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 パリの空よりも高く(3月1日東京宝塚劇場)

 菊田一夫の「花咲く港」と言う作品が原作とのことであるが、 どんな作品か知らないので調べてみたが、 舞台は鹿児島県西方の甑島、事業対象は造船で、 時代設定は太平洋戦争開戦直前とのことであった。 二人組の詐欺師を初めとして大まかな筋書きは原作に従っているようだが、 菊田氏の作品とは言っても「ジャワの踊り子」とは違って宝塚とは無縁の作品である。 宝塚の作品としてはやはりトップコンビの息の合った演技が見所の一つであるが、 この作品では両者がコンビとして舞台に残る場面が異例と言ってよいほど少なかった。 舞台設定を変えても菊田氏の呪縛から逃れることが出来なかったのか、 宝塚らしさに欠けた今一つ不満の残る作品となってしまった。
 テーマとしてエッフェル塔を選んだのは適切であったと思うし、 瀬奈・大空の同期コンビは息がぴったりと合っていて見応えがあった。 脚本も主役に偏ることなく多くの生徒に役を与えていたのは良いのだが、 娘役では彩乃さんと組長以外に目ぼしい役が無かったのはいただけない。 過去に上演された作品を見ると女優の出演は少ないようだが、 やはりこれも原作に縛られてしまったと言うことなのだろうか。
 物語の流れが平坦であり、 大きな山場が無かったのも印象の薄い作品となった要因の一つであると言えよう。 あえて山場と言えば嵐によって塔が倒壊の危機に陥った場面であろうが、 舞台上からは危機感に満ちた雰囲気は伝わってこなかった。 塔に限らず現場の建設責任者は設計者とは別に存在するのだが普通であり、 このような場面では設計者ではなくて現場責任者の手腕が問われることになる。 原作では存在しないのかもしれないが、 現場の作業責任者は資金提供者・設計者と共に鼎の足を成すものであるから、 是非とも登場させて欲しかった役柄である。
 なお一般的にはエッフェルがエッフェル塔の設計者と思われており、 この作品でもそのように設定されているようだが、 実際には設計者はエッフェルとは全く別の人物であり、 エッフェルは建設作業の責任者だったようである。 この点では嵐の中を塔建設の現場に向かったエッフェルは妥当な行動と言うことになるが、 それならば設計者としては別に人物設定をしておく必要があろう。
 主題歌は空に向かって伸びるエッフェル塔に相応しいもので悪くなかったが、 ミュージカル作品としては他に目ぼしい曲が無かったのが気になった。 最後に彩乃さんがソロで主題歌を歌う場面を作ったのは良かったが、 久し振りに歌唱力のある娘役トップが現れたのだから、 もっと歌う場面が多く作られていれば更に良かった。
 
 ショーに関してはタイトル通りダンスシーンのオンパレードという感じだが、 ダンスに関しては全くの素人なので良いとも悪いとも言えない。 それでも内容としては全体的にアメリカ的な印象を受けたのであるが、 フィナーレでいきなりフランス一色に染まってしまったのには面食らった。 恐らく芝居に合わせてフランスを表に出したのだろうが、 ある意味では非常に印象に残るフィナーレでもあった。

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