォーもおまけとして空けてしまいました。お陰でアルコール摂取量はいつもの倍近くなってしまったかも知れません。ちなみにデザートはアップルパイでした。
 次回は、引き続きイタリアワインがテーマです。近年注目を浴びつつある南イタリアを取り上げ、南フランス同様、土地と気候に恵まれながら北に搾取され続けた、その苦難の歴史に思いを馳せながら、ワインを味わいたいと思います。

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おまけでいただいたボジョレー・ヌーボー等
お店でサービスしていただいたもの(左)
と宇都宮氏が持込んだもの(右)
デザートのアップルパイ