企画名 :『月下のヒーロー』
台本著者:坂之上・聖
登場人数:8人
台詞数 :250
あらすじ:
水野勇気という少年には勇気と言うものがなかった。だから、"ヒーロー"に憧れていた。
ある日、勇気は夜の公園で武装した人間に囲まれている少女、椎名と出会う。
勇気は無我夢中で椎名の手を引き助け出すが、彼女は名前だけ告げると逃げるように去ってしまう。
そしてまた次の夜中、勇気は再び椎名と出会う。
話していくうちに2人は段々と惹かれていく……
しかし、突然椎名が血を吐いたかと思うと勇気に襲い掛かり、その血を吸おうとする。椎名はリビングデッドだった。
逃げ出した椎名を追い、勇気は再び夜の公園で武装した人間に囲まれている椎名を発見する。
しかしその時にはもう椎名の意思は殆どなく、そこで行われていたのは単なるバケモノ狩りだった。
死に際に意思を取り戻した椎名の最後の言葉を見取り、勇気は嘆く。
武装した集団…… 銀誓館の面子が勇気に声をかけ、去っていったところで幕は閉じる。



―――――――――――― 本文 ――――――――――――

水野・勇気(いみずのゆうき/13/♂) <台詞数:114>
  (怖がりな少年。いつも強がって見せているが、肝心なところで踏み出せない。バンジージャンプなら台の上まで立って結局飛べないタイプ。そのためヒーローの在り方「誰かのために立ち向かえる」に憧れている。根は優しくて素直。背が低いのが悩み。声は高めの少年声がベスト)

広沢・椎名(ひろさわしいな/14/♀) <台詞数:79>
  (奔放な少女。趣味は夜の散歩と流れ星探しという風来坊な人。あっけらかんといつも笑っているタイプ。ただ、その奔放さは「どうせ死んでるんだし」という諦めから来るものである。夜中に放火され家族ごと一夜で死亡しており、その無念からリビングデッドとなった。勇気より学年は1つ上。声は普通でOK)

魔剣士 <台詞数:21>
  (美味しいところを全てもっていくアニキ。アネゴでもいいかも。パーティのリーダー格。リビングデッドである椎名を追っている)

青龍拳士 <台詞数:11>
  (子供っぽい性格。銀誓館のためと言うよりは仲間のために戦っている。感情の起伏が激しく怒ると手が付けられない。いつも魔剣士の背中に引っ付いてるとかなんとか。詠唱銃使ってるのはバイトが貴種ヴァンパイアとかだから)

白燐蟲使い <台詞数:12>
  (上2人の暴走を冷静にサポートするクールなリアリスト。イメージは勿論メガネ。一番容赦がないが一番優しいという妙な人)

母親 <台詞数:6>
  (イメージは赤縁メガネをかけた教育ママ、というかスパルタママ。子供を溺愛しすぎて前が見えていないタイプ。怖いので父親はいつも会社に逃げている)

モブ A<台詞数:4>
  (いじめっ子。それ以上でもそれ以下でもなく)

先生 <台詞数:1>
  (普通の先生。台詞をいじって女性にしても問題なし)








1   タイトルコール(魔剣士):『月下のヒーロー』

2   勇気「誰だよ俺の机に落書きした奴はっ!」
3   モブA「はーい俺どぇ〜〜す! なに、文句ある?」
4   勇気「あるに決まってるだろ! ふざけんなっ!」
5   モブA「ん〜、なに? 背が低くて聞こえないな〜? あ、もしかして怒ってる? ねぇ怒ってる?」
6   勇気「当たり前だろ!」
7   モブA「かーわいいー。ほら、じゃあやり返してみろよ! 殴ってみれば?」
8   勇気「…………っ」(息をかみ殺して怒りに堪えてる感じ)
9   モブA「あら何もしないの? じゃあ記念にそのノートにサインしてやるよ。ほら、ほらっ」
10  勇気「止めろよっ!!」

SE:ガラガラッ(と、教室のドアを開ける音)

11  先生「なんだうるさいぞ。全員席に着きなさい」
12  モブA「ちっ」
13  勇気「(くそぉ、くそっ、くそ……っ!!!)」
※括弧の中も普通に録音してください。(編集時に加工します)

(場面転換、塾帰り)

14  勇気「コーヒーコーヒーっと」

SE:ガシャコン(と、自販機の音)

15  勇気「もうこんな時間か。塾のクセにこんな深夜まで居残りさせるなよ…… はぁ。けど、帰りたくないな……」

SE:ドォンッ! (と、爆発音)

16  勇気「な、なんだ今の音っ!?」
17  椎名「きゃぁぁぁっ」(悲鳴)
18  勇気「悲鳴……?」

SE:タッタッタ! (と、走る音)

19  青龍「あちゃ、外したか!」
20  椎名「助けて! まだ死にたくない!」
21  魔剣士「そういうわけにはいかねぇんだよ。四の五の言わずここでサッパリ消え……なっ!!」(剣を振るう)
22  椎名「いやぁぁっ!」
23  勇気「や、やめろっ!!」
24  魔剣士「あんっ? ――アッチャァッ!? 誰だコーヒーなんか投げやがったのは!?」
25  勇気「うわ、やっちゃった。き、君! こっちに来てっ!」
26  椎名「あなたは?」
27  勇気「早く!」
28  椎名「う、うん!」
29  魔剣士「あぁぁ俺の一張羅が」
30  白燐「またイグニッションすればいいでしょう! 逃げられますよ!」

SE:タッタッタ! (と、走る音)

31  勇気「急いで! こっち!」
32  椎名「はぁ、はぁ、うんっ」

SE:タッタッタ! (と、走る音)

33  青龍「ちっ、一般人が一緒だと撃てないね」
34  白燐「マズイですよ、このまま繁華街に出られると手が出せません。いや、もう遅いですか。やりますねあの少年」
35  魔剣士「依頼失敗か」

SE:タッタッタ……

36  勇気「はぁっ、はぁっ…… こ、ここまでくれば、大丈夫、かな」
37  椎名「はぁ、はぁ…… ありがとう、ございます」
38  勇気「はぁっ、はぁっ……」
39  椎名「あの、大丈夫? 手、震えてるけど」
40  勇気「はぁっ、こ、怖かった……」(疲れではなく恐怖で過呼吸になっている)
41  椎名「え?」
42  勇気「え、あ! だ、だだ大丈夫に決まってるだろ! あのぐらい逃げ慣れてるし! は、はは! ほら、震えてない!」
43  椎名「あのー、足がまだ震えてるんだけど」
44  勇気「う! 震えてないのっ! 怖くもないしっ! き、君の方こそ大丈夫なの? 怪我とかしてない?」
45  椎名「うん、私は大丈夫。ちょっと掠っただけだから」
46  勇気「(心底安心した声で)よかったぁぁー。ほんと無事でよかったよ…… それにしてもなんだよあいつらっ!? 本物の銃火器持ってたよ! ヤクザ、もしかしてマフィア?」
47  椎名「分からない。いきなり襲い掛かってきたから…… けど、なんで助けてくれたの? 見知らずなのに」
48  勇気「それは…… だって君、困ってたでしょ?」
49  椎名「え、それだけ?」
50  勇気「あはは、今思い出すとちょっと早まったかなーって思うけど。でも警察呼んでる暇なさそうだったし。あ、そうだ警察! 交番まで送ってくよ」
51  椎名「ゴメン、それは遠慮する」
52  勇気「へ? なんでだよ、ぜってー危ないって!」
53  椎名「うん、ちょっと…… 理由があるから」
54  勇気「理由? それってあいつらに襲われてたのと関係が…… あ、分かった!」
55  椎名「(ビクッとして)な、なにが……?」
56  勇気「もしかして君、どっかの国のお姫様なんでしょ!」
57  椎名「は?」
58  勇気「それであいつらはテロリストとか! あるじゃん、訪問中の王族を狙うってヤツ」
59  椎名「……ぷっ、あは、アハハハッ! ないっ、それはないよっ、私日本人だし。もうこんな時に冗談言わないでよ(笑いながら)」
60  勇気「むぅ、そんなに笑わなくてもいいじゃんか」
61  椎名「あはは、ご、ごめん。えっと、私は椎名、広沢椎名。君は?」
62  勇気「……水野勇気」(むすっと)
63  椎名「水野君、助けてくれて本当にありがとう。それじゃあ私はもう行くね」
64  勇気「行くって大丈夫なの?」
65  椎名「うん、追っ手は……(外を覗き見る感じ)もう撒けたみたいだし。それじゃ!」
66  勇気「あ、おい待てよ! ……行っちゃった。広沢椎名か、なんだったんだろうな、あの子」

(場面転換)

SE:ドクンッ(と、心臓の音)

67  椎名「もう、こんなに進行してる……。安定するまで眠らないと。……でも、ようやく見つけたかもしれない」(自分の体が腐っていくのを見て恐ろしげにつぶやき。後半は好意をもてる相手が見つかったことへの喜び。後半に出てくる「願い事」とは死ぬ前に一度だけ恋がしてみたかったというもの)

(場面転換)

68  母親「またこんな点数を取って! どういうことか弁明してごらんなさいっ! ええ?」
69  勇気「でも、それ97点……」
70  母親「だから何? いつも言ってるわよね、100点以外はみんな0点だって」
71  勇気「でもっ!」
72  母親「でも? でも何かしら?」
73  勇気「…………っ」(理不尽さに怒りを感じるけど上手い反論が出てこなくて詰まる感じ)
74  母親「明日から塾の時間を更に増やしますからね。先生に連絡しておくから覚悟しなさい!」
75  勇気「……はい」

(場面転換)

SE:コッ、コッ……(と、夜道を歩く音)

76  勇気「はぁ、やっと終わった。なんだか塾帰りに自販機を探すのも日課になっちゃったな……」
77  椎名「ほれっ」

SE:ぷにっ?(接触する音見たいな感じのものを)

78  勇気「うひゃぁっ!?」
79  椎名「はい、コーヒー。この前のお礼。……どうしたの?」
80  勇気「ハー、ハーッ…… び、びっくりしたぁ」(心底驚いたって声で)
81  椎名「驚きすぎ、じゃないかな」(苦笑しながら)
82  勇気「う、うっさい。暗いのとか背後からとか、に、苦手なんだよ」
83  椎名「ふーん、前も思ったけど。水野君ってけっこう怖がりだよね?」
84  勇気「う゛っ」
85  椎名「ま、コーヒーでも飲んで落ち着いてよ。あ、宇宙人がCMしてるやつでよかった?」
86  勇気「銘柄は何でもいいよ」
87  椎名「じゃあはい」(軽くコーヒーを投げる)

SE:パシッ

88  勇気「ありがと……あのさ。やっぱ俺、怖がりに見える?」
89  椎名「うん、すごく」(きっぱり)

SE:グサッ(と、何かが刺さる音)

90  勇気「うぐっ」
91  椎名「でも、この前私を助けてくれた時はすごく格好良かったよ。だから別にいいんじゃない?」
92  勇気「そ、そうかな……。ん? そういえばあいつらはもういいの?」
93  椎名「あ、うん、今日は大丈夫みたい」
94  勇気「今日はって…… だとしてもこんな夜中に女の子が1人で出歩くのは危ないって。なんでこんなところをフラフラしてるのさ」
95  椎名「行く当てもないから……」(小声で呟くように)
96  勇気「え?」
97  椎名「なんでもない! 強いて言えば夜の散歩とか夜空眺めたりとか、好きなの。あとそれに今日は水野君を探してたし」
98  勇気「え、俺を?」
99  椎名「う、うんまぁ。えっと、水野君は勉強?」
100 勇気「まあね。けどもう終わったし、あのさ…… 良かったら付き合ってもいい? その夜の散歩」
101 椎名「家に帰りたくない?」
102 勇気「そんなとこ」
103 椎名「おっけー。じゃああのマンションの屋上に行ってみない? けっこう、星が綺麗に見えるんだ」
104 勇気「いいけど、あそこに住んでるの?」
105 椎名「やーねー違うわよ。忍び込むに決まってるじゃない」(にやり)
106 勇気「……え?」

(場面転換)

107 勇気「……ホントに来ちゃったよ」
108 椎名「んーいい風そしていい眺め! 100万ドルじゃないけど1万ドルぐらいならありそうじゃない? ……あ、もしかして」
109 勇気「いや高所恐怖症じゃあないから。うん、いい眺めじゃん。マンションでもこんなに綺麗に見られるんだね。知らなかった。空に手が届きそう」
110 椎名「隣、座っていいよ」
111 勇気「あ、うん。……広沢さんはさ」
112 椎名「椎名でいいよ、苗字、嫌いなの」
113 勇気「じゃあ、椎名はさ。いつもこういうところで空を見てるの?」
114 椎名「うん」
115 勇気「なんで?」
116 椎名「……笑わない?」
117 勇気「笑わない」
118 椎名「流れ星を探してるの。それでしか、叶わないような願いがあるから」
119 勇気「願い事?」
120 椎名「そ。内容は秘密だけどね。勇気は、なんでも叶えてもらえるとしたら、何をお願いする?」
121 勇気「……笑わない?」
122 椎名「笑わない」
123 勇気「俺は、……ヒーローになってみたい」
124 椎名「ぷっ」
125 勇気「あーーっ! 笑ったなコノヤロウ! 俺ちゃんと笑わなかったに!」
126 椎名「ご、ゴメン、でもなんで?」
127 勇気「俺は、怖がりだから。何かに立ち向かう勇気が全然無いから。だから憧れるんだよ、誰かのために立ち向かって勝ってみせる、そんなヒーローに」
128 椎名「ふーん。なら願う必要なし、それ」
129 勇気「ちょっ、何でさ!?」
130 椎名「それは願ってるだけじゃ絶対に叶わないから。逆に、自分でやろうって思えば、それだけで叶うから。立ち向かうってそういうことでしょ?」
131 勇気「でも……」
132 椎名「勇気なら絶対できる。だって、勇気は私のヒーローだもん」
133 勇気「え?」
134 椎名「ふふ。ね、また散歩に誘ってもいいかな。まだ行ってみたい場所がたくさん――――」

SE:ドクンッ!(と、心臓の音)

135 椎名「ウグッ」(胸を押さえてうずくまる)
136 勇気「え…… し、椎名っ!!?」
137 椎名「ぅ……ぁ……が…… ぅ、ぅぅううっ」(とにかく苦しそうにうめき声を)
138 勇気「ど、どうしたんだよっ! 胸が痛いの? 待ってて今救急車を」
139 椎名「だ、ダメッ……」

SE:パンッ(と、携帯を弾く音)

140 勇気「っ! なにを!?」
141 椎名「ハ、ハァ… びょういん…… 私 殺される……」
142 勇気「え。ど、どういう意味だよそれ!? じゃあどうすればっ!」
143 椎名「血が……」
144 勇気「血?」
145 椎名「血が、飲みたい…… ハッ、私、なにを。……グッ! だ、だめっ、逃げて!」(苦しげに)
146 勇気「バカ言うなっ、椎名を置いて逃げ――」

SE:ザクッ(噛み付くような音があればいいんですが、無ければこんな音で代用を)

147 勇気「ぐぁっ」
148 椎名「(液体をすする音)……ハァッ、ハァッ」
149 勇気「椎名、その歯……」
150 椎名「私、今…… え…… コレ、勇気の、血……? ヒッ、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」(叫びながら走り去る)
151 勇気「椎名ぁっ!!」

(場面転換)

152 白燐「追わなくていいんですか?」
153 魔剣士「後悔する時間ぐらいはくれてやる」
154 青龍「まったくお人よしなんだから」

(場面転換)

155 勇気「(それから、椎名は一度も姿を見せなかった。俺はいつものように毎日を送り続け、何もできないまま、ただ椎名を探し続けた)」
156 勇気「(結局彼女は何者だったのか、そんなことはどうでもいい。(※)椎名を助けたい。ただその想いが、胸を焦がし続けた)」(※ここに上の椎名の「私 殺される……」の台詞を挟みます)

SE:がちゃ(と、ドアを開ける音)

157 勇気「ただいま、と。……さすがにもうみんな寝てるか。疲れたし、着替えたら風呂入って寝よ……」

SE:がちゃ
SE:パチッ(と、照明をつける音)
SE:ひゅぅ……(と、風が吹き込む音)

158 勇気「ん? なんで窓が開けっ放しに……」
159 椎名「こんばんは、勇気」
160 勇気「椎名っ! いったい今までどこに――わぷっ!?」(唇をふさがれ)
161 椎名「ゴメンね、唇、冷たくて。ありがとう勇気、少しの間だけど、楽しかった。ホントに楽しかった」
162 勇気「な…… お別れにはまだ早いだろ! 君が何を抱えてるか知らないけど、力になるから! 一緒に戦おう!」(離れていく腕の中で必死に呼び止めようと)
163 椎名「ううん。これはどうにもならない、神様でもきっと無理だから。だから…… 最後に顔が見たかったんだ。うん、じゃあ、さよならっ!」(後半名残惜しそうに)
164 勇気「椎名っ!」
165 母親「勇気! 何時だと思ってるの!」
166 勇気「ゴメン母さん、帰らないかもしれない!」

SE:バンッ!(と、扉を開いて飛び出していく音)

167 母親「ちょっと! 勇気!?」

(場面転換)

168 勇気「はぁっ、はぁっ! どこだ、どこに行ったんだ……っ!?」
169 勇気「(考えろ、冷静になれ、急いで出てったって事は時間が無かったんだ。時間が無いのは、たぶん追われてるからだ。奴らに追われてるとしたらどこに逃げる……?)」
170 勇気「人が居る場所、繁華街かっ!」

SE:タッタッタ!(と、走る音)
(暫くして)
SE:ドォンッ!(と、爆発音)

171 勇気「この音はっ、椎名っ!!」

(場面転換)

172 青龍「アハッ、同じ手は食わないよー」
173 白燐「逃げ場は塞ぎました、この公園で決着としましょうか」
174 椎名「はぁっはぁっ……? だれ? あなたたち」
175 魔剣士「ん?」
176 椎名「まぁ、丁度いいや。喉が渇いたんだ…… 乾いて乾いて死にそうなの…… だから、吸わせてっ!」

SE:ブンッ!(と、腕を振るう音)

177 魔剣士「おっと! ついに自分すら誤魔化せなくなっちまったか。……っ!」
178 青龍「どうしたの?」
179 魔剣士「気をつけろ、あの爪、毒があるぞ」
180 椎名「逃げないでよ。吸わせてよ! 喉が、喉が渇くのっ!!」
181 白燐「待ってなさい。すぐ楽にしてあげますから」

SE:シュィィィンッ(と、アビリティの力を溜める音)

182 白燐「消えて、なくなりなさいっ!」
183 勇気「やめろぉぉっ!!!」
184 白燐「なっ!? ……くっ!」(白燐拡散弾を勇気に当らないようにギリギリで外した)

SE:ドォンッ!(と、爆発音)

185 椎名「きゃあぁっ!」
186 魔剣士「テメェこの前のガキッ! 危ねぇからそこどけっ!!」
187 勇気「椎名っ! しっかりして! 今傷塞ぐから!」
188 椎名「……誰?」
189 勇気「え」
190 椎名「もう、誰でもいい。喉が…… 血が、飲みたい…… ガァァアアアアアアッ!!」(後半はゾンビの叫び声のように恐ろしい声で)
191 勇気「しい、な?」
192 魔剣士「どけぇっ!!」

SE:ザンッ!(と、肉を引き裂かれる音)

193 魔剣士「ぐあぁっ!!」
194 勇気「ヒッ! な、なんで……」
195 魔剣士「わ、かったかクソガキ。あれはもうお前の知ってる女じゃねぇバケモノだ! 人の血を吸い生きてるふりをする死体なんだよっ!! ……るあぁぁっ!!」

SE:バキィィンッ!(と、弾き飛ばす音)

196 椎名「ガゥッ!?」
197 勇気「椎名っ! だ、だからなんだよ…… 死んでようと生きてようと俺を忘れようとっ、アイツが俺を救ってくれた椎名であることに間違いはないんだよっ!」
198 魔剣士「ほぅ、ならどうするってんだっ!」
199 勇気「助ける!」
200 魔剣士「どうやって!」
201 勇気「それは……」
202 魔剣士「いい加減にしろクソガキッ! てめぇは神様かっ!? 死んだ人間を生き返らせられるのかっ!!! 俺達だって救えるもんなら救いてぇんだよっ!! けど、できねぇから戦ってるんだよっ!! てめぇみたいなバカを泣かせたくねぇから戦ってるんだよっ!!!」
203 勇気「やって、みなきゃわかんないだろ…… 病院。そうだ病院に連れてけばっ!」
204 青龍「君、王者の風って知ってる?」

SE:何か、王者の風っぽい音を(何)

205 勇気「何を…… ぅ、か、は……っ? 体が、うごか」
206 青龍「そこで見てなよ。僕は、僕の仲間を傷つけたやつを許さない」
207 勇気「ま……て……」
208 青龍「らぁぁぁっ!!」

SE:暫く、戦闘する音
SE:キンッ(と、銃が弾かれる音)

209 青龍「ちっ、詠唱銃が! ……なんてねっ、今だ!」
210 白燐「はい」
211 椎名「シャァァァッ!!」
212 勇気「や、め、……ろ……」

SE:ドォンッ!(と、爆発音)

213 椎名「ガァッ!? ぐふっ……」(爆発が命中する)
214 白燐「諦めなさい。彼女は、もう持たない」
215 勇気「やめろ……」
216 魔剣士「はぁ、はぁ…… これで、終わりだっ!!」
217 勇気「やめろぉぉぉっ!!」
218 魔剣士「なっ! 離せおいっ!」
219 勇気「いや、だ……!」
220 青龍「あいつ、覚醒したっ!?」
221 勇気「もう十分だろ! これ以上椎名を傷つけるな! もう止めてくれっ! お願いだ、頼む…… ダメなら、ダメなら俺を倒してけっ!」
222 椎名「ハァ……ッ、ハァ…」(苦しげに呻く)
223 魔剣士「テメェ、分かってんのか」
224 勇気「間違いだって、分かってる。誰が正しいのかも、知ってる。だけど俺は、最期まで椎名の味方でいたいんだ」
225 魔剣士「チッ、バカが…… 勝手にしろ」
226 白燐「今の内に治療します」
227 魔剣士「ああ、頼む」

228 勇気「……余計なこと、しちゃったかな」
229 椎名「ホントだよ…… バカ」
230 勇気「ゴメン」
231 椎名「でも…… 格好良かったよ、ヒーロー……うっ!」
232 勇気「椎名っ!」
233 椎名「残念だけど、もう持たないみたい…… でも、頭だけはスッキリした、かな」
234 勇気「なんで、こんなことに……」
235 椎名「……泣かないでよ。悪いのは、死んでもまだ、生きたいと思ってしまった、私なんだから……」
236 勇気「なら俺だって同じだ! 血を吸うぐらいで生きていられるなら、俺は……っ」
237 椎名「ダメだよ。勇気。私をこれ以上バケモノに、しないで……」
238 勇気「……分かった。ゴメン、勝手なこと言って」
239 椎名「うん、これで良いんだよ。これでいい。……けど、本音を言うとね…… もっと勇気と、生きて、みたかったな……」(事切れる)
240 勇気「椎名? お、おいっ! ……くっ! ぅぅ。しぃぃぃなぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

(間を開け)

241 魔剣士「おいボウズ」
242 勇気「……なに」(涙声で)
243 魔剣士「この剣をお前にやる、お前の彼女を斬った剣だ」
244 勇気「なっ。ふざけてんのかアンタッ!!」
245 魔剣士「捨てたきゃ捨てろ。ただ、使いたきゃ使え、ヒーローになる気が、あるんならな」

(場面転換)

246 勇気「翌日…… その場から動けなかった俺は、朝に帰った。そしたら母さんが泣きながら待っていて、いきなり抱きしめられた。どうやら警察にも連絡していたらしく、相当心配したようだ」
247 勇気「その日から、何かが変わった。心に大きな穴が空いた代わりに、どんなことでも立ち向かえるようになった。勝てるかどうかは分からない。けれど立ち向かうことはいつだってできる。それが、椎名が教えてくれたことだ。……だけど。塾の帰りにはもう、コーヒーは買わなくなった」
248 勇気「あと、立ち向かうといえば。1つだけどうしても許せないものがある。アイツに従うみたいでちょっとシャクさけど――」

(場面転換)

249 白燐「あの子、銀誓館に誘わなくて良かったんですか?」
250 魔剣士「いいんだよ。アイツの進む道はアイツ自身が選ぶ。俺達の選んだ道に間違いが無いのなら。きっと、追いかけてくるさ」