『いたいのいたいの飛んでいけ』 (コンコン、とノックの音) 生徒A(以下A)01「失礼します……」 保険医(以下医)02「はいどうぞ。……どうしたの? どこか怪我でもした?」 A03「ぁ、あの……」 医04「ほら、立ってないで座って。(SE:ゴソッと座る音)はいよろしい。それじゃあ患部を見せてもらえ るかしら?」 A05「ぁ、いえ、そうじゃないんです。今日は、先生に相談したいことがあって……」 医06「私に? いいけど、何かあったの? ……あ、周りは気にしなくていいわ。今保健室に他の生徒は居な いから」 A07「はい。実は俺……転校、したいと考えてるんです」 医08「転校? 急な話ね。……他の人にはもう言ったの?」 A09「いえ、まだですけど」 医10「そう……理由を聞いてもいいかしら?」 A11「……聞こえてくるんです、ゴーストたちの声が」 医12「声?」 A13「はい、断末魔の声が。「助けてくれ」「殺さないでくれ」「痛い、痛い、痛い」……俺が刃を振るう度 に、彼らはそんな声を残して消えていくんです」 A14「だから……いつも、苦しくて。……俺、俺。もう、戦いたくないんです。戦場に、行きたくないんです、 あんな声はもう聞きたくないんです!!」 医15「……辛かったのね」 A16「(すすり泣く声と共に)……はい」 医17「いいわ、それは許されることだと思う。あなたのその気持ちは、とても優しいものよ……大事にしなさ い」 A18「先生……」 A19「でも俺、やっぱり戦わなくちゃいけないでしょうか。皆も必死で戦ってるのに、俺だけ逃げて……いい んでしょうか」 医20「いいって言ったはずよ? あなたが逃げることに文句を言っていい人なんて、この世界の何処にも居な いわ。それは断言する」 A21「でも……」 医22「銀誓館は軍隊じゃないわ。あなたが思った方向に進みなさい。教師としてあなたの未来を縛り付けるこ とはしないし、させないわ」 医23「(すっと息を吐いて)……ほんと言うとね、私も戦いは嫌いなのよ。ええ、大っ嫌い。毎日のように重 傷人が担ぎ込まれてくるし、……時には死者だって出るから。ほんと、こっちはかすり傷だって見るのはイヤ なのにね」(最後は苦笑する感じに) A24「かすり傷でも、ですか……? それじゃあ、なんで先生は医者に…」 医25「ええ、そんな傷でも、人が傷付いてるのを見るのはイヤだった。だから医者になったのよ、だったら治 してやるんだからって」 A26「……辛く、ないですか?」 医27「やーなこと聞いてくれるわね? 辛いに決まってるじゃない」 A28「ぁ、ごっ、ゴメンなさい!」 医29「(笑って)いいのよ、気にしないで。辛いけど、それだけの報酬は……それ以上の報酬をいつも貰って るもの」 A30「そんなにお給料いいんですか?」 医31「思ったけど、あなた天然とか鈍いとか言われるでしょ?」 A32「う……ご明察です」 医33「報酬ってのはね、あなたたちが生きていてくれることよ。戦場なんて場所に行ってもちゃんと帰ってき て、こうして学校に通いながらちゃんと育っていってくれる。……それを見守るのってね、保険医としては最 高に幸せなことなの。「ああ、この子達の命を守れてよかった」って、ね」 A34「……先生は、強い人ですね」 医35「そうでも無いわよ。人間、強い人なんて居ないんだから。……ところで、私の理由はこんなところだけ ど。あなたはなんで銀誓館に来たの? 理由……あるわよね。良かったら聞かせてくれない?」 A36「理由? 俺の……理由………」 親父37『バカヤロウ! 戦いなんざてめぇにゃ100年早ぇ!! このヒヨッコが!』 A38『――ヒヨッコでも戦える! 目の前で殺されていく人たちが居るのに見捨てるだけなんてもうイヤなん だ!! 俺は、……俺は戦う!! 生きる為に、生かす為に!!』 A39「………っ」 医40「どうしたの?」 A41「そっか、あの時誓ったんだ……なんで忘れてたんだろう」 A42「先生、俺……やっぱり戦います。思い出しました、理由を。……それに、そういえば今逃げ帰ったら親 父にどやされちまいますし」 医43「そう。決めるのはあなたの自由よ。だけどいいの? 辛くない?」 A44「辛いに決まってますよ。だけど、」 ゴーストから助けた子供45『お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!』 A46「――それ以上の報酬があるじゃないですか」 医47「あら、ちょっと見ないうちに言うようになったわね」 A48「ええ、おかげさまで」 医49「フフ、これにて診察は完了かしらね。そうだ、診察料としてちゃんといい男になりなさいね」 A50「はい……ってええっ!? なんですかその料金設定は!?」 医51「あら、これでも格安よ? 私の診察は高いんだから」