・佐倉純一(さくらじゅんいち)   (男女可)16歳。中学時は非行に走っていたが高校になって丸くなった、割といいやつ。情にもろく、なんとなく動物の言葉が分かる。 ・浅野深幸(あさのみゆき)   (女性のみ)16歳。高校に入ってから純一とクラスメートになった、活発で面倒見がいい。むしろワイルド。ワンタを密かに(?)おいしそうと思っているためよく噛まれる。 ・宮内圭介(みやうちけいすけ)   (男性のみ)26歳。いわゆるお坊ちゃんであり、親の七光りでいい会社に勤めている。自分勝手で飽きやすく、つまり小物な悪役。 『ワンタの言葉』 01純一「うーん……うーん……、どうしたもんかなぁ……お前は何がいい?」 02純一「やっぱりシロ、いやタロウか? だぁーーっダメだっ、俺のセンスは昭和初期のおっさんかっ!?」 03深幸「せんせー、ここにへんな人がいまーす!」 04純一「うをっ、深幸!?」 05深幸「なーに一人でもだえてんのよ、ここ公道よ?」 06純一「もだえてねーよ、悩んでるんだっつの。それに……一人でもないっつの、ほら」 07深幸「わ……かわいー! なにその子、純一のうちって犬なんて飼ってたっけ?」 08純一「飼ってねーよ、あんまりにもこいつが腹減ったって言うから菓子パン食わせたら勝手についてきてさ……」 09純一「追っ払っても戻ってくるし、しょーがねーから飼うことに決めたんだ」 10深幸「なに、てことは、捨て犬拾ったの? あんたにそんな甲斐性があったなんてねー」 11純一「元・捨て犬な、今日からこいつは俺の家族だ。けっこう可愛い顔してるだろ?」 12深幸「ワンタンみたい」 13純一「ワンタンかよ」 14深幸「うん、白くて小さくて可愛いじゃない。ふーん。で、名前はもう決まったの?」 15純一「ああそうだった! さっきまでそれで悩んでたんだよな……シロにするかタロウにするかって」 16深幸「タロウ……? 純一、それ本気? あたしがその子だったらあんたのこと一生センスナイゾウって呼び続けるわよ」 17純一「んだよ、それじゃ他にいい名前があるのかよ」 18深幸「とーぜん、ここはもうワンタンしかないっしょ!」 19純一「だからなぜワンタンっ!?」 20深幸「白いから。あと、おいしそうだから。見た目に分かりやすくていい名前でしょ」 21純一「……あいだを取って『ワンタ』にしよう、うん。決定だ」 22深幸「えー」 23純一「俺が飼うんだから決定権は俺にあるの」 24深幸「ぶーぶー、独裁政治はんたーい。……それにしてもこの子、さっきから全然吠えないね?」 25純一「ああ、それ、手術してあるんだよ。声が出なくなるようにする手術。それに去勢もしてあったし、でっかいゲージごと捨てられてたんだよな……元飼い主はきっと金持ちだぜ」 26深幸「なにそれ…… 自分の都合で手術しておいて、邪魔になったらぽい? なんか無茶苦茶腹立つわね」 27純一「ああ、すっけー腹立った。だから思わずゲージは蹴り壊して粗大ゴミに捨てちまったよ」 28深幸「ちゃんと分別はするんだ。まぁ、よく懐いてるみたいだし。頑張んなさいよ、あたしも散歩ぐらいなら手伝ってあげるからさ。よろしくねーワンタちゃ……あ゛たたたたっっ!!!」 29純一「ああ、先に言っとくけどそいつ。噛み癖あるから」 30深幸「遅いわ〜〜〜っ!」 SE:チャイムの音 31純一「ふぁ〜〜〜ぁ、よく寝たっと……お? なんだお前また校門で待ってたのか? まるで忠犬ハチ公だな」 32深幸「ご主人はあの飼い主とは違ってぐーたらと学校で寝てばっかだけどねー」 33純一「うっせーな、昨日は徹夜でこいつの家作ってたから眠かったんだよ」 34深幸「……まぁ、そーゆーところはご主人も可愛いんだけどね」 35純一「あん? っとっと、引っ張るなって! 分かったよ、公園に行けばいいんだな、分かったから落ち着けっつの! 汁につけて食うぞっ?」 36深幸「ねぇ、この前も思ったんだけど。ワンタの喋ってること分かるの?」 37純一「ん、ああ、なんとなくな。こいつ吠えないけど、その分目で喋るんだよ」 38深幸「ふーん、ドクタードリトルしてるわねー」 39圭介「すみません、ちょっと失礼。君が、この犬の飼い主かな?」 40純一「……そうだけど、誰だあんた」 41圭介「(犬を見て)うん、間違いない、ロバートだ。いや失敬、僕はこの犬の元飼い主だよ。どうなっているかちょっと気になってね」 42純一「お前が……」 43深幸「なに、いまさらこの子を連れ戻しに来たの?」 44圭介「はっはっは、確認しに来ただけさ。僕が知らないところで死なれてても後味が悪いからね。うん、いい飼い主が見つかってよかった。可愛がってくれよ」 45圭介「確認も出来たことだし。それじゃあ、僕はこれで……」 46純一「―――ふざけんなよ。てめぇ」 47圭介「なっ」(胸倉をつかまれ) 48純一「よかった? 飼い主が見つかってよかっただと……? 自分が飼い主だってこと忘れてんのか?」 49圭介「わ、忘れたもなにも。今の飼い主は君じゃないか……」 50純一「こいつはあんたのことを忘れてねぇんだよ!! 知ってるか、こいつは毎晩遠吠えするんだ。仲間を……飼い主を探して吠えてるんだよ。毎晩毎晩ご主人様はどこって泣いてるんだよ!! 吠えられない喉でな!!」 51純一「お前の都合じゃねぇんだよ!! こいつがどんだけ寂しい思いをしてたか分かってんのか!? 捨てられた奴の気持ちが分からないのか!!」(胸倉掴みながらがっくんがっくんやってるイメージ) 52圭介「ひ、ひぃっ。わ、分かった、暴力はやめろ。な? 連れて帰る、それでいいんだろ……?」 53純一「それが筋だけどな……けどそいつは、俺の決めることじゃない。もちろんあんたでもない」 54圭介「な、なに……? 何をさせたいんだ君は」 55純一「選ぶのはワンタだろ、ってことさ」 56深幸「ね、ワンタちゃん。どっちがいい?」 (ちょっと間) 57圭介「ふ、ふん。やっぱり僕のほうに来たか。当然だね、こんな乱暴者の飼い主なんて……あっっだだだだだっっ!!!!!」 58純一「知らなかったか? そいつ、噛み癖があるんだぜ」 59深幸「はい純一の勝ち〜」 60圭介「こ、この恩知らずが……」 61純一「あん?」(ドスを効かせて) 62圭介「分かった、帰るよ。くそ」 63深幸「あー、行っちゃった。ガラ悪いのってこんなとき便利よねー」 64純一「はいはいどーせ俺は不良ですよ」 65深幸「すねないすねない、ちょっと格好良かったよ?」 66純一「そ、そーかよ。……ちょ、アッハッハ! やめろってワンタ、飛びつくな! 舐めるな! そして噛むな!」 67深幸「結局嬉しくても噛むのね、ワンタって」 68純一「あーもう離れろ鬱陶しい! ったく。……行くぞワンタ、公園まで競争だ!」 69深幸「あ、ちょっと待ちなさいよ! あたしも行くー!」 70純一「秘儀、自転車っ!」 71深幸「あー! こらー、反則すんなーっ」 (最後の方の台詞はフェードアウトしていく)