長谷川 誠    
はせがわ まこと

 ・父ちゃんと呼ばれる高校生(16)
 一人暮らし生活を満喫している高校2年生。かなりの綺麗好きで、愛する物は学生寮の(完璧に掃除した)自分の部屋という徹底ぶり。
 俺の部屋を汚す奴は何人たりとも許さねぇ! が信条である。世話好きで家事も好きなのだが、本人は認めていない。激しく突っ込み体質。

 長谷川 朋    
はせがわ とも 

 ・とーちゃんと呼ぶ孤児(みなしご)小学生(9)
 色んな意味でマイペース過ぎる唯我独尊少女。自分が面白いと思ったことに常に突っ走っている。何故か行き倒れていた所を誠に救われ、慕うようになった。朋は偽名、誠が一文字だったから自分も一文字にしたかったらしい。
 複雑な事情から両親に捨てられた経緯があり、預けられた施設から家出している。

 牧野 桜
まきの さくら

 ・ノリと勢いと体育会系女子高生(15)
 明るく、ノリもよく、 「〜ッス」口調で喋る変な女子高生。家事の達人である誠を 「師匠!」と崇めており、たまにゲリラ的に押しかけては料理を習ったりしている。
 誠以上に世話好きだが破滅的不器用という持病を抱えており、そのお節介は大抵悲惨な結果をもたす。(主に誠に)
 実は非常に良いところのお嬢様で、家では別人の如く大人しかったりする。外で暴れる(本人曰く 「ハジケてるだけっスよ」)のはその裏返しである。



 

 

             『パパは高校2年生!』

 


(学校から出てくる)
 
1 誠「それじゃーまたな! おう、また明日。……ふぅ、さて帰るか」
2 桜「師匠!」
3 誠「うを、なんだ桜か。人前で師匠は止めろつってるだろ」
4 桜「師匠は師匠っスよ! それより、今日の献立は何っスか?」
5 誠「まだ考えてねーけど、そーだなグラタンとか……」
6 桜「フフフ、グラタンっスね、なるほど。それじゃあ師匠、また伺いますっス!」
7 誠「あ、ああ。……ああっ? ちょっとまてくるのかうちに!? ……行っちまいやがった。ったく、まぁいいかほっときゃ」
 
 (下校し、自分の寮に向かう)
 
8 誠「さて、マジで今日の晩飯どうすっかなぁ。味噌汁と、グラタンと、あー、そういやチーズ残ってたかな、んー……買ってくか! あ、そだ、ついでに歯磨き粉も買わないと、後なにかなかったかな……」
9 朋「うぐっ!」
10 誠「そう、ウガイ薬も買わなきゃな。……って、いまなんか柔らかいものを踏んだような。そう例えば人間みたいな」
11 朋「ぅぅ……」
12 誠「ハ――うわぁぁっ!? マジで人が倒れてるぅ!? お、おい! おい! 大丈夫かっ! しっかりしろ!」
13 朋「ぅぅ…… お、お……」
14 誠「良かった、意識はあるな。踏んだりしてスマン! どこか痛いのか? 救急車呼ぼうか?」
15 朋「おなか、すいた…… 何か食べ物……」
16 誠「行き倒れかよっ!? 小学生、だよな。家はどこだ? 電話番号は? 携帯貸してやるからかけろ」
17 朋「おなかすいた……」
18 誠「それは分かったから。まずは親御さんに連絡を……」
19 朋「ごはんー、にくー、……あ、おにくだー…… ハグッ」
20 誠「うをををっ指を噛むなイテェッ!?」
21 朋「ごーはーんぅぅー、ごぉぉーーはぁぁーーんぅぅぅーー」
22 誠「わ、分かった、分かった、こうしよう。飯、食わしてやる。口、放せ。オーケー?」
23 朋「うん、ごはん、はやく…… おなかがきゅーきゅーいって……はぁぅ…」
24 誠「マジで腹減ってるみたいだな。あーあーよだれたらしやがって。……うをぅっ、こいつ汚(きたな)っ! なんだこの服!? マジで行き倒れなのか? ……はぁ、しかたねぇな」
 
 (学生寮の自分の部屋に帰り)
 
25 朋「はぐっ、はぐっ、はぐっ!(適当に御飯を食べてる演技をお願いします)」
26 誠「落ち着けよ、早食いは体に悪ぃぞ。飯はまだあるからよく噛んで食え」
27 朋「おはふぁりっ!」(訳:おかわりっ)
28 誠「へいへい…… 大盛りか? よしその目は大盛りだな。ほら」
29 朋「はひはと!(訳:ありがと!) はぐっ、はぐっ、はぐっ!(適当に御飯を食べてる演技をお願いします)」
30 誠「いい食べっぷりだな。うまいか? ちょっと冒険してグラタンにキムチ入れてみたんだが、どうだ」
31 朋「ふんっ! ほいひいっ!」(訳:うんっ! おいしいっ!)
32 誠「そうかそうか! で、お前、名前はなんてんだ? ああ俺は長谷川誠、ただの高校生、趣味とかは以下略な」(そうかそうか。は満足そうに)
33 朋「あたひは、ごほっ!」
34 誠「わ、飛ばすなバカッ!? あーもうだから落ち着いて食えつってるのに。ダイフキダイフキ……っと」
35 朋「(口に含んでら分を飲み込み)美味しかった、ご馳走様! えーっとね。あたし名前は…… じゃあ朋、友達いっぱいで朋っていう名前!」
36 誠「じゃあってなんだよ、じゃあって。何でもいいけど。じゃあ朋」
37 朋「はーい! なにかな、命の恩人さん。あ、この漬物美味しい」
38 誠「自家製だからな。じゃなくて、お前なんであんな道端で行き倒れてたんだ? 服も汚れてたし、なにがあったんだ?」
39 朋「服……? あーーっ! そういえば服っ!!」
40 誠「な、なんだよ」
41 朋「クサイ!」
42 誠「だろうな、見りゃ分かる。ドブにでも落ちたのか?」
43 朋「お願い、お風呂貸して!」
44 誠「ちょっと待ったその前に親御さんに連絡を…… ってうわわぁぁ脱ぐなよっ!?」
45 朋「だってべっちょりするんだよこの服! お腹空きすぎて気付かなかったけど最悪だよっ、かいでみてよホラホラッ!」
46 誠「ぅわっ、止めろ! 俺の鼻を汚染するな! 分かった風呂使ってもいいから洗面所で着替えてくれ!」
47 朋「(ニヤリと笑い)わーい、ありがとー」
48 誠「はぁ、死ぬかと思った……」
49 朋「あ、そうだ。Tシャツ貸して?」
50 誠「おう、そこの奴なら貸してやるよ」
51 朋「それと、この服を洗うことを許してやろう」
52 誠「なんで偉そうなんだよ。……はぁ、まぁこんな環境汚染物質をほっとくわけにもいかねぇか。よし、うちのドラム式洗濯機の驚きの洗浄力を見せてやろう。無駄に真っ白で驚くなよ」
53 朋「ありがと、おにーさん。えーと、長谷川さんだっけ」
54 誠「なんだよ」
55 朋「いい人だね」
56 誠「べ、べつに、フツーだろ。このぐらい。あ、そこの給湯器の電源入れないと温水出ないからな」
57 朋「はーい!」
58 誠「ふぅ。(朋がバスルームに入ったのを確認するぐらいの間を置き)……まぁ、お節介だとは自覚してるさ」
59 誠「しかしあいつ、何者なんだ? 家出少女ってやつか? その割には元気っぽいけど……、出たら色々聞いてみるか」
 
 (ピンポーン、とチャイムが鳴る)
 
60 誠「はーい今行きますー!」
61 桜「こんばんはっス」
62 誠「なんだ桜か、ハハハ、帰れ」
63 桜「待って待って待って下さいっス! なんでっすか! いきなり笑顔でお別れはないっしょ!?」
64 誠「今立て込んでるんだよ! あーわかった、とりあえず用件を言ってみろ」
65 桜「え、えーっとっスね。師匠に、グラタンのレシピを教えてもらおうかと……」
66 誠「残念、もう食った。よし帰れ」
67 桜「えぇぇぇっまだ6時っスよ!」
68 誠「早めにかっ込んで映画見たかったんだよ。というわけだ、じゃーな、レシピはまた今度教えてやるから……」
69 朋「ねーねー、Tシャツってこれでいい? 似合ってる?」
70 誠「おーおー似合う似合う、海人(うみんちゅ)Tシャツとは渋いのを選んだな」
71 桜「し、師匠、その子……」
72 誠「あん? ……ああ゛っ! こ、こいつはその違うんだ行き倒れてたのをたまたま助けてだなっ!?」
73 桜「隠し子っスね! 隠し子なんスねっ!! 師匠ったら妙に家事が上手いと思ったら既に子連れ狼だったんスねーーーっ!?」
74 誠「違ぁぁぁぁうっ!!」
75 朋「とーちゃんこの人だれー?」
76 誠「とーちゃんじゃねぇぇっ!!」
77 桜「うぅぅ、でも師匠、私は師匠の味方っスよ! 例え世間様が全て敵になっても私だけは師匠の味方っス!」
78 誠「だから違うって! ……ああくそ、玄関先で騒ぐと他のヤツラにまで誤解されちまうな。とりあえず桜、上がれ、ちゃんと説明するから」
 
 (暫くして)
 
79 誠「……と言うわけで、俺は行き倒れてたこいつを助けただけ。隠し子でもなんでもない、ドゥユーアンダスタン?」
80 桜「じゃあこの朋ちゃんは家出少女なんスね」
81 朋「ううん、違う」
82 誠「違うのか? じゃあなんで行き倒れてたんだよ」
83 朋「えーっとね、覚えてないの。記憶喪失だから」
84 誠「は?」
85 桜「記憶喪失?」
86 朋「うん、記憶喪失」
87 誠「ほんとか?」
88 朋「ほんとだよ! 何も覚えてないもん! 気付いたら倒れてて、踏まれたの!」
89 桜「じゃあ住所とか電話番号とかも分からないの?」
90 朋「うん、全然わかんない。持ち物も何もないし」
91 誠「うーん、ほんとーに記憶喪失なのか?」
92 朋「ほんとーに記憶喪失なの!」
93 誠「ほんとにほんとか?」
94 朋「ほんとにほんと!」
95 誠「じゃあ1+1は」
96 朋「2!」
97 桜「毎週土曜日朝7時からは」
98 朋「ザンガイガー!」
99 誠「パパの名前は」
100 朋「幸嗣(こうじ)! あ……」
101 桜「朋ちゃん、ダウトー」
102 誠「決まりだな。よーし朋、警察だ。警察に行こう。親と喧嘩とかしてるのかしらねぇけど、行けばあっちで取り持ってくれるって」
103 朋「警察はイヤッ! 行きたくない!」
104 誠「どうしてだよ。そろそろ帰りたいだろ? 臭いのも腹減るのももう嫌だろ?」
105 朋「イヤだけど。警察は絶対行きたくない。もっとイヤ」
106 誠「あー、ったく、じゃあどうするんだよ」
107 朋「……ここに居たい」
108 誠「はぁっ!?」
109 朋「お願いします! 何でもお手伝いするから! ここに置いて!」
110 誠「ちょ、ちょっと待て。無理に決まってるだろ! 学生寮だぞここは!」
111 朋「お願いとーちゃん! 掃除もするし料理も手伝うし、面倒はかけないから! ほらっ、洗い物もするし!」
112 誠「とーちゃんじゃねぇっての! あ、こら勝手に台所をいじるな!」
113 桜「朋ちゃんっ、危ない!」
114 朋「え? あっ」
 
 (かっちゃーん、と。食器を落としてしまう)
 
115 誠「あーあー大丈夫か? 動くなよ…… ってうをぉあぁぁぁっ!? これ婆ちゃんに貰った大事な皿じゃねぇかっ!?」
116 朋「ご、ごめん、なさい。こんなはずじゃ。ちゃ、ちゃんと片付けるから!」
117 誠「いい、動くな。桜、そこのちりとり取ってくれ」
118 桜「了解っス」
119 朋「ごめんなさい……」
120 誠「朋。悪いことは言わないから、帰れ。俺は手伝いなんていらねぇし、家出に付き合う気もねぇからな」
121 朋「家出じゃない、家出じゃないもん!」
122 誠「じゃあなんで警察が嫌なんだよ! 帰れないとでもいうのかよ!?」
123 朋「……そうだよ、帰れないもん」
124 桜「朋ちゃん?」
125 朋「帰れるなら、帰りたい! けど、帰れないんだもん! 帰る家はもう壊されちゃったの! パパもママもいなくなっちゃったから……」
126 誠「いなくなった……?」
127 桜「師匠。この子事情、ありそうっスよ」
128 朋「嘘じゃないよ、信じてよ……」
129 誠「話してみろよ、聞いてやるから」
130 朋「でも……」
131 誠「大丈夫だ、言いふらしたりはしねぇよ。ほら、話してくれなきゃ信じることもできねぇぞ」
132 朋「うち、いっぱい借金があって、それで暮らしていけなくなって。あたしだけ施設に入れられたの。でもそこ、うちじゃないから。あたしの居場所なんてなかった、だから抜け出したの」
133 朋「あたしは貧乏でもパパとママと暮らしたかった。でも帰ってみたら家がなくなっててて、パパもママも行方が分からなくなってて…… でも、あそこには帰りたくなくて。それで、それで……」
134 誠「行き倒れてたってわけか」
135 朋「うん……」
136 誠「そうか……」
137 桜「師匠、私からもお願いします。この子、置いてあげないっスか。(ここから小声で)きっと、寂しいんだと思うっス……」
138 誠「分かってるよ。事情は理解した。まぁ、そういうことなら置いてやってもいい」
139 朋「ほんとっ!?」
140 桜「さっすが師匠!」
141 誠「けど少しだけだからな! その先のことは自分で考えるんだぞ! ……でも、俺んとこなんかでいいのか?」
142 朋「うん、ここがいいの!」
143 誠「なんで?」
144 朋「とーちゃんがいるから」
145 誠「バカ、とーちゃんじゃねぇっての。俺なんかいてもつまんねぇぞ」
146 朋「ほら、こんなに温かいから」
147 桜「あはは、モテモテっスねぇ師匠。けど分かるっス、師匠は優しいっスからね」
148 誠「そんなことねーよ。……ま、重い話はこれで終わりだ。スイカ食うか? 冷えたのがあるぞ」
149 朋「食う、めっちゃ食う! とーちゃん大好き!」
150 桜「私も呼ばれるっス!」
151 誠「……ま、相手がいる方が張り合いがあっていいか」
 
 (暫くして)
 
152 桜「それじゃ、また来るっスね師匠」
153 誠「別に来なくてもいいぞ」
154 桜「何言ってるんすか、もう共犯っすよ、きょ・う・は・ん☆ それとも自分で女物の服買いに行くっスか?」
155 誠「是非お越し下さい、いつでも大歓迎です!」
156 桜「あはは。私のお古が残ってたはずっスから今度持ってきてあげるっスね。それじゃまたね、朋ちゃん!」
157 朋「うむ! 帰るがよい!」
158 桜「まーたーねー!」(頬引っ張ってびろーん)
159 朋「まはのおこひをおまひしておりまふー!」
160 桜「バイバイっス!」
 
 (桜が帰って行く)
 
161 朋「ねぇとーちゃん」
162 誠「なんだ」
163 朋「桜さんってさ。とーちゃんの…… これ?」
164 誠「違ぇし小指を立てるな! あいつは後輩だよ、主夫道のな。2年になったら絶対一人暮らしをしたいんだと、家近いくせにな」
165 朋「これじゃないんだ、ちぇー」
166 誠「だから立てんなっ。ったく」
167 朋「あー! とーちゃんとーちゃん! みてみて」
168 誠「なんだよ?」
169 朋「プチクロコダイル発見!」
170 誠「ヤモリだよっ! 明らかに似てないだろ!? 逃してやれ」
171 朋「はーい」
172 誠「ったく……」
173 朋「とーちゃんとーちゃん!」
174 誠「なんだよ」
175 朋「ベッドの下からこんな本が……」
176 誠「だぁぁぁお前にはまだ早ぁぁいっ!? ってただの雑誌じゃねぇか!!」
177 朋「とーちゃんとーちゃん」
178 誠「なんだよっ」
179 朋「ナイスツッコミ!」
180 誠「そりゃありがとうございましたーーっ!! ばっきゃろー!」
181 朋「わーっ、とーちゃんがキレたー」
182 誠「待ていこのクソガギィッ、父ちゃんで遊ぶんじゃねーっ、あと父ちゃんって呼ぶなーっ!」
183 朋「えー、今自分でとーちゃんって言ってたじゃん!」
184 誠「マジっ? うをマジだっ!? 適応してるじゃん俺……(がっくり)」
185 朋「えへへ、とーちゃんはあたしのとーちゃんなの! パパはいないけど、とーちゃんが居てくれると、寂しくないよ」
186 誠「ヘイヘイ、もういいよとーちゃんで」
187 朋「えへへー、とーちゃん♪」
188 誠「とーちゃんねぇ……」
189 誠「(まったく面倒なことになったな。まぁ、せめて心の傷が癒えるまでは、一緒に居てやるか……。とーちゃん、だしな)」