映美くらら
HP開設1周年を記念して設けたこのコーナー、記念すべき第1回目の登場は、
次の作品で卒業することとなった映美くららさんです。
くららさんの場合、何れは伸びてくると思っていたが、
これ程早くトップ娘役に就任するとは思わなかった。
娘役は男役次第とも言われるが、タイミングが良かったことは確かであろう。
くららさんに最初に注目したのは、歌劇誌かグラフ誌のポートレート。
のはずなのだが、両誌のバックナンバーを何度探しても、
それらしきものは見当たらない。
どうやらグラフ誌2000年9月号の「めざせ、花まるっ!!」に載っていた写真を、
1頁大の大きさで載っていたものと思い違いをしていたようである。
今よりもぽっちゃりとしていて田舎っぽさも残っている写真だが、
将来を予感させる雰囲気も合わせ持っているように感じられる。
バウ公演「花吹雪恋吹雪」の茶々は、流石に研二なので大きな役ではなかったが、
初々しさが良い方に出て多くの観客が好感を持てたのではないかと思う。
翌年の同じくバウ公演「イーハトーヴ夢」では、
バウ公演とは言えヒロインとも言うべき大役をもらった。
既に月組トップ娘役就任の発表がなされていたが、
特に力むこともなく演じられていたのは良かった。
ただし1幕最後のトシが死ぬ場面では、もう少し工夫が欲しかった。
お披露目公演は新装なった東京宝塚劇場からであったが、
その「大海賊」ではエレーヌお嬢様を無難にこなしていた。
組替えと同時のトップ娘役就任であり、慣れない組でどうなるか心配していたのだが、
非常にやり易いように脚本が出来ていたように思われる。
宝塚は言うまでもなく男役主体の世界であり、脚本もそのように作られる。
しかしくららさんの場合、その後の作品においても脚本を書くに当たり、
かなりその存在を意識して書かれているような気がする。
勿論「ガイズ&ドールズ」のように原作から大きく変えられない作品もあるが、
宝塚以外では元々女性を主役とした作品が多く、
この作品でもくららさんの若さが生かせる脚本となっていた。
若さと言えば同時上演の「ジャズマニア」でも良く生かされていた。
初演時の真琴さんと檀れいさんの場合は大人の雰囲気が強かったが、
紫吹さんとのコンビでは若さを前面に押出していたように思われる。
芝居でもショーでも無理に背伸びをすることをせず、
自分の持ち味を生かせるように努力していたことが、
良い結果となって実を結んだと言って良いだろう。
なお「サラン愛」の淑英もひたすら前向きに生きる少女のような女性であり、
若いくららさんが力を付けるための作品として、
上演するタイミングとしては絶好の時期であったと思っている。
「長い春〜」もくららさんの子供っぽさが生かされた作品であり、
極自然に演じることが出来たのではないかと思われる。
やはり役を作りながら演じるのと、素のままで役に入り込めるのとでは、
舞台での印象は大きく異なってくるものである。
映美くららと言う適役がいたからこそ、
上演されることになった作品と言えるかもしれない。
次の「〜ドン・ファン」と「薔薇の封印」は、
何れも男役に力を入れて作られた作品であり、
トップとは言え娘役であるくららさんの印象は薄かった。
他に原作がある場合にはバランスの取れた作品となるのだが、
宝塚のオリジナル作品の場合には、
どうしてもこのように偏った作品になってしまう傾向がある。
脚本家も安易な作品に陥らぬよう、もっと努力すべきである。
くららさんはトップ娘役就任以来子供っぽい役が続いていたので、
地方公演の「ジャワの踊り子」では色っぽい大人の女性となることを期待していた。
CSで放送された前回の雪組公演を見ていたので、
奇しくも同じ名前のくららさんにどこまで迫れるか、
期待と興味を持って会場の名古屋へ向かったものである。
しかし残念ながら私の期待は裏切られ、
舞台のアルヴィアは子供っぽいくららさんそのものだった。
ところが、である。
普通ならここでがっかりするところだが、
くららアルヴィアは全く違和感がなかったのである。
CSの放送を見た時、アルヴィアは絶対に大人でなければ駄目だと思っていた。
それ故にくららさんにとっては難役であり、
どのように大人の女を演じるか楽しみにしていたのである。
くららアルヴィアは大人ではなかったが、子供でも無かった。
天真爛漫な映美くららがそこにいるだけで舞台全体が若返り、
彩輝アディナンも若返ってバランスが取れているような感じだったのである。
舞台に立つ人には努力して得られる後天的な技術的要素以外に、
生まれつき備わった人徳と言うか、性と言うものがある。
多くの場合、役者は役に自分を近付けて行くものと思われる。
しかしくらら嬢の場合には、くらら嬢が役に近付くと同時に、
役自体もくらら嬢に近付いてくるように感じられるのである。
これは上手い下手とか言う問題ではなく、
くらら嬢に備わった天性の徳としか言いようがない。
くららさんの最後の公演「飛鳥夕映え」は、これからの観劇である。
CSのニュースで流れた画像を見た限りでは、日本物と言うよりは古典物であり、
かえって「サラン愛」に近いような印象を受けた。
くららさんの場合、日本物の芝居がなかったので1度観たかったのだが、
残念ながらちょっと方向が外れたようである。
勿論エレーヌの洋装も良かったし、救世軍の赤い制服も似合っていた。
しかし「花の宝塚風土記」第5場の若い町娘は私のお気に入りであるし、
第8場の民謡も溌剌としていて良かった。
こうした和装での本格的な芝居を観たかったのであるが、
宝塚で実現しなかったのは真に残念である。
若くして、そして全く初めての組への配属でのトップ娘役就任。
周囲の冷たい視線もあったことだろうし、演技面での悩みもあったことと思う。
しかしそれらの重圧に耐えながら自分を見失わず、3年間良くやってきたと思う。
トップ娘役への抜擢も含めて色々と恵まれていた面もあったが、
男役を立てながらも独自の「映美くららの世界」を作ったことは、
高く評価しても良いのではないかと思っている。
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