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  Olio e Primi Piatti(オリーヴ・オイルとプリモ・ピアット)


  ”プリモ・ピアット(第一の皿)”

 というものは、最も地方性をダイレクトに表す面白いものである。
  
 確かに、世代というものが替わり、世界各国で国際化が進むに連れて、イタリア国内でも多くの人々が旅行やら勉学のために、地方交流を行うようになったこの現代、”ラザニア””ペンネ・アッラ・アマトリチャーナ”等、幾つかの料理は全国何処のリストランテ、トラットリアで見かけるようになりました。それにしてもやはり、大雑把に言って、北イタリアの生パスタに、中部のミネストラ、そして南部の乾燥パスタとはっきり分類出来てしまうように、その土地で育った人には、”お母さんの味”として心に焼き付いている味、と言えば、この”プリモ・ピアット”であるでしょう。
 イタリアという、比較的”大食(品数)”な国でも、”パスタだけ食べていれば充分”という輩はとても多く、そう言う人達のことを”パスタ・アッシュッタイオ(一杯のパスタ料理のことを”Pasta Asciutta"と言うため)”と呼んだりし、美味しいパスタを食べることに掛ける情熱が只ならないもので時に驚きますが、つまり、作る側の人間にとっては、最も相手の出身地が気になってしまうのも、この”プリモ・ピアット”であったりするのである。
 要するにここでは、作ろうとしているその料理の出身地を把握してしまえば、何処のオリーヴ・オイルが必要になるかが、判明するので、基本的には簡単なことであり、まず間違いなく失敗はしないのですが、何よりもの基本、”サルサ・アル・ポモドーロ(トマト・ソース)”についてひとつ、考察を加えてみましょう。
 さて、この”ポモドーロ(トマト)”という、すっかりイタリア、そして地中海の象徴のように思われながら、実はアメリカ大陸から流れてきた”赤いフルーツ”。適度な湿気と大量の太陽光線を必要とするものであるだけでなく、”入り口”であったという理由もある為、基本的に南イタリアの生産物であって、細く胴長い体系で、水分が少なく引き締まった実であることから、”ホール・トマト”に向いている”ナポリのサン・マルツアーノ種”などで有名ですが、やはり、幾つかの小さな例外を除いて、本当に美味しいトマトというものはシチリアからナポリの間で採れます。よって、本物のトマト料理が伝統として根付いているのは、南イタリアであって、オイルの選択には当然南のオイルを、と言い切れてしまえそうですが、そう簡単なことでもない。どうしてかと言うと、そもそも”サルサ・アル・ポモドーロ(トマト・ソース)”というもの自体、使用するパスタの形によって調理法が変わるといっても過言ではないくらいの種類があって、使用される香味野菜、そして煮込み時間などが変わってきてしまうからです。基本的に言うと、タマネギ、人参、セロリを炒めてから、トマトを加えて1時間近く煮込んでしまう、”内陸部トマト・ソース”は大体のショート・パスタ向きで、ニンニクの香りを移したオリーヴ・オイルに、加えたトマトをさっと10分沸き立たせて終わりの”沿岸部トマト・ソース”はスパゲッティとの相性が良い。そして、幅太い生パスタなどは、いくらかのバターの香りを加えたほうが一般的には無難であるし、ペンネなどの腰のアルショート・パスタには、タマネギの香りがマッチする。というわけで細かい解説を始めると切りがないので、話を先に進めますが、ここで大事なことは、自分の作ろうとしているものを知る事。前々章の「DOP,IGP,BIO」のコーナーで、”エキストラ・ヴァージン・オリーヴ・オイルの香りが日本人の口に合わない”という誤解について話をしましたが、もう一つ、付け加える事実があって、それは、ある意味では”正しかった”ということ。というのは、基本的に良質のオイルは、たとえそれが香りの強いといわれる中部イタリアや、プーリアのものでも、”嫌な香り”のする物ではないし、決して料理の邪魔になるものではありませんが、むしろ気になるのは、その腰の強さ。一般的に”良いオリーヴ・オイル”の代名詞みたいに言われる、この種のオイルのことを、人はやたらに”加熱すべきでない”と言い切りますが、時と場合によりけり。その熟し切っていないオリーヴの”若さ”、と言うか”パワー”みたいな濃縮感と持続性が、”沿岸部トマト・ソース”を作る際に、フレッシュのトマトの持つ、やはり若い味と共に半端に調理されると、お互いの個性を荒々しく披露するもので、巧く溶け込まずに分離します(機械で溶け込ますと、これはこれで、アンティパスト用の素晴らしいソースになりますが、パスタには合わない))。つまり、”イタリア料理”イコール”乾燥パスタ”であった当時の日本で、一般消費者や料理人たちが、”香りが邪魔”と言い切っていたものは、商品知識の欠落であったのです。そして、”長時間煮込んでしまうなら、休めのオイルで”との理由で、”ピュアー”などのオイルが”内陸部型のトマト・ソース”に使用されていたのも間違いで、実際は、オイルの腰と味の強さが、煮込まれる中で巧くトマトに溶け込んでその味を引き立て、まろやかな風味を奏でるものです。
 ”プリモ・ピアット”というものを作るとき、ある一定の量の油分(貴方の想像以上の量でしょう)は必要で、パスタと絡むソースに潤いを与える働きをします。故に、選択と調理を間違えると、油分が浮き立って、不快感を残すどころか、消化にも悪い結果に繋がるので(朝起き掛けの”焼肉”が胃にもたれるのと同じ)、まずは使い方を、そしてその選択を習得する事が必要です。さあ、美味しい”パスタ・アル・ポモドーロ)に挑戦してみてください。