叶 千佳
叶千佳さんの退団を知らされたのは大劇場公演が終わってからで、
本当にびっくりしました。
本人は博多公演の時に決断したようですが、
殆どの人が発表まで予想もしていなかったことと思います。
月組時代から檀ちゃんと共に出ていたし、
最後の公演となった『花舞う長安』でも良く支えてくれました。
千佳さんの公演で強く印象に残っているものとしては、
先ずは『WEST〜』のエニィボディズを挙げなければならない。
本人は研二で怖いもの知らずだったと言っているが、
その若さによる思い切りの良い演技だけでなく、
後半では心情の変化も良く表現されていた。
エニィボディズは大人の世界へ足を踏込もうとはしているものの、
実際にはまだ子供の面影の方が強い少女であり、
千佳さんの持味にぴったりの役であったと言って良い。
役者には所謂「はまり役」というものがあるが、
千佳さんの場合にはエニィボディズがそれであり、
他の上級生の誰よりも向いていたと言って良いだろう。
演技面では2幕4場のドラッグストア、
これは駆け込んできたアニタが男達にいじめられる場面である。
最初は仲間の男達と一緒にいじめていたエニィボディズだが、
やがて一人離れて隅の方に行き、
アニタに同情するかのように小さくなって身を震わせる。
研二とは思えない出来栄えであった。
多くの観客の目はアニタと男達に注がれていたと思うが、
この時に千佳さんを見ていた人は幸運であったと言うことが出来よう。
この作品は著作権の関係で放送されることは無いと思うし、
販売ビデオにおいてもこの場面ではアニタを中心に映していることと思う。
本当はずっとエニィボディズを追っていないとその変化が分からないのだが、
もし少しでもその場面が映っていたとしたら、
憎しみから同情へと移る心の変化に注目して欲しい。
月組時代には同期生として西條三恵さんがいたため、
大きな役は彼女に回されることが多かった。
ベルリン公演で彼女がいなかった『LUNA』東京公演では、
西條さんの演じていたレポーター役を演じることとなったが、
決して西條さんの二番煎じではなく、
自分の個性を生かせるような役作りをやっていた。
同時上演のショー『BLUE・MOON・BLUE』の方では、
大劇場公演の時から常に4人一組で登場する役があったのだが、
その中ではウサギが一番可愛らしくて気に入っている。
また、東京では大劇場で千紘さんが演じていたザキを演じているが、
十分とは言えないまでも無難にこなしていたと思う。
新東京宝塚劇場の柿落し公演となった『愛のソナタ』では、
檀ちゃん演ずるゾフィーの子供時代を可愛らしく演じていた。
特にゾフィーとオクタヴィアンの会話をソファーの後ろで見守り、
オクタヴィアンの洗礼名をゾフィーに教える場面は強く印象に残っている。
プログラムでの役名を見ると「ゾフィー(子供)」となっているが、
演出家の意図は一般的な「子供時代」のゾフィーではなく、
あくまでも「子供」のゾフィーであったと思われるが、
その微妙なニュアンスの違いが良く表現されていた。
宝塚歌劇団には子役というものは無いはずだが、
こうした子役をやらせたら千佳さんはトッブクラスであった。
前回紹介した雪組の愛田芽久さんも子役が多かったが、
実際に子供が舞台に上がることの無い宝塚にあっては、
子役を演じることの出来る人も貴重な存在なのではないだろうか。
宝塚では男役のみならず、娘役と言えども年々身長は伸びているようだが、
子供を演じることの出来る生徒の確保もまた、
宝塚にとって絶対に必要なことであると思われる。
トップが替わって紫吹さんのお披露目公演となった『大海賊』のウミネコは、
何となく『WEST〜』のエニィボディズを思わせる雰囲気があった。
勿論演出家は違うしウミネコは男だったと思うのだが、
まだ一人前になっていない海賊、仲間内のアイドル的存在と言う感じで、
ジェット団におけるエニィボディズと重ね合わせたのである。
男役が演じる海賊はどうしても殺伐としたものになってしまうが、
そんな中に一人でもウミネコのような人物が交ざっていると、
全体がぐっと和やかな雰囲気に包まれてくる。
千佳さんの持味を良く生かした配役であったと思っている。
なお新人公演ではヒロイン役を貰っているが、
この時は勿論、新東宝劇場では他の作品も含めて新人公演は観られたことがない。
前売りでは入手不能、当日券も前日の電話予約が繋がった例がない。
星組に移ってからは、最初のショーでのハイレグ・レオタードが印象的であった。
宝塚で言う「ダルマ」という奴であるが、
あれ程のハイレグは今までに無かったのではないだろうか。
千佳さんは学年の割りには足が太い方(身長が低いため?)であったと思うが、
踊っている姿にはそのようなことを全く連想させないものがあった。
あるいは人なつっこい童顔であったために、
多少足が太くても意識させない雰囲気を持っていたのかもしれない。
また、子役が多い割には胸が大きかったので、
全体のバランスとしては良かったのかもしれない。
でも一番重要なのは、やっぱり楽しく舞台を勤め上げることではないだろうか。
スタイルが抜群な人であっても、
義務的に踊っているだけでは見ている方も楽しくはならない。
日本青年館で観た『ヴィンターガルテン』は、
今までのやったことのない役のようだったので興味深く観たのだが、
作品自体が意味不明な感じであり、
個人の評価を下すのは不適切な気がするので避けることにする。
最近の脚本では一部の人に役が集中し、
下級生には目ぼしい役が回ってこないような作品が多い。
宝塚歌劇団では団員のことを生徒と呼んでいるが、
これは公演そのものが勉強の場でもあるからではないだろうか。
そして生徒を育てるためには役を与えることは絶対に必要なことであろう。
『王家に捧ぐ歌』は作品としては悪い出来ではなかったが、
生徒を育てるという観点から見ると完全に落第である。
特に娘役にとっては受難の作品であり、
アムネリスとアイーダ以外はその他大勢と言うような状態であった。
千佳さんの場合には多少は重要視されてはいるが、
1本立ての作品だけにもっと台詞のある役を作って欲しかった。
次の『1914/愛』におけるマリー・ローランサンは、
千佳さんにとって非常に難しい役だったのではないだろうか。
単に実在の人物というだけでなく、
千佳さんの持味とは全く異なる人物像であったからだ。
場合によっては対極にある人物の方が演じやすい場合もあることと思うが、
ローランサンの場合には千佳さんの明るさが悪い方に出てしまったような気がする。
勿論影の部分を表現しようとする努力の跡は見られるのだが、
今一つ物足りなさを感じたと言うのが私の本音である。
最後の公演となった『花舞う長安』では、
先ず博多座での芳楽公主に違和感を覚えた。
若作りにした玄宗皇帝の妹と言う設定であるが、
そんな若さで女道士という設定にも無理があるように思われるのだが・・・
何れにしても道士と言うよりは可愛い一休さんという感じで、
修行を積んだ道士には見えなかった。
大劇場ではどう演じるか楽しみにしていたのだが、
残念ながら廃止されてしまった。
千佳さんの演技云々よりも、
最初の設定自体に無理があったことが原因であろう。
この作品でも玄宗と楊貴妃とを極度に重視している印象を受けたが、
娘役では梅妃以外では目ぼしい役は楊家三夫人くらいのもので、
千佳さん演じる琳花は楊貴妃の側にはいるものの、
もっと台詞の欲しい役でもあった。
ショーではプロローグの赤いピッタリとした衣装が色っぽく、
今までの千佳さんの印象をちょっと覆して印象的であった。
逆に黄色い衣装の花売り娘では、
千佳さんの少女っぽさが良い方向に出ていて楽しい場面であった。
退団発表が遅かったので大劇場では特別な場面は無く、
東京公演でも汐美さんとの場面がちょっとだけ増えているが、
出来ればラインダンスにも出演させて欲しかった。
愛田さんのように最後にロケットの中心で踊っても良いし、
赤いセーラー服でフニクリフニクラに参加するのでも良かった。
最後の東京お茶会に参加させて頂きましたが、
屈託の無い笑顔で本当に良く笑います。
きっと組の仲間たちとも楽しく過ごし、
笑いを振り撒いていたのではないかと想像しています。
昨日(1/14)宮中で歌会始が行われ、
来年のお題が「笑み」と発表されました。
今年のお題は「歩み」でしたが、
及ばずながら私も千佳ちゃんのために1首・・・
劇団を去りしその日も笑顔あり 新たに歩む道に幸あれ
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