アムネリスに関しては別項の「アムネリス将軍」の中でも書いているが、
最初に描こうと思っていた画像は途中で諦めてしまった。
細かいので面倒なこともあるが、これは時間をかければ描くことが出来る。
どうにも困ったのは『金』の表現で、
金色の色鉛筆を使っただけではどうしても表現出来ない。
黄金の衣装を纏ったアムネリスを見て最初に思ったのは、
これを『沈金』で表現出来ないだろうか、と言うことであった。
やはり金は本物の金で表現するのが最善であるし、
漆の黒と金色の対比は絶妙の一言に尽きる。
とは言っても素人が簡単に沈金細工に手を出せるとは思えない。
残念ながら諦めざるを得ないと思っていた。
有楽町駅から東宝劇場へ行く途中にある東宝ツインタワービル1階に、
能登ふるさと館と言うアンテナショップがある。
ふらっと寄ってパンフレットを眺めていると、
輪島で沈金細工の体験が出来ると言う記事が載っていた。
確かに簡単な図柄なら素人でも彫ることが出来るだろうけれど、
果たして無事にアムネリスが彫れるだろうか、と言う不安はあった。
わざわざ輪島まで出かけて行って上手く彫れなければ、
時間も金も無駄になってしまう。
迷った挙句輪島へ向かったのは、東京公演も残り少なくなった頃だった。
そして沈金の対象として選んだのは最後の蓮の花の場面であるが、
理由はこの黄金の衣装が一番映えると思ったからだ。
沈金の作業は初めに特殊な複写紙を使って漆の板に下絵を写し、
先の丸い特殊なノミで線を彫っていくのが基本であるが、
ノミの使い方で点画のような表現も可能である。
最後に漆を入れて金粉を載せれば完成だが、
この作業は体験工房の担当者がやってくれる。
最初に彫ったのは左の作品だが、
やはり初めての経験なので満足出来るものではなかった。
悔しいのでもう1作と思ったが時間的な余裕がなかったので、
板を持ち帰って自宅で彫ることにした。
普通の彫刻刀では専用の道具に比べて使い勝手が悪かったが、
何とか仕上げたのが上の作品である。
大きな失敗は無かったが、
うっかりミスでも修正が効かないのが沈金の厳しい所である。
写真では修正してあるが、実際には細かい傷がかなり存在する。
沈金細工は彩色も可能と言うことで1作目は着色してみたのだが、
細かい表現は難しいので2作目は普通に金一色とした。
なお『鉄歩』と言うのは将棋の駒作りで使っていた雅号である。
沈金に興味のある方は輪島工房長屋の
体験工房に是非どうぞ。