桜吹雪狸御殿(4月30日新宿コマ劇場)
コマ劇場の「狸御殿」シリーズも今年で3回目となったが、
今回は歌劇団創立90周年記念と言うことで、初の2本立て公演となった。
第一部の「桜吹雪狸御殿」は、基本的には昨年の作品と同じストーリーである。
なお副題として「新版」と謳っているのは、
2本立てとしたために上演時間が短くなってしまい、
昨年の脚本から割愛した箇所が生じたためであろうか。
初演時には題名も「桜祭り」狸御殿となっており、
昨年及び今年の作品とは脚本自体が大きく異なっている。
個人的には最初の作品が一番気に入っているが、
その理由は娘役出身者も活躍していたためかと思われる。
今回の作品でも、宝塚特有の華やかさはある。
いや、正確に言うならば、華やかさと言うよりは賑やかさと言った方が、
より的を射た表現であるかもしれない。
しかしそれが華やかであったにせよ賑やかであったにせよ、
残念ながらそこには「花」と言うものが無かった。
宝塚の舞台には、絶対に「花」が必要なのであるが・・・
男役とは言っても、宝塚出身者はそれなりの容貌は持っている。
しかしどう見ても麻路さきさんのきぬた姫では、
この公演の「花」とは言いがたい。
コメディーだからと言ってしまえばそれまでだが、
やはり宝塚関連の作品では「花」が必要ではないだろうか。
現に初演時の作品では、ドタバタしている中でも「花」が咲いていた。
男役中心と言われる宝塚の中にあって、
伊達に娘役をやっていたのではないのである。
初演時には観終わったあとで、やはり宝塚の作品だなあ、
と実感させられるものである。
きぬた姫の幼児言葉も昨年は成功したと言って良いだろうが、
2度目となるとやはりインパクトに欠ける。
今回初めて観る人もいるので全面的に否定する訳ではないが、
毎回同じことをやられてもうんざりするので、
来年以降はまた新しい脚本で上演して欲しいものである。
若葉ひろみさんは、初演時には関西弁が捲り立てるように飛び出していたが、
今回は役も変っていたのだが、平凡な台詞になってしまって物足りなかった。
上演時間が短くなったからこそ、こうした特長を生かせるような脚本にしないと、
終わったあとで印象の薄い作品になってしまうものである。
腹鼓締衛門と千畳敷金右衛門の関係も,初演を観た人は直ぐに理解できるのだが、
そうでない人は単に聞き流すだけで終わってしまうのではあるまいか。
まあそれでも物語の概要は分かるので、そう気にすることではないのだが・・・
この日は東京の高校生が集団で観劇していたが、
観客の殆どは宝塚ファンであると言って良いだろう。
それ故に宝塚ファンで無ければ分からない演出が随所に見られたが、
これはこの作品の特殊性から言って止むを得ないことと思われるが、
周囲の人が何で笑っているのか分からない人もいたことと思う。
地方からやってくる人は自由に日程が取れる訳でもないので、
偶然この作品に当たってしまった人は、さぞかし面食っていたことであろう。
新宿コマ劇場は演歌系の公演が多いので、この作品は全然違う作品だと言うことを、
チラシや看板などで明示しておくべきでは無いだろうか。
今回が初めてとなる第二部のショーに関して言えば、
90周年と言うことを意識し過ぎたのであろうか、
細切れになってしまったのが惜しまれる。
90年分の全てを表現しようとすればどうしてもそうなってしまうので、
もっと絞り込んで集中的にやるべきだったと思う。
全体的な流れはメドレーで次々と歌い継ぐようにし、
その間にソロ又はデュエットで1曲を通して歌い、
じっくりと聴かせる場面を設けるのである。
これは個人的な好みになってしまうが、
真織由季さんの歌は最後まで聴かせて欲しかった。
宝塚は卒業してもトップ経験者優先となってしまう傾向にあるが、
もう現役時代のことなんかに拘らず、
実力のある人はその個性を生かせるようにして欲しいものである。
公演プログラムによれば、
梅田コマでの現役生ゲスト出演の場面はかなりあるように見受けられる。
新宿コマでは1場面2曲だけであるから、
ショーに関しては明らかに梅田コマの方が見応えがあったことと思う。
現役生に限れば新宿コマでの出演は難しいかもしれないが、
関東在住の卒業生は多数いるであろうから、
ゲストコーナーはもっと充実したものにして欲しかった。
今回の公演では不満も多かったが、企画としては大変優れたものであると思う。
出演者の方も同窓会気分で楽しめるのではないかと思うが、
観る方としても他の劇団は勿論、
現役生の宝塚公演でも見られない一面を観ることが出来るので、
可能な限り今後も続けて行って欲しいものである。
ただし出演者に関しては固定してしまうことなく、
出来る限り大勢の人が出演できるようにするべきであろう。
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