安定した人気を持つ作品であり、前作の「ファントム」好演の勢いもあってか、
前売券は入手できなかった。
当日券の情報を問い合わせると立見だが発売されると言うことなので、
確実に観られるように夜行列車を利用して出発した。
会場へは6時半頃に着いたのだが、結果的には9時過ぎでも大丈夫であった。
立見席は1階の後部で2列の指定席となっており、
早くチケットを購入した人は前列で観ることが出来る。
やっぱり早く来て良かったと思ったものだが、手すりが東宝や大劇場よりも低いので、
寄りかかって観ようとすると中腰にならざるを得ない。
色々と姿勢を工夫してみたのだが、最善と思われる姿勢は発見できなかった。
あるいは後列で壁に寄りかかって観た方が楽だったかもしれない。
足よりも首が痛くなる立見だった。
この作品において、スカーレットは男役がやることが多い。
トップはバトラーを、2番手男役がスカーレットをやり、
娘役はスカーレットUに回されるパターンだ。
最近では星組の全国ツァーで星奈優里さんがスカーレットを演じており、
これが唯一の例外となっている。
しかし宙組においてのスカーレット役は、花總さん以外にはあり得ない。
星奈さんの舞台は観ていないのだが、
ビデオ映像での麻乃佳世さんのスカーレットから受ける印象は、
やはり『かなり背伸びをしているな』と言うものであった。
スカーレットは宝塚の舞台では異例の男勝りの女性であり、
それ故に男役が演じることが多かったとも言えるだろう。
麻乃さんの場合には男役に負けじとスカーレットを熱演しており、
それはそれで一つのスカーレット像であると言うことが出来る。
花總さんの場合、エリザベートやトゥーランドットに観られるように、
男役以上の存在感を有している。
麻乃さんほど背伸びをしなくても、
勝気なスカーレットの性格を表現出来るものと期待していた。
しかし花總スカーレットは全然違う方向に進んでおり、
驚くと同時に感心させられた。
宝塚に限らず、帝劇の公演でもスカーレットは勝気で傲慢な女性であった。
そしてそれが多くの人にとってのスカーレット像であり、
特に疑問を持った人はいないのではないかと思われる。
しかし花總スカーレットは、時折は勝気な一面を覗かせるものの、
殆どの場面でコミカルに演じていた。
ふと「虹のナターシャ」の蘭子を思い出してしまったが、
コミカルとは言っても、勿論道化役ではない。
肩を怒らせて男と張り合わなくても、決して男に追従するのではなく、
独立した自分の世界を持っていることを連想させている。
これまでの舞台では予想も出来ないスカーレットであったが、
それは紛れも無くスカーレットそのものであった。
歌劇誌10月号の記事を読んだ限りでは、演出家の意図であるとは思えない。
また、雪組時代での新人公演が参考になったとも思われない。
恐らく新人公演の時には一路さんのスカーレットに近付くのが精一杯であり、
従来のスカーレット路線を歩んでいたものと思われる。
やはりトップ娘役として多くの作品を演じてきた経験から、
今回は今までにないスカーレット像を表現したかったのではないだろうか。
自分の考えを積極的に公表する人ではないようなので、
花總さんの真意を知ることは出来ない。
しかしこれは男役では絶対に出来ないスカーレットであり、
今後の公演への参考になるものと思われる。
ただし花總さんだから出来たスカーレットであり、
誰にでも出来ると言うものではない。
観る人によっては不満足に感じる人もいるかと思われるが、
私にとっては思いもかけぬスカーレットであり、
諦めずに観に行っただけの価値は十分にあった。
和央さんのレット・バトラーは、
花總さんのスカーレットに合わせたかのように軽いものであった。
バトラーと言うと、どうしても重厚な人物像が浮かんでくる。
これは勝気なスカーレットに対抗したものであると思われるが、
今回のようなコミカルなスカーレットに対しては、
余り重厚なバトラーであってはバランスが悪くなる恐れがある。
コンビとしてみた場合には適切なバトラー像であったと思われる。
アシュレの初風さんは、無難にこなしていたと言ったところであろうか。
アシュレはこの作品の中では一番難しい役であると言われるが、
それは宝塚の男役が非現実的な存在であるからではないだろうか。
ならば宝塚を意識しないで演じていれば、
自然にアシュレを演じることが出来るのではないかと思われる。
スカーレットUの初嶺さんは好演であった。
花總さんがかなり抑えて演技をしていた影響もあると思われるが、
スカーレットの分身として立派に花總さんの相手を務めていた。
スカーレットが娘役なので、Uの方は男役の方が面白いかもしれない。
メラニーの美羽さんは頑張ってはいたが、
メラニーの持つ『芯の強さ』と言うものは感じられなかった。
メラニーはスカーレットに比べると弱々しい印象を受けるが、
精神的には一番強い登場人物であると言って良いだろう。
内面を表現しなければならないだけに、
あるいは一番難しい役であるかもしれない。
専科の応援がないとマミー役は出雲さんしかいないが、
やはりこうしてみると層の薄さがより強く感じられる。
町の名士の御婦人方はそれ程難しくは無いと思われるが、
ベル・ワットリングの芽映さんは幾分若過ぎたように感じられた。
しかし全国ツアー公演は大劇場公演とは異なり、
若手にも役が回ってくることも特徴の一つであると言って良い。
若い人の演技が観られる機会は大劇場では少ないので、
大劇場公演とは違った目で観るべきであろう。
当日の出来栄えの良し悪しにこだわる必要はない。
これまで上演されたバトラー編との大きな違いとしては、
二幕の初めにアシュレとメラニーのデュエット曲が入っていることがあり、
これは日生劇場で取り入れられた場面と同じである。
植田氏の話では初風さんの出演に合わせて採用したそうだが、
あるいは今後の公演ではずっと採用されていくものと思われる。
終演後組長から地元である神奈川県出身者の紹介があったが、
35名中5名と言うのはかなり高い率である。
公演で回る土地の出身者を優先的に選ぶと言うことは無いだろうけれど、
それはそれで面白い趣向だと思うのだが・・・