企画名 :『気になるあいつ、雇いませんか?』
台本著者:坂之上・聖
登場人数:7人
台詞数 :176
あらすじ:
 家計を支えるためにバイトの日々を送る少年、浅野猛。
 しかし本日、彼はバイトをクビになった!
 学費にすら困る勢いだった猛はクラスメイトの赤羽雲雀に声をかける。
 「な、お前んちバイト募集とかしてないか?」
 密かに想いを寄せていた雲雀は二つ返事でOKを出した。
 これはもしかして、進展とかしちゃったり!?
 しかーしそうそう上手くいくとは限らないわけで。
 友人が冷やかしに来て誤解されたり。
 やたら怖い顔のお兄さんが来たり。
 何より猛が鈍感すぎたり、するわけで。
 結局最後もプレゼントの意味を察することも無く、日常は終わりを遂げる。
 ただ、明日もアイツは来るわけで…… 日常は続くのだ。
 

―――――――――――― 本文 ――――――――――――

浅野・猛(あさのたける/17/♂)
  (バイトで家計を切り盛りする貧乏人。いつも明るく元気だが少々アホである。声は普通)
赤羽・雲雀(あかはねひばり/17/♀)
  (家業である花屋の手伝いをしているツンデレな少女。とにかくツンデレ。声は普通)
赤羽・瑠璃(あかはねるり/43/♀)
  (フラワーショップ・ミドリの店長。面倒見のいい人だが人をからかうのも大好き。声は年長者っぽく)
毛猛・茂道(けもうしげみち/17/♂)
  (家が葬儀屋の爺臭い少年。髭面で背が高くムサ苦しい顔立ちだが愛嬌がある。声は低め)
店長
  (猛のバイト先の店長。性別はご自由に。声は年長者っぽく)
怖い顔のお兄さん
  (やくざっぽい人。とにかく怖そう。声は低めでドスを効かせて)
ナレーション(以下「ナレ」と表記)
  (ナレーションです)




タイトル:『気になるアイツ、雇いませんか?』

1   ナレ「気になるアイツ、雇いませんか?」(タイトルコール)

  (とあるコンビニにて)

2   猛 「店長、俺は無実です!」
3   店長「分かってるよ。私だって君みたいないい子を手放したくなんてないさ」
4   猛 「ホントですか! それじゃあ……!」
5   店長「でも、クビ」
6   猛 「えええええっ!? そりゃないっすよ!」
7   店長「猛君、社長の頭にレジのリーダーを当てて"ピッ"はさすがにマズイよ。いくらバーコードみたいだからってねぇ」
8   猛 「不可抗力っす! あの時は急に熱が出たせいで意識が朦朧としてたんですよっ! それでもシフト俺1人だったんで必死に……」
9   店長「バイト代には色をつけておくよ。悪いね」
10  猛 「そ…… そんなぁぁぁ」

  (赤羽家にて)

11  瑠璃「雲雀ー、ご飯よー」
12  雲雀「はぁい、剪定(せんてい)終ったらすぐ行くから。……良し!」

SE:2階の食卓に向かう、階段を上る音

13  瑠璃「はい、今日はアサリのお味噌汁よ。あ、そういえば雲雀」
14  雲雀「なに? お母さん」
15  瑠璃「あなた、好きな人とかいる? Bぐらいいった?」
16  雲雀「ブーーーッ」(お茶吹いた)
17  雲雀「な、なによいきなりっ!? Bって古っ!?」
18  瑠璃「だってもう3年生でしょ? お母さん心配なのよぉ。17年間も育てて浮いた噂ひとつ聞かないなんて、そんなのつま……このままあなたが青春をスルーしちゃわないか心配で心配で」
19  雲雀「べ、べつにあたしの勝手でしょそんなの!」
20  瑠璃「またそんなこといって。女子高生できるのは今の内だけなのよ? 人間二十歳(はたち)超えると老いるのよっ? 今の内なのよっ? くっ、でもそれが分からないのよね高校生ってやつぁ」
21  雲雀「あ、このアサリ美味しい」
22  瑠璃「でしょー? それ毛猛さんとこからお裾分けでね……じゃない! もぅ、早くいい旦那さん見つけてこのお店継いで欲しいんだけどなぁ」
23  雲雀「そういうことはお姉ちゃんに言って。ご馳走様! あたしもう寝るから、お休み」
24  瑠璃「まったく、ちゃんと歯を磨くのよ」
25  雲雀「分かってる! もうっ」

SE:バタンッ! と、ドアを閉める音

26  雲雀「(小声で)……いるわよ、好きな人ぐらい」

27  ナレ「翌日。学校にて」

28  雲雀「いるけど、脈ありの"ミ"の字もないから悩んでるんじゃない…… あの鈍感」
29  猛 「ぶえっくしゅ! ……それでもう大変でさー」
30  茂道「ぶあっはっはっは!!! 視察に来た社長の頭に"ピッ"だと! ひ、ひーっ、さ、さすが猛だ。相変わらずコントのような人生を送っておるなぁ」
31  猛 「笑い事じゃねぇーよ。今週中に代わりのバイト見つけないと学費すら危ういんだからなぁー、はぁ……」
32  茂道「が、学費か。相変わらずとんでもない家庭だな」
33  猛 「なぁ茂道ぃー、お前んち確か葬儀屋だったよな? バイト募集とかしてないか? 時給750円でいいからさ」
34  茂道「バイトか? ないとは言わんが……」
35  猛 「マジか!? 頼む、紹介してくれ!」
36  茂道「ふむ、式場内の案内やお茶汲みなどの仕事は確かにある。が、しかしだ。お前礼服は持っているのか?」
37  猛 「……こ、この制服じゃ、ダメ?」
38  茂道「ダメ」
39  猛 「いけずぅぅ〜〜」
40  雲雀「はぁぁぁー、なんであんなの好きになっちゃんたんだろ……」
41  猛 「ひーばーりー、助けてくれー、茂道がいじめるー」
42  雲雀「な、なによ気持ち悪い声だして。なにかあったの?」(猛が急に近寄ってきてちょっとビックリしてる)
43  茂道「実は猛がまーたスキル不幸を発動させたようでな。バイトをクビになったらしい」
44  雲雀「あぁ、また」(なるほど、という感じに呆れ)
45  猛 「雲雀さ、お前んち確か花屋だったよな?」
46  雲雀「そうだけど?」
47  猛 「バイト募集とかしてないか? 時給7…、いや600円でいいからさ」
48  茂道「必死だな……」
49  雲雀「バイトかぁ。うん、あるわよ」
50  猛 「だよなー、急に言っても無理だよな……ンデスッテェッ!? マジデ、あるの?」(ズイ、ズイッ! と身を乗り出す感じ)
51  雲雀「ま、まあ。一人ぐらいなら何とか、雇えないこともないけど。……えっと、くる?」(乗り出されて少しビックリしてる)
52  猛 「行く! ありがとう雲雀、ほんと助かる! お前は俺の高校生活の恩人だぁーっ!」
53  雲雀「ちょ、ちょっとくっつかないでよ! 恥ずかしいでしょ!?」
54  猛 「っとスマン! いやーマジ助かるよ! ありがとう!」
55  雲雀「べつに。こっちとしても丁度人手が足りなかったからいいわよ。あんたが困ってたからじゃなくて丁度たまたま偶然だからね!」
56  茂道「偶然ねぇ、くっくっく」
57  雲雀「なによ?」
58  茂道「いやいやなにも? 頑張れよ猛、色々とな」
59  猛 「? もちろんだぜ! 頑張って働くからよろしくな! それじゃ早速だけど、いつ行けばいい?」
60  雲雀「そうね、今日帰り大丈夫?」
61  猛 「いえっさー、いつでも大丈夫ですボス!」
62  雲雀「じゃあお母さんに紹介してあげるから一緒に帰るわよ」
63  猛 「おう!」
64  雲雀「って? え? 一緒に……?」(今更気付く)
65  猛 「……あれ? どうしたんだよ雲雀、顔赤いぞ」
66  雲雀「な、なんでもないわよ!? と、その…… じゃ、そういうことで!」
67  猛 「ってこら言ったそばから置いてくなよ!?」
68  茂道「くっくっく、若い若い」

69  ナレ「赤羽家1階、フラワーショップ『ミドリ』にて」

70  瑠璃「それじゃあ雲雀、後は頼んだわよ。ちゃんと猛君にお仕事を教えてあげてね」
71  雲雀「はーい」
72  瑠璃「私は奥にいるから、何かあったら呼んでね。後はお2人でごゆっくりどうぞ、うふ」
73  雲雀「お母さん!」
74  瑠璃「はいはい」
75  猛 「はは、面白いお母さんだな、ごゆっくりときたかぁ」
76  雲雀「……猛。分かってるだろうけど、変なことしたら殺すわよ」
77  猛 「わ、分かってるよ。だって雲雀だろ、うん、絶対大丈夫だ!」
78  雲雀「なんでよっ!」

SE:盛大に拳骨が落とされる音

79  猛 「ゴフッ!? な、なぜ」
80  雲雀「フン」
81  猛 「ぅぅ…… それで、花屋の仕事って何をすればいいんだ?」
82  雲雀「とりあえず掃除ね、素人はまず商品の位置と名前を覚えること。可能なら値段も覚えちゃって、レジで楽になるから」
83  猛 「うぃっす、了解」
84  雲雀「それと、もしお客さんが来たら……」

SE:カランッ、と鈴が鳴る音

85  茂道「ごめん下さい」
86  雲雀「はーい! ってなんだ茂道じゃん、どうしたの?」
87  茂道「2人が仲良くやってるかどうか気になってな。ん、猛のその盛大なタンコブを見るに順調とみた」
88  猛 「おかげさまで」
89  雲雀「買う気が無いなら帰れ」
90  茂道「カッカッカ、冗談だ。葬儀の献花に出す花を買いたいのだが、適当にみつくろってはくれんか?」
91  猛 「それならあれなんてどうだ? 胡蝶蘭(こちょうらん)、1鉢3万円、今ならセットでおとフグハッ」
92  雲雀「勝手に選ぶな!」
93  猛 「でも適当って」
94  雲雀「葬儀に使うっていってるでしょ。茂道のところは仏教式だから…… そうね、こっちの菊なんかどう? これとか良く咲いてるわよ」
95  茂道「ん、センスも値段も相変わらずお見事。それで頼む。あとは愛想も良くすれば完璧なんだがな」
96  雲雀「一言多い。あ、領収書書くんだっけ」
97  茂道「うむ、毛猛会館宛でな。ん、ありがとう。それでは頑張れよご両人?」
98  雲雀「大きなお世話よ、まったく。……ってまぁお客さんが来たらこんな感じでいいわ、レジはあたしがやるから。接客はやったことあるんでしょ?」
99  猛 「おう、店も雰囲気も分かったし任せとけって。……しかしお前ら仲良かったんだな、流石お隣さんって言うか、夫婦みたいだったぞ」
100 雲雀「え゛え゛、あ、あの髭もじゃと? ……いやぁーーっ!! それだけはいやぁぁぁぁっ!?」
101 猛 「そんなに嫌がらんでも……。けどちょっと羨ましいな。雲雀って俺と話すときはなんか硬いって感じするしさ」
102 雲雀「え、だって、緊張するし」
103 猛 「なんで?」
104 雲雀「なんでってそれは…… あんたが悪いのよ! 意外といいヤツだったりするから!」
105 猛 「ええっ、悪いのかそれ?」
106 雲雀「わ、悪くないけど」

SE:カランッ、と鈴が鳴る音

107 怖い顔のお兄さん「うぃっす! 邪魔するで」
108 猛 「お、早速客が!」
109 雲雀「あ、ちょっと!」
110 猛 「いいから任せとけって。いらっしゃいませー、どちらをお探しでしょうか?」
111 怖い顔のお兄さん「ああ? なんじゃワレ?」
112 猛 「ヒイッ!? て、店員でございます、です。(小声で)か、顔怖っ! いきなりやっさんかよ!?」
113 怖い顔のお兄さん「チッ、今日は瑠璃さんじゃないんかい。まぁええわ、見舞いの品が欲しいんや。そこのを10輪ばかし花束にしてくれや」
114 猛 「か、畏まりました。えっと、さっき雲雀はこの紙で包んで……」
115 怖い顔のお兄さん「違うっ! ゴムはピンクやっ!!」
116 猛 「は、はい! 申し訳ございません! ええと……(小声で) やっべぇ、値段分かんねぇっ!? ど、どうしよう!?」
117 雲雀「(小声)3675円」
118 猛 「さ、3675円になります」
119 怖い顔のお兄さん「ほら、つりは要らん」
120 猛 「え、ですが」
121 怖い顔のお兄さん「はよせんかい!」
122 猛 「ハッ、ただいまっ! ドウゾ! 毎度ありがとうございました!」
123 怖い顔のお兄さん「兄貴、今見舞いに行くさかい、まっててや……!」
124 猛 「ありがとうございましたー」

SE:車のエンジン音

125 猛 「……はーー、びびったー! 花屋って、案外大変なんだな」
126 雲雀「そりゃ客商売だもん。でもま、意外とやるじゃない」
127 猛 「へ、なにが」
128 雲雀「さっきの対応。新人君ってああいうとき結構泣きついてくるんだけど、あんたは逃げなかったじゃん。ちょっと格好良かったよ」
129 猛 「そっか? でも、お前の口から格好良いなんて言われるなんてな。頑張った甲斐があったな」
130 雲雀「バカ、ちょっと褒められたぐらいで図に乗るな」

SE:カランッ、と鈴が鳴る音

131 雲雀「ほら、次のお客」
132 猛 「へいへい」

133 ナレ「そして、夕方」

134 猛 「ふぅぅ、こっちの鉢は全部終ったぞー」
135 雲雀「じゃあモップとバケツ片付けといて、あと看板もクローズに」
136 猛 「それはもうやっといた」
137 雲雀「オッケー。じゃ、あがっていいわよ。あ、お茶でも飲んでく? というか飲め、もう淹れたから」
138 猛 「お、サンキュ。いやー、結構花屋の仕事って面白いな」
139 雲雀「そう? 普通は覚えることが多くて大変って言うんだけどね」
140 猛 「愚痴ばっかじゃつまんないだろ。それにほら、雲雀がいるからってのもあるしさ」
141 雲雀「あたしが?」
142 猛 「おう、お前がいると楽しいんだよ」
143 雲雀「そ、そう? そっかぁ」(嬉しそうに)
144 猛 「コントみたいで」
145 雲雀「ナンデヤネンッ!!」
146 猛 「ナ、イス、つっこみ……」
147 雲雀「はぁ、まったくもうあんたはほんとに……! はぁ〜。あ。そうだ。え、えっと、その、あんた。好きな花とかある?」
148 猛 「へ、何だよ突然」
149 雲雀「いいから教えて」
150 猛 「そうだなぁ、ドクダミとかチドメグサとかかな」
151 雲雀「却下! なんでそのチョイスなのよ!? 雑草じゃない!?」
152 猛 「雑草じゃない薬草だ! 我が家の命の恩人なんだぞ! 食べられるし!」
153 雲雀「却下! いいわよもう、自分で選ぶから。んー…… これ、いや。や、やっぱこれ、かな……」
154 猛 「なに探してるんだよ」
155 雲雀「はい」
156 猛 「はいって、いいのか? 売り物っぽいけど」
157 雲雀「いいの、記念よ記念。かわいいでしょ?」
158 猛 「かわいいけど、どっちかっていうと面白い形だよな。食べれるのか?」
159 雲雀「食うなっ!! 折角あげるって言ってるんだからちゃんと育てなさいよね。それ半陰性だから陽の当たる場所とかには置かないでよ」
160 猛 「分かった。ありがとな雲雀、大事にするよ」
161 雲雀「あ、あったり前よ! 下手に枯らせたらクビだからね!」
162 猛 「クビッ!? は、はは。こいつに俺の人生かかってるのか…… っといけね、帰って飯の支度しないと! それじゃ雲雀お疲れさん! お茶美味かった!」
163 雲雀「うん、また明日」
164 猛 「おう、また明日!」

SE:カランッ、と鈴が鳴り。猛が去っていく音

165 雲雀「フフッ」(上機嫌に)
166 瑠璃「ふーん、いい子じゃないの、このこの」
167 雲雀「わっ、おおおお母さんっ!? いつからいたの!?」
168 瑠璃「んふふー。お花を渡す辺り。雲雀が照れてる姿なんて何年ぶりに見たかしらね。で、何をあげたのよ? このこの」
169 雲雀「……ホトトギス」
170 瑠璃「へぇ、随分渋いのを…… あ、分かった。ホトトギスの花言葉でしょ」
171 雲雀「え゛っ、べ、べつに意識したわけじゃ」
172 瑠璃「たしかぁ……」
173 雲雀「わ、わーっ!!」
174 瑠璃「秘めたこい……」
175 雲雀「言うなぁぁーーっ!!」
176 猛 「ん? 叫び声? ……格闘技でもやってんのかあの家は? 元気だなー。さーて、今日の晩飯なににすかなー」